第13話 決着
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血管が切れるような、不穏な音が聞こえたので恐る恐るロッソ公爵を見る。俺が見ても怒っていると分かる表情をしていた。冷静沈着な公爵が、まして娘には何の関心も持っていないと思っていたから、彼が怒りを見せたことが意外だった。
クリスティーン嬢も今までに見たこともない形相でキッと睨みつけている。その横で「ふざけるな……」と怒りを吐き出すように呟いたのはカールだった。こちらも国王を睨みつけるように見ていた。
俺も国王の言葉を聞いた時には怒りが爆発しそうだったが、周りの態度を見たら案外と冷静になれた。
「国王! クラウスとロッソ公爵令嬢の婚約破棄をなかったことには出来ない!」
俺は敢えて『父上』とは呼ばなかった。自分が今から何をしでかすのか、理解している。
「はああ!? ジル! この王太子の兄に向かって呼び捨てとは、何様のつもりだ!」
呼び捨てにされたことが気に入らなかったクラウスは目の色を変えこちらを強い視線を向けてきた。
「父上が婚約破棄をなかったことにすると言っているんだ! クリスも喜んだらどうだ?」
「そうよ! こんな無表情の可愛らしくもない令嬢の婚約破棄を取り消すと言っているのよ!」
クラウスと王妃の言葉にクリスティーン嬢がどんな反応を示すか、俺は気になり横目で彼女をチラリと見た。
まさか、喜んではいないよな。
「婚約破棄は承ったはずです。それを無かったことにされても……やっと、馬鹿馬鹿しい婚約が無くなったというのに!」
普段の彼女からは想像し難い程に、あの二人を挑発する言葉を吐き捨てる。あの婚約破棄を言い渡されたパーティーの時のように。
もしかして、こちらが『素』なのか?
「馬鹿馬鹿しいだと!?」
ガタンっと勢いよくクラウスが立ち上がりこちらの方に向かってこようとした。余程、腹が立ったのだろう。俺とカールは腰に佩いた剣の柄に手を掛け、クリスティーン嬢の前に立った。奴の足が止まる。
「ジルベール! 俺に剣を向けるつもりか? 本当に何……さ……まの……つ……」
クラウスは『何様のつもりだ』と言いたかったようだが、最後まで言葉を言い切れなかった。三人の公爵が剣を鞘から抜き、鈍い輝きを放つ剣先をクラウスに向けていた。なんと、血の気の多い人たちだ。少し眩暈がしてくる。先に言っておくが、俺はまだ剣を抜いていないぞ。
「どういう事だ! 何故儂らに剣を向ける!?」
「誰か!! 護衛はいないの!?」
国王は声を上げ、王妃は護衛騎士を呼ぶ。その声を聞きつけてか、国王の護衛三人がバタバタと足音を立て慌てて横の扉から入って来た。その三人は剣を抜いたのは良いのだが――。
「ひいいい!」
何とも情けない声を上げ、猫の前の鼠のようにブルブルと震えながら剣を構えた。
震えあがるほど怖い、その気持ちは俺にでも分かる。なんせ、鍛えられた体の公爵三人からは、俺でも背筋が凍りそうなほどの物凄い殺気を感じるからだ。
俺だって、国王と公爵を天秤にかけた時、公爵を選ぶ。それほどもまでに我が国の公爵は力を付けていた。もう今の王家は単なるお飾りしかない。それに気づかず、好き放題した結果が、これだ。
「国王! 我々に斬られたくなければ、王位を退き、王太子を廃位してくださいませ」
一歩前に出て、そう告げたのはヴェルデ公爵だった。彼なりに穏便に済ませようとする配慮なのだろう。
「何を馬鹿なことを言っているの!」
血相を変え、キンキンな声を張り上げる王妃に、
「ヴェルデ。俺なら今すぐ斬り捨てるぞ!」
ブル公爵は言い放つ。待ってましたと言わんばかりの楽しそうな表情だ。
「斬り捨てるだと? ふざけるな!」
「ふざけてるのは、お前だ! 《《誓い》》を忘れた国王はこの国にはいらない!」
国王がワナワナと叫んだ言葉に、ロッソ公爵は無表情で冷めた瞳で奴を見た。俺は固唾を呑みこんだ。
「国民を、領民をなんだと思っている。我々はクリスティーン嬢に婚約、婚姻で真面な王家に導いていただくつもりだった。だが、それをお前たちが破棄したのだ! これで俺たちはお前たち王家を排除する機会を与えた。幸運にも、シャルロッテ様の御子、ジルベール殿下が真面に育ってくれた。こちらを国王に、王位を継いでもらう!」
ブル公爵が剣を握り直し、一段と楽しいそうに叫ぶ。剣先を自分たちに向けられた護衛騎士たちは、今にも逃げ出したい雰囲気を醸し出し震え上がっていた。
