7 木の実拾い
レオは拾った木の実をポケットにしまうとコボルト族の男の子の後をついて草むらの中を進む。
草むらといってもレオの膝の高さくらいだし、僕はその上を飛んで行くからそれほど苦労はしない。
ザッザッとレオが草を掻き分けて進んで行く横を僕はヒラヒラと羽を羽ばたかせて飛んでいると、すぐに草むらは途切れて開けた場所に出た。
その向こうに大きな木があって、その下に木の実がたくさん落ちている。
「あの木の実を拾うんだ。早くしないとあいつらがやって来ちゃう」
「あいつら?」
一体誰の事を言っているんだろう?
そんな僕の疑問に答えることも無く、コボルト族の男の子はせっせと木の実を一箇所に集めている。
それを見てレオも木の実を拾っては自分のポケットに押し込んでいる。
僕は少し離れた所に落ちている木の実を一つずつ拾ってはレオの元に届けた。
こんな時に魔法が使えれば一瞬なんだけど、どうやら魔法が使えるほどの妖力は無い。
こっそりとため息をつきながら向こうにある木の実を拾いに行くと、正面の草むらがガサガサと揺れた。
(ん? コボルト族の仲間でも来たのかな?)
そう思って草むらを凝視すると、二つの赤い目がキラリと光った。
(コボルト族じゃない。何だ?)
ハッとして身構えると草むらを掻き分けて大きなネズミ達が姿を現した。
「うわっ! あいつらが来た!」
コボルト族の男の子の叫び声で、このおおネズミ達も木の実を狙っているのだと悟った。
「コボルト族め! またオレ達の食糧を横取りに来たな! お前達、早くあいつから食糧を取り戻すんだ!」
おおネズミ達は僕の脇をすり抜けるとコボルト族の男の子が集めていた木の実に向かって突進して行く。
(レオがいるのに気が付いていないのかな?)
振り返っておおネズミ達の後ろ姿を目で追っていると、コボルト族の男の子が集めた木の実の前にレオが立ちはだかった。
レオに気付いておおネズミ達が急ブレーキをかけて止まる。
「な、何で人間がこんな所にいるんだ!」
立ち止まったおおネズミ達はレオの前からジリジリと後ろへと後ずさりをする。
「この子に木の実を拾うのを手伝うって約束したんだ。悪いけど今日は諦めてくれないか?」
どうやらレオにもおおネズミ達の言葉がわかったみたいだ。
レオに話しかけられておおネズミ達は更に慌てふためきだした。
「人間が返事をした? オレ達の言葉がわかるのか? くそっ! さっさとずらかるぞ!」
おおネズミ達は回れ右をすると一目散に出てきた草むらへと飛び込んでいった。
おおネズミ達の姿が見えなくなると、コボルト族の男の子は「ふうっ」と安堵のため息をつく。
「ありがとう、助かったよ」
コボルト族の男の子はレオにペコリと頭を下げると、またせっせと木の実集めに精を出す。
「さっき言っていた『あいつら』って、あのおおネズミ達の事?」
「そうだよ。今までここにはあんな奴らはいなかったのに、ここ最近僕達の食糧を横取りしに来てたんだ。何度も追い払おうとしたんだけれど、僕達じゃ相手にならないんだ。今日は君達がいてくれて助かった」
コボルト族の男の子はフニャリと力無く笑うけれど、僕には一つだけ疑問に思う事があった。
「あんなおおネズミ相手じゃ君達に勝ち目がないのはわかるけれど、どうして君だけで木の実を取りに来てるんだ?」
僕がそう口にした途端、バタバタと動き回っていたコボルト族の男の子はピタリと動きを止めた。
「それは…。僕がコボルト族の中で一番下っ端だからなんだ…」
それを聞いて僕は色々とコボルト族の事情を察した。
(弱肉強食。どこの世界でも一番弱い者が真っ先に見捨てられるんだな)
この男の子一人に木の実を取りに行かせ、無事に帰ってきたら万々歳、万が一駄目でも一人の犠牲で済むっていうことだ。
僕は何となくやりきれない思いを抱きつつもせっせと木の実を集めて回った。
地面に落ちている木の実をすべて拾い終わると、レオのポケットはパンパンに…?
なってない!
「レオ! 木の実はポケットに入れてたよね? なのにどうしてそんなにポケットはぺしゃんこなんだ?」
僕がレオを問い詰めると、コボルト族の男の子もハッとしたようにレオを見ている。
「ほんとだ! どうして? まさか全部食べちゃった?」
いや、流石にそれはないと思うけれど、ポケットに入れていたはずの木の実は何処に消えたんだろう?
僕とコボルト族の男の子の視線を受けて、レオはクスリと笑った。
「ああ、これ? 実はこのポケットはアイテムボックスになっていてね。このポケットに入る大きさの物は無限に入れられるようになっているんだ。ほら!」
そう言ってレオはポケットからいくつもの木の実が出てきた。
(まるでドラ◯もんの四次元◯ケットみたいだな)
そう思ったけれど口には出さない。
「もう落ちている木の実は拾い尽くしたからそろそろ終わりにしようか。この木の実は何処に持っていくんだ?」
レオに聞かれてコボルト族の男の子は「こっちだよ」と来た道を引き返しだした。