第14話 カールとの関係
よろしくお願いします。(#^.^#)
前国王たちを拘束してから数日が経った。
案外、呆気なかった。
民たちは、国王たちが拘束され、この先の不安を抱え混乱が始まり、その対処に公爵を始めとする貴族たちが対応に迫られていた。
俺は王宮の自室で机にうつ伏せになりおでこをくっつけて、茫然としていた。
こんな姿はクリスティーン嬢には見せられない。これがこの国の国王かと厭きられてしまう。
顔をそのまま横に窓の方に向け、頬を机にべったりとつけ外の空の景色を見る。カラスだろうか、「カアア、カアア」と鳴きながら俺の視界を横切って行ったのが見えた。何か馬鹿にされた気分だった。
俺はそのまま長い溜息を吐き出す。
王位継承式はもう少し先の話だが、国王の道は険しかった。いや、仕方がないと自分に言い聞かせているが、それが単なる言い訳にしかならない。
それでも王子教育はある程度受けて来たものの、王太子としての教育は、当然受けていない。まあ、クラウスがちゃんと王太子の教育を受けていたかと問われれば、教育係たちは口を濁すだろう。
それに比べれば、俺はまだマシなのかもしれない。自分でも言うのは何だが、そこそこの素養もあると思っているし、学園での成績は常にトップだった。ロッソ公爵の計らいで、いろんな家庭教師も付けてもらい、それこそある程度の知識は持っていると自負していたけれど。
それでも全く畑違いかと問われればそんな事はなかった。まだまだ知識不足で覚えなければならないことが多かったが、今までしてきたことは無駄では無い。
単に覚えることなら苦ではなかった。丸暗記は得意な方だったが、もうそろそろ限界が近づいてきていた。
「ジル、休憩がてら中庭に散歩でもしたら?」
「母上、そうしてくるよ。少し外の空気を吸ってくる」
夕方になり、外は薄暗い。けれど王宮内は所々に灯が付けられ、昼間のようにとまではいかずともそこそこ明るかった。
中庭にある長椅子に浅く座り、背もたれに寄りかかる。行儀の悪い座り方だが、今までの癖で、護衛を付けづに出て来たので、誰も見ていないだろう。
暗くなり始めた空を見上げれば、瞬く星が一つ、二つと見えた。
この国の国民も俺と同じ空を見上げていることだろう。
この星に幸せを願う人もいるだろう。
そう思うと、この国を、民を守らなければならないという使命感みたいなものが湧き上がってくる。
今回の件、この国フランツの第二王子の俺が、国王、王妃、王太子を拘束したという話は、あっという間に周辺諸国のシャネロ、アールム、ルソル、カボウに伝わるはず。友好関係を築けていたカボウとは、どうなるのか。警戒しているアールムは、どう出てくるか。ルソルはまだ友好関係を築けていると思っているが、アールム次第でルソルの出方も変わって来る可能性もある。兎に角、四面楚歌にならないようにしなければならない。
ゆっくりしている暇はなさそうだ。とっとと継承式を終わらせ、国内の混乱を落ち着かせ、直ぐにでも周りの諸国の事を詳しく調べないといけないなと考えた。
暫く茫然と空を見ていると、ガサっと音がした。誰かがこちらに向かってくる。
「ジルベール殿下。こちらにいらっしゃったのですね」
赤の騎士服を着た無表情のクリスティーン嬢だった。俺は慌てて体を起こす。
この表情はロッソ公爵に似ているんだよな。さすが親子だな、とは思うけれど、美しい女性なので、少しでも表情を和らげてほしい。
「護衛を付けづに部屋から離れないでください」
直ぐに戻るつもりだったから、と言い訳じみた事を俺は言ってみた。彼女はどんな反応をしてくるだろうか。
「それでも、何かあっては困ります」
そうだな、そういう反応だろう。普通は。俺としては、もう少し違う反応をしてほしかった。
例えば、『部屋を離れるなら、私を呼んでください』とか。
実は、あれからずっと彼女はドレスではなく騎士服を着ている。この国の深窓の令嬢がだぞ。俺の護衛をするためにだ。
護衛は、彼女だけではない。あのカールもそうだがヴェルデ公爵家とブル公爵家からも数人交代でつけてもらっている。
要は公爵家それぞれから、三人ほど護衛を指名して俺の傍に付かせていた。
今までに護衛らしきものを付けてもらっていなかった俺には、息苦しくて仕方がない。
