第16話 sideカール 公爵家との関係
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私はカール・エバンス。
ロッソ公爵家の後継者となる予定だ。
ロッソ公爵は夫人が亡くなってからは後妻を娶らなかった。そのためロッソ家には子がクリスティーンしかおらず、そして、公爵は彼女に継がせるつもりもなく、当の本人も継ぐ意思もなかった。
クリスティーン嬢は4歳の頃からクラウス王太子と婚約もしていた。だから傍系から養子を取るという話になっていた。
元々、私はロゼオ侯爵家に三男として生を受けた。将来、爵位も当たらないだろうと、私は幼い頃から剣術にのめり込んでいた。
ある日、私が庭で剣の鍛錬をしていたときに、父の従弟に当たるロッソ公爵が我が家にやって来た。父の母、私の祖母がロッソ公爵の父と姉弟となる。
私は軽く挨拶だけ交わし、また直ぐに鍛錬に戻った。父と話をしている間に、どうやらその様子を見ていたようで、私の剣術の実力が公爵の目に留まった。彼の勧めで、数年、公爵家の騎士団で鍛錬をするようになる。そしてその後、私が後継者候補にと話が浮上した。
ただ、直ぐに後継者にするという訳でもなかった。預かっている男爵位と僅かな領地を与え、様子を見るという事だった。それがエバンス領である。本当に小さな領地だったが、何も与えられないと呆めていた私にとっては、僥倖な話だった。
このエバンス男爵というのが、元はシャルロッテ様のご実家だった。血筋を辿るとロッソ公爵家に辿り着く。
そして公爵にとってはシャルロッテ様は従姪にあたり、だからクリスティーンとシャルロッテ様、私は『はとこ』になるのだ。
公爵にとっては従姪となるシャルロッテ様だが、彼女のご両親が早くに結婚され直ぐに身籠られシャルロッテ様をお産みになった。従姪でも公爵とはそんなに歳が離れていない理由がそれだった。しかし、彼女が幼い頃に両親を事故で亡くし、彼女の父の兄、マッローネ子爵家が引き取り養女となった。エバンス家には子がシャルロッテ様しかおらず、そしてマッローネ子爵家はエバンス領を手にしなかった。ロッソ家に譲るといい、譲ってもらったロッソ公爵が、その爵位と領地を私に与えることになった。
そして私は15歳で爵位と領地を貰い、ロッソ公爵家で剣術と領地経営を学び始めた。
「ねえ、カール兄様。剣術の相手をしてもらえるかしら?」
鈴が転がるような声で私にお願いしてきたのは、ロッソ公爵の一人娘のクリスティーンだ。彼女は7歳で俺の8歳年下だった。
手には傷だらけの木剣を持っていた。
私の一日の学びが終わる頃、ほぼ毎日のようにクリスティーンは声を掛けてくる。
本来なら、淑女教育を受け、母親が行くお茶会などに一緒に行き、マナーを学ぶような年頃だ。けれど、クリスティーンの母親は早くに亡くなった。母親の代わりに父親のあとをついて行くようになり、その影響でいつの間にか木剣を握るようになった。
私は同じ目線になるように屈みこむ。
「クリスは剣術が大好きなんだね」
「はい! お父様のように強くなりたいんです。騎士になりたいです!」
紫の瞳を輝かせて、そう言った。
彼女は既に王太子の婚約が決まっているから、騎士にはなれない。けれどそれを今の彼女には言ってはいけないと思った。両方の口角を上げ、楽し気に私の返事を待っている。
「そうか、騎士になりたいか。それじゃあ、たくさん鍛錬しよう」
毎日、時間があれば一緒に木剣を振った。騎士達を間近で見てきていたからだろうか、上達が早かった。筋も良い。ただ、難があるとすれば『体力』だ。8歳としては、仕方がないのだろう。ましてや令嬢だ。なかなか体力はつかない。
「クリス、剣術の他に、ダンスもしたら良いんじゃないかな?」
「どうして?」
彼女の額から汗が流れている。私はハンカチでそっと彼女の額を押さえ、汗を拭った。
「ダンスを習うと剣術の上達も早くなると思うよ」
「ほんと?」
