30 原っぱ
どのくらい歩いた(僕の場合は飛んだ)だろうか。
突然、森の木々が途切れ、辺り一面草が生えた原っぱに出た。
その中央にポツンとフランス窓と窓枠だけが立っている。
(まるでドラ◯もんのどこでも◯アみたいだな)
レオも同じ事を考えているのか、ちょっと目を丸くしている。
「フィル。これって何?」
そう聞かれても僕には何も答えられない。
だが、ただ一つだけ確信している事がある。
この窓がライスエルフの国への入り口だと…。
「ここが多分、ライトエルフの国への入り口なんだと思う」
僕達はそのフランス窓に近寄ってみた。
ちゃんと硝子は付いているが、グルリと一周しても何の変化もない。
どちらの面からも開けられるように取っ手が付いている。
レオがその取っ手に手をかけてカチリと開いたが、何の変化もない。
一旦閉めて反対側に回って窓を開いても、やはり何も起こらなかった。
「ドラ◯もんの道具みたいにはならないな。フィル、本当にここで合っているのか?」
レオが僕を振り返るが、確かにここで間違いはないはずだ。
「うん。ここで間違いない。だけど…」
そう言って地面に視線を落とした時、窓に平行した場所に瓦礫が落ちているのを発見した。
(何だ? 何か壊されたような跡が…)
フワフワとそこに飛んで行って、そこに白い壁のような物があった痕跡が残っているのを見つけた。
(窓に平行して立っていた壁? まるで部屋の一部のような…)
そう考えた所で、誰かの言葉が僕の頭の中にこだまする。
『月影の窓を開け』
ああ、そうだ。
「レオ、ここに壁を作れないかな?」
僕は地面に残る壁の跡を指さした。
「え、壁?」
レオが僕の所に近寄ってきて、そこに壁の跡があるのを確認した。
「ここに壁があったのを誰かが壊したんだな。多少の土魔法は使えるからやってみる」
レオが両手の指先に魔力を流して、地面に転がっている瓦礫に向かって魔法をかける。
徐々に瓦礫が集まってきて、一枚の壁が出来上がった。
「ふうっ! …これでいいか?」
額に滲んだ汗を拭いながら、レオが僕を振り返る。
「ありがとう。これで夜まで待てばいいんだ」
「え? 夜まで? 今じゃないのか?」
何となくレオにも僕がどうして壁を作らせたのかわかっているみたいだが、まさか夜まで待つとは思っていなかったようだ。
現に壁には太陽に照らされて出来上がった窓の影が映っている。
「この影じゃダメなんだ。月の明かりに照らさせて出来る影じゃないとね」
「へえぇ。まるでゲームの謎解きみたいだな」
レオは壁に近寄って太陽によって出来た影を触ったが、何も起きなかった。
「確かにこの太陽の影じゃダメみたいだね」
夜まで時間を潰すにしても、この原っぱでただぼんやりしているのも勿体ない。
大体日陰がないので熱中症になりそうだ。
「森の中に戻ろうか? 何か魔獣がいるかもしれないし、木陰の方が休めるだろう?」
「まあ、そうだな。ここで太陽に晒されるよりはよほど良いよね」
僕達はまた森の中へと入っていった。
ここまでそれほど強い魔獣は出てこなかったので、それほど危険な目に合う事はなかった。
木陰で休んだり、小さな魔獣を狩ったりしているうちにやがて夜がやってきた。
東の地平線から夜の女神であるニュクスが空を夜に染めていく。
僕達は森の木の陰からその様子を眺めていた。
「まさか、ニュクスの姿が見られるとは…。やはりライトエルフの国が近いせいなのかな?」
レオがちょっと感慨深げにため息をつく。
「そろそろ月が顔を出す頃だ。窓の所に行こう」
僕達は森を出て、原っぱに向かった。