第11話 母の激励
よろしくお願いします。
前回の後書きに、『次回の更新は来年の1月17日』になっておりましたが、去年のものをコピペして『来年』を消し忘れておりました。申し訳ございません。
三人の公爵との張り詰めた顔合わせが終わり、俺は自室に戻ってきた。実際、張り詰めていたのは俺だけだったが……。
ソファーの背もたれに寄りかかり、ドサリと座る。緊張が解け、気が抜けるようにぼーっとしていると母が温かいお茶を入れてくれた。
「お疲れ様。ジル」
「母上……」
母も自分の分を入れると、向い側に座り、カップに口を付けた。一口、口に含み飲み込む。俺から見てもこの母は、見た目は悪くない。俺と同じ少し暗めの艶やかな赤髪に翡翠色の瞳で、実年齢を感じさせないほどに肌は透けるように白い。微笑みも聖母様のように柔らかい。母にどんな花が似合うかと聞かれると、カサブランカが似合うと言いたくなるほどだ。
「大変な事になりましたね。クリス様がクラウス殿下との婚約が決まった時には、まさか、こんな事になるとは思いもしなかったわ」
母は控えめに細く笑う。
元々、どうしてクリスティーン嬢がクラウスと婚約することになったかと言うと、ブル公爵やヴェルデ公爵にもご令嬢がいたが、ご結婚されているか、歳が離れているかどちらかで、一番歳の近い筆頭公爵、ロッソ公爵家のクリスティーン嬢がクラウスの婚約者に決まった。国王は公爵家の中から誰かと婚約させて、彼らの持っている騎士団の一つを手の内に置きたかったのだろう。
国王はやっとの思いで、誰もが喉から手が出てしまうほどに欲しがる令嬢、クリスティーン嬢との婚約を取り付けたいうのにクラウスは、一方的に婚約破棄をしてしまった。ロッソ公爵もクリスティーン嬢も婚約は仕方なく受けていたもので、向こうから破棄されれば、もう何も遠慮することがなくなる。これを機に、領民を苦しめる国王、王妃と王太子のクラウスを排除してしまおうと考えているのだ。
そして一連の流れで行けば、次に王位継承権がある俺もその中に入ると思うけれど、そこが腑に落ちない点である。王家という括りで言えば、母も俺も入る。母は子ができ、仕方がなく側妃になったと聞いたが、王妃や王太子のように自由気ままに生きてきた訳ではない。どちらかと言うと、ひっそりしてきた。それでも、あの無茶ぶりの王妃やクラウスを止めることもしてこなかった。そういう事を考えれば、俺にも責任が付いてくるはずではないのか、と思ってしまう。
「母上、どうして俺が……確かに俺は第二王子だから王位継承はある。だけど……」
そう言うと、母は俺の言いたい事を理解したようだった。
「ええ、もしかするとあなたも罪に問われた可能性があると言うのでしょう? 本来なら一緒に処罰が下されてもおかしくないのかもしれないわね。でもね、それがされないのは私がロッソ公爵様、ブル公爵様そしてヴェルデ公爵とは幼馴染だったからよ。特にロッソ公爵様とは幼い頃、よく一緒に遊んだ仲なの」
「え?」
そんな事は初めて聞いた。公爵家、子爵家では爵位の違いがありすぎる。どうして一緒に遊ぶことが出来たのだろうか。
「昔ね、ちょっとした集まりが時々あったの。その時に似たような年齢の子どもたちが一緒に遊ぶことがあって、その中に前ロッソ公爵夫妻もいらっしゃったのよ。とても気さくで優しい方だったわ。子どものロッソ公爵もとても活発で、それでいてちょっとしたことでもよく笑っていて、本当に可愛かったわよ」
え? 何だって? よく笑う? まさか、あの公爵が?