クリスは愛らしく首をこてんと横に傾ける。とても可愛らしい。私は末っ子で育ってきたが、妹がいたらこんな感じなんだろう。妹が出来たようで嬉しかった。
「ああ、ダンスはまず体力がつくし、ダンスも上手になれるよ。走って体力をつけるのも良いが、クリスはレディだからね。剣以外にもダンスも出来た方が素敵だよ」
「うん、わかった。カール兄様。ダンスもお兄様が教えてくれる?」
「私はダンスまでは教えられない。ちゃんとした教育係に習った方が良いよ。クリスが上手になったら、私と一緒に踊れるようになる。それにダンスの練習が終わったら、また鍛錬もしよう」
ロッソ公爵家も王太子の婚約者として、それ相応に淑女として育てなくてはならないはずだ。けれど、なかなか彼女は剣を手放さない。なら、同時に……と思った。淑女教育をきちんとこなせれば、私が彼女に剣の相手をする。そう言い聞かせれば、真面目な彼女なら両方とも頑張るはず。
そんな約束をクリスにして2週間程経った頃、私はロッソ公爵に呼ばれた。
呼ばれること自体不思議ではなかったが、相当な理由が無ければ呼ばれない。今回呼ばれた理由が、その時思い当たらず、わからなかった。
部屋に入ると、静かな室内にロッソ公爵が書類を捲る音が聞こえた。
「カール、あれにダンスを習えと言ったそうだな?」
『あれ』とはクリスのことだ。公爵は滅多に実娘を名前で言わない。殆どが『あれ』と言う。
私は唾をゴクリと飲み込んだ。書類を捲る手を止め、ロッソ公爵の冷めた瞳がこちらを見ているからだ。まさか、言ってはいけなかったのかと背に汗が流れた。
「はい。木剣を振っていてもクリス様には少し体力が無いように感じました。それに、王太子の婚約者ならダンスも出来ないといけないと思い……勧めました」
はあ、と短い溜息が聞こえた。
この溜息は何の溜息だろう。ダンスを勧めてはダメだったのか。
「あれをこのまま王太子の婚約者にしておくつもりか?」
「え?」
思いもよらない問いが聞こえた。あれとは、クリスティーンの事だろう。
「公爵は、反対なのですか?」
私は咄嗟にストレートに訊いてしまった。公爵は僅かに眉を顰める。
「……反対だ。何故、一人娘を王家に差し出さなければならない。ましてや王妃がいるにも関わらず、シャルに手を出すような身勝手な王家に」
表情は余り変わらない。あまり本音を語る公爵ではない。けれど、今の言葉には胸の中に秘めた公爵の怒りを感じるものがあった。
娘にはあまり関心を持っていない。国のため、領地民のためならと一人娘のクリスティーンを王家に差し出す、なんて冷たい父親なんだろうと思っていたが、違ったようだった。
実際、今の王家は皆が不満を漏らしている。
王妃が贅沢をしすぎる。
王太子を甘やかされ過ぎだ。かなりの我儘らしい。
王妃が使用人に対して乱暴を働く。
王家に収める税収が増え過ぎだ。
その他にも多々あるらしい。
「クリス様の婚約解消はできないのでしょうか?」
「解消出来るものなら、とっくにしている。しかし無理に等しいな。向こうから解消してくれれば話は別だが……」
今の王太子に見合う令嬢がクリスティーンだけだったらしい。その他家の適齢期の令嬢では爵位が低くなり王家の後ろ盾の役目を果たさないという。どうしても公爵家の後ろ盾が欲しいのは、現王妃が下位貴族出身で後ろ盾が無かったからだ。
我が国の公爵、侯爵、伯爵からの反対を押し切り、そんな王妃を国王が強引に娶り、挙句の果てに王宮に侍女として来ていたシャルロッテ様に手を出し子を産ませ、王妃はやりたい放題に誰もが嫌気を差していた。
「カール。あれの婚約が解消された場合、お前はあれを伴侶とする気はないか?」
公爵から唐突にそんな言葉を聞くとは思いもしなかった。
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次回更新は2月28日前後あたりの更新予定です。
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