「公爵令嬢の貴女はいつまで、その騎士服を着ている?」
「私は殿下の護衛です」
「それは……いつまで? 期限はないのか?」
「父が決める事です。私はジルベール殿下の護衛をしたいと希望を出したまでです」
希望か……。公爵令嬢がどうして騎士服を着て、剣を持つのか。それを父親が容認するのかが不思議だった。
「そうか……もう一つ聞いても良いか?」
はい、とクリスティーン嬢は首を傾げる。
「そ、そその……」
聞きにくい。でもずっとモヤモヤしているのも癪だった。訊いてすっきりした方が良いことは分かっている。
「カールとは……どういう関係なのだ?」
「……は?」
え? と俺は声が洩れそうになった。淑女らしからぬ声が聞こえたからだ。
カールは貴族といえど男爵位だ。若くして爵位を持っている事は凄いと思う。ロッソ公爵も目をかけているようにも見える。けれど、公爵令嬢のクリスティーン嬢とは釣り合わない。
「殿下、それはどういう意味ですか?」
「どう……って……す、好きなのか、と思って」
はああああ、とクリスティーン嬢は呆れた溜息を吐く。彼女の態度に俺は何かまずい事でも聞いたのかと一層、不安になった。一瞬、クラウスとクリスティーナ嬢のやり取りを思い出す。こちらが『素』なのか、と思った。
「殿下は何か勘違いされておりませんか? 私とカール兄様とは何もありません」
「カール兄様?」
「ロッソ公爵家では、跡取りが私以外居りません。けれど、父は女の私に公爵を継がせるつもりもなく、当然、私も継ぐつもりもありませんでした。それで遠縁のカール兄様が跡継ぎとして考えております」
「は?」
俺は顔を両手で隠した。
恥ずかし過ぎる。
よく考えれば、そう言うことにも辿り着く。クラウスと婚約をしていたのだから、公爵は傍系から後継者を捜すことになる。ということは、カール・エバンスはロッソ公爵とは繋がりがあるという事だ。しかし、あのカールの思わせぶりは違うだろう。彼女には手を出すな、というような目つきで俺を見ているのだ。
「カール兄様もいつまででも私を小さな子供扱いしているのよ。こっちが恥ずかしくなってしまいますわ。この間だって、髪に木の葉を付けていて、『木登りでもしていたのか』って。私はもう淑女なのに!」
ああ、あの時の事だよな。王宮に行く前の、彼女の髪に木の葉が付いて取っていた時の――。それで、顔を少し赤らめていたのか? 子供扱いされて?
というか、彼女の話し方が可愛い。顔を赤らめて少し怒っている姿が可愛い。いつもこんな風に話をしてくれたら嬉しいのに。
「ゴホン……そんな事より、ジルベール殿下。もう少しですね、継承式」
クリスティーン嬢は顔を赤らめたまま、咳ばらいをして話を逸らすように話題を変えてくる。
継承式と言っても、シンプルなものだ。そんな大げさな事はしない。ただ、初代国王ユリウスの石像の前で宣誓する――それだけの事だ。パーティーもパレードもない。本来ならば、もっと違う形になるらしいが、俺はただ初代国王にこの国を守ることを誓いたかった。
「ああ、無事に終わると良いな。終わったら……クリスティーン嬢、貴女にお話ししたいことがある。その時に話を聞いてくれますか?」
少し緊張して言ってみたからか、掠れた情けない声になってしまった。
「今ではないのですか?」
「ああ、継承式が終わった後に……」
そう伝えると、彼女は軽く目を瞠り、「わかりました」と落ち着いた声で答えてくれた。 そして。
「もうそろそろ、お部屋に戻ってください」
もう少し、彼女と二人でいる時間が欲しい。少し駄々をこねてみる。
「もう少し、ここにいたいがダメか?」
俺がそんな事を願えば、彼女は困った顔をしてもう少し傍に居てくれるだろう。
案の定、彼女は困った表情をする。
「わかりました。もう少しだけですよ」
苦笑されたけれど、一緒に居てもらえることに俺は満面の笑みで
「ありがとう」と返した。
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次回更新は2月14日前後あたりの更新予定です。
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