8 コボルト族の里
コボルト族の男の子の後をついていきながら、彼の名前を聞いていなかった事を思い出した。
「そういえばお互いに自己紹介をしていなかったね。僕はフィル。そして彼はレオ。君の名前は?」
「僕はポポだよ。だけど、どうして妖精のフィルと人間のレオが一緒にいるんだい?」
まあ、それはやはり気になるよね。
「僕はさっき、花の中から生まれたばかりなんだ。そこへちょうど居合わせたのがレオなんだ。レオは昔から妖精の姿が見えるんだって」
それを聞いてポポはピタリと足を止めて振り返ってレオを見上げる。
「昔から妖精の姿が見えるの? 変わった人間だね」
ポポに変人扱いされてレオは苦笑いをしてる。
更に進んで行くと小高い丘の岩肌が見えてきた。
所々穴が開いているのをみると、あそこにコボルト族の住処があるのだろうか?
岩肌の前の広場では何人かのコボルト達がたむろしているのが見える。
「ただいま。木の実を採ってきたよ」
ポポが声をかけるとそのうちの何人かがこちらに視線をやったかと思うと、レオの姿を見て阿鼻叫喚の叫びをあげる。
(そりゃ、いきなり人間の姿を見ればそうなるよね。ポポもあらかじめ仲間達に説明してからレオを連れていけばよかったのに…)
だが、そこは一人で木の実拾いをさせられたポポの意趣返しのつもりなのだろう。
広場にいたコボルト達は一斉に逃げ惑い、穴蔵の中へと飛び込んでいく。
しんと静まりかえった広場に僕達が呆然と佇んでいると、コボルト達が穴蔵からそっと顔を覗かせた。
「ポ、ポポ? そ、その人間はどうしたんだ?」
一番年嵩と見られる老人が、恐る恐るポポに問う。
「木の実拾いの時に出会ったんだ。おおネズミ達を追い払ってくれたし、木の実もたくさん集めてくれたんだ」
ポポが仲間達にレオについて話すと、レオはポケットから木の実を取り出し、広場の中央に山盛りに置いた。
それを見たコボルト達はそろそろと穴から出て来始めた。
そしてレオが何もしないとわかると、次々と木の実を穴の中へと運び込む。
木の実を運び終えると、先ほどの年嵩の老人が、そろそろとレオの前へと進み出た。
「人間の方、木の実を拾っていただきありがとうございます。お礼を差し上げたいのですが、何がよろしいですかな? もっともわしらにあげられる物などそんなに無いのじゃが…」
老人に言われて僕はコボルト族について思い返してみた。
大抵のコボルト族は家の台所に住み着いて、こっそりと家の手伝いをしてくれたりするはずだ。
僕達は今、ライトエルフの王を探す旅をしているから、家の手伝いをしてもらうわけにはいかないな。
レオはチラリと横に浮いている僕に視線をやると、その老人に向かって話し出す。
「ありがとうございます。僕達は今、ライトエルフの王を探す旅をしているんですが、ライトエルフの王について何かご存知ではないですか?」
「ライトエルフの王ですか? ここ最近お姿を見ないとは聞いていますが…」
老人が考え込んでいると、後ろの方にいた一人のコボルトが叫んだ。
「ライトエルフの王はダークエルフの女王に殺されたって聞いたぞ!」
それを聞いてまた別のコボルトが次々と口を開く。
「ライトエルフの王が姿を見せなくなってから、魔獣が増えたり、食糧の木の実が少なくなったりしたんだ!」
「そのうちにダークエルフの連中がここを攻めて来るに違いない!」
その言葉にコボルト族はちょっとしたパニック状態に陥っている。
「みんな、落ち着いて! まだダークエルフの連中が攻めて来ると決まったわけじゃないでしょ?」
僕が皆を落ち着かせようと声をかけると、老人は驚いたように声をあげる。
「そこにおられるのはフィルバート様!? …そんな、…まさか…」
フィルバート様!?
その名前には何故か聞き覚えのあるような気がした。