笑ったとしても少し口角が上がるか上がらないか分からない程で、慣れないうちは、あれが微笑しているのか、分からない。
「今では、とても考えられないでしょう? 私が国王にお手付きをされ子を身ごもった時に、あの方は私に『困ったことが生じたら、必ず助けます』っておっしゃってくれたわ。貴方も知っての通り、公爵夫人はクリス様を産まれて直ぐに亡くなって、ご自身もお辛かったはずなのに。それなのに公爵は私の心配までしてくれて……」
母はもしかしてロッソ公爵の事を好きだったのかと想像したが、母の表情から感情が読めなかった。どちらかというと恋情を持っていたという顔ではないように見えた。この二人の関係は一体何なのだろうかと考えてしまう。
ロッソ公爵が母上の心配をするのは、単に幼馴染だからなのか、それとも俺が国王との間に子だからなのか、まだ他に理由があるだろうか。
確かな事は、ここに来てまだ2日程だが、母は活き活きしているようだ。顔色も表情も王宮暮らししていた頃とは違う。
「母上……その、化粧を変えましたか?」
母は軽く目を瞠った。そして微笑む。
「王宮にいた時は王妃が目を光らせていたから血色の無い、目立たない化粧をしていたのよ。少しでも血色の良い顔をしていると、国王の気を引こうとしていると思われてね」
母は離宮に置かれた自室からは、王妃の仕事を代わりにすること以外、殆ど部屋から出ていない。たまに国王と会う事があったとしても、月に1、2回程度。そして何より、母の方が国王に全く会う気がなかった。
今日の母は、肌は元々白いが口元がほんのりいつもより紅色が付いているのが分かる。今までは口紅を塗っているのか、いないのか、それともわざと顔色が悪く見えるような口紅を付けていたのか。いずれにせよ、俺はともかく、母にとって王宮は籠中の鳥のようなものだった。
だから母と俺は生涯、ずっとこのままなのかと思っていた。俺の結婚も国の都合で何処ぞの国との政略結婚になるだろうと。
けれどその籠の扉を開けてくれたのが、ロッソ公爵とクリスティーン嬢だ。本当に感謝しかない。まあ、これもクラウスの馬鹿が婚約破棄をしてくれたからなのだろう。そう思うと少しクラウスにも感謝の気持ちが出てくる。雀の涙程度に。
俺は自然と笑みが零れた。
「それよりジル。もう少しクリス様と交流を持たれたらどうなの? お茶をご一緒する……とか」
母の唐突の言葉に次第に顔に熱が籠る。今までクリスティーン嬢をお茶に誘った事もない。それどころか、他の令嬢もない。母から目を逸らし、俯いてしまった俺に母ははっきりと言う。
「手に入れたいものなら、積極的にならないといけないわ。このままでは、クリス様は何処かに嫁がれてしまいます。もしかすると、もうすでに心を寄せている殿方がいるかもしれないわよ」
心を寄せる?
考えもしなかった。そんな事はクリスティーン嬢から聞いた事が無い――。当たり前だ。今までそんなに話す機会もなかったし、俺と彼女の間には何もない。友人とも言えないほどの何にもない関係で繋がりなんてなかったのだ。けれど、ふとあの男爵のカール・エバンス男爵の顔が浮かんだ。
いや、いくら何でも――。公爵家と男爵家では爵位が違いすぎる。
「クラウス様と婚約していた方なのだから、ジルが国王になれれば、何の遜色もないわよ。早めにアピールするといいわ」
母は片目をパチンとウインクする。
俺だって、クリスティーン嬢と共に同じ道を歩きたい。この国を一緒に守っていきたい。
分かっている。
母は知らないだろうけれど、もしかすると彼女が他国に嫁がされてしまうかもしれない。そうなる前に手を打たなければならないが、まずは信頼される国王にならなければならない。
「母上。俺はクリスティーン嬢も大切な人には変わりない。けれど、まずは今の目標に辿り着かないと」
「ええ、分かっているわよ。しなければならないことをする。そういう所はジルの褒めるべき所よね。公爵様から聞いた話だと、思っていた以上にこちら側に付く貴族が多かったらしいから、直ぐに収まるべきところに収まるはずよ。後は貴方の器量次第だから頑張りなさい」
久々に親子二人で話をしたが、最後には激励されてしまった。
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次回更新は1月24日更新予定です。
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