33 襲撃
玉座に近付くと、そこに見えていたはずの陛下の姿が消えた。
驚いて立ち止まった僕の背後に誰かが立っている。
「ようやくここへ戻って来たわね。さあ、ライトエルフの王は何処?」
いつの間にか現れたダークエルフの女王が僕の後ろに立っていた。
何やら妙に甘い匂いが漂っている。
「僕は知らない! 第一、知っていたとしてもお前に言うはずがないだろ!」
「まあ、威勢のいい事。いつまでその態度が続くかしら?」
振り返ってダークエルフの女王の顔を見ようとしたが、その甘ったるい匂いに身体の力が抜けていく。
(駄目だ! このままではまたダークエルフの女王にやられてしまう…)
何とか抗おうとしたその時、右手にズシリとした剣の重みを感じた。
先ほどまで存在を隠していた剣が、再び僕の手に握られている。
僕はその存在を確かめるように両手で握ると、振り向きざまに後ろにいる人物に斬り掛かった。
「ギャアアッ!」
ダークエルフの女王が、斬られた腕を押さえこちらを睨みつけている。
その腕からはポタポタと、黒い血が滴り落ちている。
「おのれ…。この私に傷をつけるとは…。覚えておいで!」
フッとダークエルフの女王の姿がかき消えた。
僕はホッと息をつくと、手に握っている県に目線を移す。
「いざ、という時に急に現れるなんて、不思議な剣だな」
しげしげと見つめていたが、用が終わったとばかりに、手にしていた剣は跡形もなく消え失せた。
(やれやれ。本当に不思議な剣だな。前にダークエルフの女王に襲われた時は現れなかったのに…)
そう考えた所で、前回は剣を手にするよりも先に、蔓にがんじがらめにされていた事を思い出した。
どうやら今回は蔓に絡め取られていたいなかったから剣が出てきたようだ。
その事に納得していると、「フィル!」と呼ぶ声が聞こえた。
ハッとしてそちらを見ると、レオが蔓に巻き付かれているのが目に入った。
「待ってろ! 今助けてやるから」
レオに巻き付いている蔓に手をかざすと、蔓は一瞬のうちに枯れていった。
レオは枯れた蔓を引き千切ると、ホッと息をついた。
「今のはダークエルフの女王の仕業なのか? フィルは急にフラフラと玉座に近付いて行くし、玉座には黒いモヤが見えるし…」
「黒いモヤ? レオにはそんなのが見えたのか?」
「そうなんだ。慌ててフィルを呼んだけど、聞こえなかったのか知らん顔しているし、蔓は巻き付いてくるし、散々だったよ」
「ごめん。どうやらダークエルフの女王に良いようにされていたみたいだ」
僕は振り返って再び玉座を見つめる。
こうして玉座を目にするだけで、陛下の姿を思い浮かべは事ができる。
ふと、僕は玉座の背もたれの部分に微かに何かが刻まれているのを見てとった。
「何だ、これ?」
レオも玉座に近寄ってくる。
「何か、魔法陣みたいだな?」
レオがその魔法陣に触れた途端、ピカッと光る。
あまりの眩しさに僕はぎゅっと目を閉じた。