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第二王子は公爵令嬢に忠誠を誓う  作者: 風月 雫
第1章

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第15話 継承式

よろしくお願いいたします(#^.^#)

 ――継承式当日。


 俺は王宮の一室の姿見鏡の前で、侍女たちに囲まれながら王族の正装に身を包んでいた。


 俺は王になる覚悟を決めた。それは良いのだが、未だに俺にはなんの力もない。あるのはただこの国の第二王子だったということだけだ。


 鏡の前で茫然と立っていると、最後に母のシャルロッテから背に深い赤色のマントを着せられる。


「どう? 素敵じゃない?」


 母が鏡越しに周りの侍女たちに訊くと、皆声を揃えて「はい、とても素敵です!!」と賛詞を言う。

 鏡の中の自分を見つめ、俺は首をひねる。

 そんなに声を揃えられて言われると、嘘くさく聞こえるのは俺だけだろうか。本当にそう思っているのかと、突っ込みたくなる。この色はダサくないかと。


「準備はできましたか?」


 一応、言葉遣いに気を遣ったロッソ公爵が部屋の扉を開け現れる。家紋の色の赤を主とし正装をした彼は相も変わらず、いきなり開け、扉を鳴らすことをしない。

 そして頭のてっぺんからつま先まで、冷気を含んだような蒼い瞳でじっくりと眺められる。何か言われるのかと、身構えてみたものの無言だった。無言は良かったのだが、何故か残念そうに短い溜息を吐かれた。

 

 どうしてだ? 何かいけなかったのか。


 多分、俺とロッソ公爵が並ぶとどちらが国王なのか、分からないからだろうか。

 それなら無理じゃないか、とこれも突っ込みたくなる。

 それほど彼は威厳に満ちていた。仕方がない。年の功だと言いたい。


「緊張されているのですか?」


 くすぐったくなるような言葉遣いで、次に部屋に入って来たのは、ブル公爵だ。彼だと分かるとゾワリと背筋に寒気が走る。

 今まで遠慮のない言葉遣いをしていたブル公爵が、いきなりそのような言葉を遣って来ると何か裏があるのでは、と勘繰ってしまう。


「あら? とても似合っておられますわ」


 もう一人、緑色の正装でそう言いながら、部屋に入って来たのはヴェルデ公爵だった。

 ニコリと微笑むヴェルデ公爵に、多分お世辞だな、俺はと小声で呟く。


 継承式前に三人の公爵たちは俺を揶揄いにきたのだろうか。あれから、公爵たちとは話す機会が多く、三人にはかなり慣れてきたつもりではいたが、今日の正装の彼らたちは、いつもより威厳を示していた。


 今日の主役は俺だ。しかし、これでは本当に誰が国王なのか分からなくなるな。しっかりしなければ、またお飾り国王になってしまう。


「本来ならば、大体的に儀式を執り行うはずですが、簡易なものになってしまい申し訳ありません」


 そう頭を下げたのがヴェルデ公爵だった。

 これは仕方がないこと思う。正当な方法で継承するわけでもない。国の財政にゆとりがあるわけでもない。俺としては、畏まった儀式は苦手だから、直ぐに終わるならシンプルの方が良かった。


「ヴェルデ公爵、頭を上げてください。俺はこれで良いんです」


 そう言うと彼は眉を下げ、本当に申し訳ない表情をする。それにしても簡易的にと言っても、この服装は派手過ぎると思う。乳白色の生地に襟やカフスは暗めの赤色の生地が使われており、肩には金の刺繍や紐などの装飾がされている。ボタンは宝石が使われていた。


 母や周りのものは、一生に一度だけだからと言う。もう一度俺は姿見鏡で自分の姿を見た。


 一生に一度だけ――。

 まあ、継承式は一度だけだと思うが、王族の正装はこれから着る事はあるのではないのか。


 実は、この服装も新調した訳でもない。本来、クラウスが着る物を俺のサイズに手直ししてもらった。体格もあまり変わらなかったから、それで良いと皆に伝えていた。ちょっと二の腕の辺りが少々、小さく感じたが。これは鍛えているものと鍛えていないものの差なのだろう。


 しかし、公爵たちの正装の方がカッコよく見えるのは気のせいだろうか。

 王家の色が白だから仕方がないのかもしれないが、どうもこの乳白色が気に入らない。


「ヴェルデ公爵。一つ訊いてもいいか?」

「はい」

「この色は、俺の代で替えても良いものか?」


 自分の正装の服を摘まんで彼に訊いた。ヴェルデ公爵は少し目を開き驚いているようだった。


「どうしてですか?」

「ダサくないか、白なんて。汚れも目立ちそうだし」


 ブル公爵は今にも吹き出しそうになる。そんなに可笑しい事を俺は言ったのか。


「では、殿下は何色が良いとお思いですか?」

「あ、赤……」


 俺は即答した。赤はカッコいいと思った。クリスティーン嬢が着ている騎士の制服も格好良いし、ロッソ公爵の着ている正装も見た目も良く、品格がある。ブル公爵の暗い青色やヴェルデ公爵の暗めの緑色も悪くはない。良いと思っているが、やっぱり、クリスティーナ嬢と同じ色が良いと思った。