そんな騎士達を見て、チッ、と舌打ちをし、「役に立たず者ばかりだ!」とクラウスは苛立つ。
そして、「他に騎士たちはいないのか!」と叫んだ。
「い、居ません……。私たち以外に10人ほど外におりますが、それも公爵様たちの騎士団に取り押さえられております」
「お前たち! あのものを斬り捨てておしまい!」
イラつきを押さえられない王妃は護衛騎士たちに命令したが、「無理です!!」と一人が逃げ出すと、他の二人も一緒に謁見の間から出て行った。
あきれたものだな、と心の中で俺は呟いた。
もう少しまともな国王、王妃なら味方に付いた貴族がいたかもしれない。味方に付いた貴族が互いに五分五分なら、今日の結果もどうなっていたか、分からない。
『僕は王太子だ。守られる立場だ。そんな物騒な剣術は必要としない!』
以前、そんな言葉をクラウスは言っていた。あの言葉は、守る価値があるかどうかで決まる。この国の大半の人間は、守る価値なし、と思っているという事だ。
「ロッソ公爵。剣を一本用意してもらえないだろうか?」
俺がそう言うと、公爵が持っていた剣を渡してくれた。
まさか、公爵の剣を渡してくれるとは思わなかった。
俺は、その剣を眺める。軽く振ってみれば、物凄く良い剣だと分かる。ずっしりとした重みもなく、ましてや軽くもない。
その剣をクラウスに投げるか一瞬迷った。だが、「はい、どうぞ」と手渡しするのも違う気がして、放り投げる。
「クラウス、俺と勝負しろ。俺が勝ったら王位継承権を放棄しろ」
剣を放り投げたことで、後でロッソ公爵に怒られないだろうかとそんな心配をしながら、クラウスに勝負を申し込む。
クラウスは放り投げた剣を受け取れず、剣は空しく床に金属音を鳴らしながら落ちた。それを見ていたブル公爵は、声を押さえるように、クククと笑っていた。怒り任せにこちらを睨みつけるクラウスは、剣を拾う。
「おい、クラウス。その剣は安物じゃないんだ。丁寧に扱えよ」
ロッソ公爵に敬称なしで呼ばれたクラウスは、彼を睨みつけ、剣を構えるが――複数の呆れの混じった溜息が謁見の間に響く。不格好な構えだったからだ。
『剣術は必要としない!』と言ってきた通り、何の基礎も出来ていない構えだ。
「なんだ? あの構えは? おいおい、それでジルベール殿下に勝てるわけがないだろう?」
あからさまにクラウスを挑発しているのはブル公爵だ。クラウスは馬鹿にされたことが分かったようで、顔を真っ赤にしている。誰が見ても決着はすぐにつく。
あちらから仕掛けてくるのを待っていようかと思ったが、こちらから仕掛けてみるのも良いかもしれない。俺はそう思い、クラウスの元に走り剣を振る。
「キンッ!」と金属音がぶつかり合う音が部屋に響く。クラウスは必死で剣を止めていた。こちらは、半分ぐらいの力しか出していない。ちょっと力をさらに加えれれば、耐えきれなさそうだ。
一旦、俺は後方に下がる。それを見たクラウスは、俺が耐え切れず下がったと思ったのか、大声で笑いだした。
「ははははは!! 俺だってやれば出来るんだ! どうだ、もう降参か? 今度はこちらから行くぞ!」
勝手に勘違いをし図に乗ったクラウスは俺に剣を振り下ろして来た。それにしても、動きが粗いし遅い。
「カキンッ!」
力任せに大きく振りかぶった剣と俺の剣のぶつかる金属音と共にクラウスの手に握られていた剣は宙を舞い、また床の上に音を立てて落ちた。
「――っ!」
自分の手から離れ床に落ちた剣を見つめるクラウス。
それを見ていたブル公爵が「拘束しろ!」と一緒に連れて来た騎士たちに叫ぶ。
騎士たちは手分けして国王、王妃、クラウスを縄で縛りつけた。
「何をする! 離せ」
国王は抵抗してみるが、鍛えられた騎士たちではどうすることも出来なかった。
「離して! 離しなさい!!」と王妃は叫び散らす。
「離せ!! ジルベール、こんな事をしてタダで済むと思うな!」
床に押さえつけられ暴れ出すクラウスを俺たちは見下ろす。
転がった剣をロッソ公爵は拾い、剣先をクラウスに向けた。
「もう少し真面目に剣術を習っておれば……情けない。あれでは我が娘にも勝てまい」
「地下牢につれていけ!」
ブル公爵の命令する声が謁見の間に響いた。
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