29 夢
ふと気が付くと、僕は自分の姿が元に戻っている事に気が付いた。
(いつの間に…?)
その事に安堵しながらも、今自分が何処にいるのかがすぐにはわからなかった。
(ここは、何処だ?)
キョロキョロと辺りを見回してようやく自分がライトエルフの国にいる事を思い出す。
(ああ、そうだ。帰ってきたんだった…)
そう思いながらも、いつ自分がここに戻って来たのかが思い出せない。
眉を寄せて考えてみても、いつ戻ってきたのかわからなかった。
考える事を諦めた所で向こうに人影がある事に気が付いた。
(あれは、陛下と…)
もう一人の人物はスレイプニルが人化した姿だった。
見慣れた姿なのに、どうしても彼の名前が思い出せない。
「……」
二人を呼ぼうとしても声が出ない。
向こうにいる二人には僕の事が見えないのか、こちらを見ているはずなのにまるで気付きもしない。
二人の所に駆け寄ろうとした所で、僕の身体に蔓が巻き付いている事に気が付いた。
(何故、ここに蔓が…)
逃れようと必死に藻掻くが、更に蔓が強く巻き付いてくる。
「ホホホッ! 私から逃げられやしないわ」
ダークエルフの女王の笑い声が聞こえる。
「……」
助けを呼ぼうにも声が出ない。
そのまま僕の意識は遠のいていった…。
「うわあっ!」
叫びながら飛び起きると、そこはテントの中だった。
「…夢か…」
横を見るとレオが寝袋の中でスヤスヤと寝息をたてていた。
まだ真夜中なのだろうか。
テントの隙間から焚き火の炎の明るさだけがチラチラと見える。
僕は再び横になって寝ようとしたが、先ほどの夢が気になってなかなか寝付けない。
(早く寝なきゃ…)
寝ようとしても何故か目が冴えて眠くならない。
まんじりとしないまま、やがて朝が来た。
「フィル、フィル」
名前を呼ばれながら、チョンチョンと肩を突かれているのに気付いて目を開けると、どアップのレオの顔がそこにあった。
「わっ! レオ、どうしたの?」
ちょっと身体をのけ反らせつつも起き上がると、レオはホッとしたように息をつく。
「朝になっても起きないからさ。もしかしたら死んでるんじゃないかって心配になったんだよ」
どうやらいつの間にか深い眠りに入っていたようだ。
「ごめんごめん。夜中に目が覚めたら眠れなくなっちゃって…。それでもいつの間にか寝ちゃってたみたいだな」
もぞもぞと僕がタオルの布団から這い出るとレオはそれを畳んでマジックバッグに放り込んだ。
横を見るとレオが寝ていた寝袋はとうに片付けられている。
「朝ご飯にしよっか」
レオと一緒にテントの外に出ると、そこには既に朝ご飯の準備がしてあった。
僕がなかなか起きないからその間に準備したのだろう。
(すっかりレオのお世話になっちゃってるな)
朝ご飯を終えるとレオはテントを解体してマジックバッグに入れる。
焚き火の後も消して、元通りに戻すとレオは僕に笑いかける。
「さあ、フィル。出発しようか」
「うん、行こう」
僕とレオは再びライトエルフの国に向かって歩き出すのだった。