きらめく時間の見つけかた
風が少しだけ春を運びはじめた放課後。中学二年生の咲良は、窓から差し込む陽の光を手のひらで受け止めながら、にっこりと笑った。
「今日も、きらきらしてる!」
その笑顔を見て、隣の席の光太は少し驚く。
「何が?」
「この時間だよ。なんか、心がふわってなるから。たぶん、踊ってるの、わたしの心が。」
彼女にとって「心が踊る時間」は、特別な宝物だった。たとえば、音楽室でピアノを弾いてるとき。お気に入りの文房具を見つけたとき。道端で猫があくびをしていたとき。
そんなふうに、誰かにとっては「なんてことないこと」も、咲良には小さな光の粒のように感じられるのだった。
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ある日、光太がこぼした。
「俺、最近、楽しいって思うことあんまりないんだよね」
咲良はしばらく考えてから、言った。
「じゃあ、一緒に探そう?心が踊る時間。」
「探せるの?そんなの。」
「うん。だって、私がそうしてきたから。」
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それから、ふたりの“心が踊る探し”が始まった。
朝、学校の裏庭に咲いたタンポポを見つけてはしゃぎ、図書室でお気に入りの本を交換し、帰り道ではカフェで限定プリンを半分こ。
最初は「ふーん」と言っていた光太も、ある日ぽつりとこぼした。
「咲良、これ…楽しいかも。今日、ちょっと心が揺れた。」
咲良の瞳が、ぱっと輝く。
「それだよ、それ!それが踊りの始まり!」
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卒業アルバムの最後のページ。咲良はこう書いた。
「心が踊る時間は、自分でつくるもの。そして、誰かと分けあうと、もっと大きくなる。」
咲良のまわりには、今日もささやかな光があふれている。
たとえば、風に揺れるスカートの裾。たとえば、音楽の余韻。たとえば、誰かと目が合って、笑いあった瞬間。
そして彼女は、それらを見つけるたび、胸の奥でそっとつぶやくのだった。
「またひとつ、きらめいた」