第12話 ブチッと
よろしくお願いいたします。
「さあ、行くとするか!」
翌朝、大勢の騎士が集まっている。その前で少し長めのウェーブの掛かった髪を後ろで一纏めにして気合を入れているのはブル公爵だった。
騎士たちの服の色が赤、青、緑であり、これはこの国、三大公爵の騎士団の制服の色だ。
他色も混じっているが、同系の色に近い。これは、三大公爵以外の貴族の持っている兵の色である。
ロッソ公爵の屋敷の前に集まった騎士の数は、ざっと見て200人ぐらいか。
こんなに必要か、と俺は正直、そう思った。多分、王家が抱えている騎士の数は、100人もいない。今回の件で逃げ出さず残っている数は、せいぜい50人、いや、もっと少ないかもしれないのだ。
「ジルベール殿下。貴方の護衛に、カール・エバンス男爵と我が娘、クリスティーンが付きます」
ロッソ公爵がそう言うと、手綱を握り、馬を引っ張る赤い騎士服を着た二人がこちらに向かって来た。クリスティーン嬢とカールだ。彼女の綺麗なシルバーブロンドの長い髪は、動きやすいようにポニーテールにしてあった。
「は? 何故、クリスティーン嬢が……?」
俺は目を見開いて驚いた。クリスティーン嬢の腰には剣も身に着けている。しかも、木剣ではない。本物の剣だ。
「どういうことだ!? 何故、クリスティーン嬢が俺の護衛なんだ!?」
公爵は何を考えているんだ、俺はこんな事を望んでいる訳じゃない。俺の横には彼女がいてほしいと願ったが、意味が違う。護衛としてではなく、伴侶として隣にいてほしいのだ。
俺はロッソ公爵に反論しようとした。ここで言わなかったら男が廃る――が。
「我が娘が申し出たことです」
先を読まれたらしい。こちらから物を申す前に、ロッソ公爵は片方の口角を少し上げるように薄笑いをする。俺は勢いよくクリスティーン嬢の方を見る。彼女は何食わぬ顔で、馬の首筋を撫でていた。
「娘の意思なので、止める必要がないかと」
いや、そこは止めろやあ……と俺は心の中で叫んだ。
彼女が望んだことでも危険だから止めてほしい。大事な娘じゃないのかと。
だが、先日の会話で「アールムに嫁がせるか」という言葉を聞いた後なら、ロッソ公爵は娘に対して何の感情を持っていないのかもしれないと思ってしまう。
結局は、娘も政治の道具としか思っていないのか――。
クリスティーン嬢の方をもう一度見た。いつの間にかカールが彼女の隣に来て会話をしている。そして小さな木の葉が彼女の美しいシルバーブロンドの髪に付いているのを見つけるとそっと取り除いていた。
「ありがとう……カール」
あまり聞かない柔らかいクリスティーン嬢の声が俺の耳に入ってくる。
そしてそんな彼女の顔を見れば、少し赤らんでいた。その様子を釘付けになり、少し離れたところから俺が見ていることに気づいたカールは、こちらをチラリと見て、笑みを浮かべる。
俺に対して挑発しているような、そんな嫌な笑みだ。
何だかイラつく――が、そんな事で気を取られている場合ではなかった。
「クリスティーン嬢。貴女が私の護衛をする必要はない」
「ジルベール殿下。先日も申し上げた通り、殿下の剣となり盾のなるのは、私たちの役目でございます」
「公爵令嬢の貴女がその役目を負う必要はないのでは?」
「いえ、私もご一緒いたします。これは、公爵家のものとして、私の矜持でもあります」
「……矜持?」
そんなものは今はいらない。俺の中では、彼女の安全が第一だ。それに俺が彼女を『守る』と言っているのに、どうして危険を冒してまで、俺の護衛をする必要があるのか。
まさかとは思うけれど、また何か『夢』を見たんだろうか。
それをクリスティーン嬢に訊いてみたいが、ここで訊く訳にもいかない。周りは彼女がそんな能力を持っている事は知らない者もいるだろう。知られる訳にはいかない。
「おいおい、殿下。クリスティーン嬢の剣術のレベルは知っているだろう?」
後頭部をボリボリと掻きながら、呆れるようにしてブル公爵は俺に訊ねる。ヴェルデ公爵を見れば苦笑しているし、ロッソ公爵は……関係ないという表情だった。
