第17話 sideカール 見え隠れする親の心
よろしくお願いいたします(#^.^#)
「カール。あれの婚約が解消された場合、お前はあれを伴侶とする気はないか?」
思いもよらない公爵の言葉に、私は戸惑った。
彼は、私にクリスティーンと婚姻を結ばないかと言ってきたのだ。そして彼の顔を見ると本気なのか冗談なのか、能面のような表情で感情が読めなかった。
しかし、実際にはよくある話だ。傍系が増えすぎると、何処かのタイミングで婚姻を結び、広がりすぎた家系を縮小させることを考える。しかし従姉弟等同士では、少々まだ血が濃すぎる。その点、はとこ同士なら殆ど問題はない。
自分も公爵家の後継者となる身であれば、そういった政略結婚は致し方ないと思っていた。けれど、その相手がクリスティーンとなると……。
私としては妹のように思って来たクリスティーンをそんな風に見ることが出来なかった。ましてや彼女の意思はどうなるのだろうか。
「公爵……私は、クリス様の事は大切な妹のように思っております。彼女と婚姻を結ぶことは考えられません」
正直に自分の気持ちを公爵に伝える。
妹のように接してきたクリスティーンを伴侶として迎える気になれない。けれど私とて、彼女の幸せを望んでいる。それ相応の見合った男がいるのであれば、その人と一緒になった方が良いと考えていた。それに――。
「それに国王が、王太子との婚約を解消するとは考えられないのでは?」
彼の長い睫に縁どられた冷めた瞳からは、この先、何かを企んでいるような、決意のような、そんなものを感じた。
「カール。貴族たちも段々と国王、王妃、王太子に反感を抱き始めている。もし、何かきっかけがあれば『血の誓い』の通り王家に対して反乱、謀反を起こす。そのためには、あれの婚姻を出来るだけ引き延ばす」
血の誓い――。
王位継承式に初代国王ユリウスに、国王と三大公爵家がする誓いだ。
国王は国を守り民を守ると誓いを立て、公爵たちは国王が誓いを破ることがあれば、王家に鉄槌を下すという。
王太子とクリスティーンの婚姻を引き延ばすとしても、伸ばせるなんて長くて1年ぐらいだ。それに、あの三人に関係のないものもいる。
「……ですが、引き延ばせたとしてもシャルロッテ様はどうなさるのですか? 第二王子もいらっしゃるというのに」
第二王子はクリスティーンと同じ歳だった。シャルロッテ様と第二王子は王妃と王太子に厄介者扱いされており、彼らほどの贅沢な暮らしはしていない。公爵だって、従姪のシャルロッテ様にまで巻き込む事はしたくないのだろう。シャルロッテ様も側妃に成りたくてなった分けでもない。強制的にさせられたのだ。
「シャルと第二王子のことは心配しなくてよい。こちらで何とかしよう」
もう公爵の中では、王家に対して鉄槌を下す、おつもりなのだろう。
私はその時までに他の公爵家から信頼を得られるよう努力しなければと思った。
あれから何年たっただろうか。
クリスティーンの学園の卒業まで、あと約3か月となる頃、公爵に大事な話があると夕方に呼ばれた。この日は朝から雨が降り続き、タタン、タタンと窓を打ち、いつもより寒い日だった。
「……公爵」
公爵の呼ばれた部屋に入ると、机に肘を乗せ両手を組み顎を軽く乗せ、目を瞑り雨の音を聞いているようだった。
「そこに座れ」
顎をクイッと動かし、目の前のソファーに座るように指示が出される。私がソファーに座ったのを確認すると公爵が向かい側に座った。
公爵は一度、ドサッと背もたれに寄りかかり、熟考した表情で長い溜息を吐いた。
「あれの卒業パーティーに婚約破棄されるそうだ」
「は?」
直ぐに、公爵の言っている意味が理解出来なかった。
「婚約破棄?」
誰が?