 ブル公爵は、口に手を当て笑いを堪えているようだった。


「赤はダメです。というより無理です」

「何故?」


 俺はヴェルデ公爵にそう訊ねると、彼はチラリと視線を別の方向に向ける。そこには、見て分かるほどに表情を変えることのないロッソ公爵が血相を変えていた。

 くくく、とブル公爵が今にも大声て笑い出しそうに堪えている。


「ジルベール殿下。赤も青も緑もダメです。これは我々の公爵家の色です」


 そんなこと言ったら、もう黒か白しかないじゃないか。もう思い切って黒にしてしまおうか。それかグレーという手もあるかもしれない。いや、グレーもダサいか。


「おい、くだらない話をしていないで、もう時間だ」


 バッサリと話の腰を折ったのはロッソ公爵だった。





 初代国王ユリウスの石像は物々しい石造りの神殿の奥にある。そこは王宮の敷地内あるが、少し離れた所にあった。普段は中に入れない。俺も小さい時に何度かここに来たことはあったが、鍵がかかっており入ることが出来なかった。

 王位を継ぐもの以外がこの場所に来ること自体、禁止された区域だった。

 だから見に行っただけもバレると、「生意気だ」と王妃に物凄く怒られた。

 そんな神殿に俺が入ることになるとは思いもしなかったのだ。


 神殿に到着すると、中は少しひんやりとして厳かな雰囲気だった。

 司祭様の後を長い通路を歩く。暫くすると石像がある広間に辿り着いた。


 ユリウスの石像は台座を含めると高さ4、5メートルほどあろうか、剣を持ち堂々と俺を見下ろすように建っていた。そしてその足元には、赤黒いシミのようなものが幾つも付いている。これは、代々国王となったもの、そして代々公爵たちの血だ。ここで、血の誓いをするのだ。


 儀式は司祭様の祈祷から始まる。

 そしてそれらが終わると、ロッソ公爵が鞘に収まった剣を持ってきた。この国で採れる鋼鉄で作られた剣だ。鞘にはブルーサファイア、エメラルドグリーン、ルビーが、ガードにはクリスタルクォーツが埋め込まれていた。この国の宝剣である。この剣は初代国王ユリウスの代から受け継がれている。俺はその剣を受け取り石像の前に立った。


 鞘からゆっくりと剣を抜き、ギラリと光りを反射させる刃に左手を添える。そして顔の前に剣を掲げる。重くなかったが、見ているだけでもずっしりと来るものがあった。これが、国を背負う重みなのかもしれない。


 先代の国王、父も同じ儀式をしてきたはずなのに。ここでの誓いを忘れてしまったのか――。


「初代国王ユリウス。私はこの国を愛し、この国の民と共に生き、この国を守る事をこの剣に誓う」


 ユリウスの石像の前で宣言すると、三公爵が一斉に片膝を就き、頭を下げた。これは、公爵たちが俺に従い、初代国王に誓う儀式でもある。


 そして、俺がこの国を蔑ろにした場合、ユリウスの代わりに公爵たちが俺を罰するという事だ。父がされたように。


 今思えば、こんな儀式があるなんて、あのクラウスは知っていたのだろうか。知っていれば、クリスティーン嬢との婚約も破棄しなかったと思う……いや、知っていても好き勝手にしていたな。


 公爵たちから聞くまで、こんな儀式があるなんて俺は知らなかった。本来なら教育係が教えてくれるらしいが、俺には関係のないことだろうと思っていたようで、教えてくれていなかった。


 そして、ロッソ公爵が謀反を起こすと言っていたのは、この血の誓いからくるものだった。


 俺が宝剣で手を少し斬る。次に公爵たちが同じように手を斬った。血が滲み出てくる。それをユリウスの足元に付けて、儀式が終了した。真新しい血の跡が石造の足元に付く。


「これで、貴方は正式にこの国の王です。私たちが国王陛下の力となりましょう。その代わり、もし貴方が国王に相応しくないとなれば、遠慮なく潰しにかかります」


 三人の公爵たちは揶揄う素振りもなく、ロッソ公爵は真剣な面持ちで言う。

 

「わかった」


 俺もこの国を守ると決めた。先代のようにはならない。


 そう、初代国王、ユリウスに宣言したのだ。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

もし面白いと感じていただけたなら、応援やブックマーク、評価などいただけましたら励みになります。

次回更新は2月21日前後あたりの更新予定です。

また読んでいただけると嬉しいです。

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