クリスティーン嬢の剣術は、俺だって知っている。低レベルの騎士よりよっぽどマシな剣筋だ。けれど、何があるか分からない。そんな危険な場所に彼女を連れて行くつもりはなかった。
どうにかして、彼女を置いていけないかと思案していると、ヴェルデ公爵が微笑しながら色気のある声で俺に言う。
「ジルベール殿下、大丈夫ですよ。カールもいますから」
は? と俺は声に出そうになった。カールは俺の護衛として来るというのに、それに、こんな奴にクリスティーン嬢は任せられない。なんなら俺が彼女の護衛をする。彼女が俺から離れなければ、守ることも可能なはずだ。
「わかった。クリスティーン嬢、俺から決して離れないでください」
はい、と彼女は首を傾げ、返事をした。
ヴェルデ公爵の言葉に乗ってしまった気がした。カールの名を出せば、俺がそう考えるだろうと思われていたらしい。
実際、カールに任せるくらいなら俺が――と思ってしまったんだからな。
結局、兵の数は150人ぐらいに絞った。
騎士の列の真ん中に三人の公爵が、そして少し後方に俺とクリスティーン嬢、そしてカールと続く。三色の団旗を靡かせ、王宮を目指した。
王都中心に着くと、人々は興味津々でこちらを見ている。それでいて物々しい兵や騎士たちの行列に建物の影に隠れる者もいた。
街の中心を過ぎれば小高い丘を登る道が出てくる。その道を辿れば王宮だ。少し見晴らしが良い場所に立っているその建物は、外から見ても分かるほど、いつもより慌ただしい雰囲気だった。
……そりゃあ、慌てるだろうな。三色の騎士団と各領地の兵が王宮を目指しているんだ。
今頃、俺と母がいない事に気づいただろうか。まさか、まだ気づいていないなんて……王妃辺りは、母がいなくなったことくらいは、いい加減気付いただろう。王妃の代わりに母が仕事をしていたのだから、居なくて困るのは王妃だ。
母がいなくなったと報告を受けた時の顔を見てみたかったなあ。
王宮の門番たちとのやり取りも、簡単なものである。
「国王に会いに来た」と言えば、直ぐに開門してくれた。
この三人の公爵の顔を見れば、開けないわけにはいかないのかもしれない。
開けるなと命令されていても俺なら開けてしまうだろう。
門を潜り、連なる騎士を20人くらいに絞る。他は外で待機させ、俺はクリスティーン嬢、カールに三人の公爵たち共にゾロゾロと王の謁見の間に向かった。
あまりにもすんなり中に通されると、危機感がなさすぎではないのか、と疑う。余りにも平和ボケしすぎではないだろうか。先程の外からの見た慌てぶりはなんだったのだろうかと。
これでは、周辺諸国から狙われていても気づかないんじゃないか、と呆れてしまった。
謁見の間に辿り着くと、いつもなら二人、扉の両端にたっているが今日は兵士がいない。
その様子を見て、フンっと鼻で笑うロッソ公爵だ。俺は順にブル公爵とヴェルデ公爵の顔を見た。二人とも苦笑いをしている。
扉を開け中に進むと、国王と王妃、クラウスが玉座の椅子に座っていた。クラウスはクリスティーン嬢の騎士服を見て、目を見開き驚いているようだ。
「これは、ジルベールと我が国の公爵家が揃って、儂に何の用だ?」
国王は椅子のひじ掛けに肘をつきながら、堂々たる態度でこちら側に訊く。
流石は慣れなのか、この三人の公爵を前に威厳を保とうとしていた。俺はこの三人の前であの態度はできないな、と国王を少し尊敬の眼差しで見る。
「国王、私に何か言う事はないのか?」
ロッソ公爵が冷めた蒼い瞳を国王に向ける。国王も思い当たる節があったらしく、わざとらしく思い出すフリをした。
「ああ、あれか? クラウスが婚約破棄をしたことか? それなら、何の問題もない。あれは取り消す」
国王がそう言った瞬間、ブチッと何か切れる音が三か所程から聞こえたようなきがした。
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