あれとは、クリスティーンの事だとは数拍置いて理解したが――。
「まさか……クリス様が王太子に婚約破棄されるのですか?」
「らしい……」
「らしい、とはどういうことでしょうか」
異様に落ち着いている公爵に私は少しイラつきを覚えた。
一人娘の婚約破棄をどうしてそんなに落ち着いていられるのだろうか。
しかし落ち着いているように見えるもののいつもと違う、なにか戸惑いを感じる表情だった。公爵もなかなか次の言葉を発しない。暫く無言だった彼は漸く重い口を開いた。
「二日ほど前に夢を見たらしい。卒業パーティーで婚約破棄されるという夢をな」
「ゆ、夢? ですか? それは……」
私は眉間に皺を寄せた。意味が解らなかった。理解し難い。一体誰がそんな馬鹿げた夢を見て、ロッソ公爵に報告したというのか。
しかし公爵の表情は冗談を言っているようにも見えない。
「そんな夢を誰が見たんだ、というような顔だな」
どうやら思っていたことが表情に出てしまっていたらしい。
公爵は然程、表情に変化はない。それでも僅かに少しにやけるような面白がっているような印象を受けた。
「この間のお前の野外訓練の怪我はどうして直ぐに処置出来たかのか、不思議ではなかったか?」
突拍子の無い話をされ、私は目を丸くした。確かに、一か月程前の山での訓練時に崩れた崖から足を滑らせ7~8メートル下に落ちてしまった。あちらこちら血だらけになり、左足首を捻ってしまって身動きが取れなかった。一晩ぐらいはそこで待っていなければならないと思っていたが、案外早くロッソ公爵に見つけてもらえた。
「その夢をあれが見たんだ。だから私が早めに発見することができ、手当も直ぐに出来た」
「え?」
ぞわりと鳥肌が立った。
あれとは、やはりクリスティーンのことだろう。
クリスティーンが私の怪我をするであろう、夢を見たというのか。そしてその夢を公爵が信じた。彼の話では、それ以外にもあるというのだ。
「まさか……クリス様にそんな能力が……」
公爵も初めは信じられなかったらしい。最初は大雨が降る、珍しい花が咲くといった些細なものばかりだった。しかし、段々と夢の規模が変わってきた。山崩れに人身事故、騎士の怪我。どれもこれも右から左に聞き流しても良いような内容ではなかった。そして、私の怪我も――。
彼女が前もって公爵に夢の内容を伝えてくれていたおかげで、私は早く発見され、直ぐに治療にも取り掛かれたというのだ。
そして今回は彼女の婚約破棄の夢を見たという。
ごく稀に特殊能力を持っている人がいるとは聞いた事はあったけれど、相当な稀れだ。そしてその稀な能力を欲しがる輩もいることも確かだ。クリスティーンのような能力を欲しがる者もいるはずだ。
「本当にそんな能力を持っているのなら――」
「持っていたらどうするつもりだ?」
一瞬、嫌な考えが過った。自分の傍に置いてくべきではないかと。けれど彼女の意志を無視してまでそんな事を考えたくなかった。
「時と場合によっては、あれをアルムに嫁がせる考えもある」
「……っ! そんな!」
「そう慌てるな、最悪の場合だ。だが、かなり向こうも慌ただしくなっているのは間違いない。今の王家ではアルムと戦になったとして勝てない」
まさか、公爵がここまで冷酷非道だと思わなかった。本当にそんな事をかんがえているのかと。
けれど、いつも感情があまり出ない公爵の表情が、苦痛に耐えるかのようになっていた。
「……公爵、本当はそんな事を望んでいないのですよね? そんな能力を持っているクリス様を他国に嫁がせるなんて」
下唇を噛みしめる公爵。そして唸るように「当たり前だ」と。
「本当に婚約破棄になれば、我々は王家に背く。そして、国を立て直す。次期国王にジルベール殿下を立てる。お前もそう心得ておけ」
そんな会話を公爵とした三か月後の卒業パーティーに、クリスティーンは王太子殿下から婚約破棄をされた。
もう彼女の見る『夢』を信じるしかなかった。
そして、公爵家たちが王家に歯向かう事となる。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたなら、応援やブックマーク、評価などいただけましたら励みになります。
次回更新は3月7日前後あたりの更新予定でので、
また読んでいただけると嬉しいです。




