23 少女
再びライトエルフの国に向かって歩き出した僕達だけれど、いつになったら辿り着けるのだろうか?
そもそも、本当に今進んでいる道は正しいのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるが、今さら引き返すわけにもいかない。
ただひたすらにこの道は正しいと信じて進むしかないのだ。
そういえば、さっきのレオの言葉が気になっていたんだっけ。
「レオはスフィンクスを知ってたの?」
僕の問いかけにレオはちょっと虚を突かれたような顔をみせる。
「あ、ああ。…実は僕、前世の記憶があってさ。その時にスフィンクスの写真をみたんだ」
「そっか」
まさかレオにも前世の記憶があるとは思わなかったな。
僕としてはそこで話は終わったと思っていたが、今度はレオから質問された。
「写真って何って聞かないんだね。もしかしてフィルも写真の事を知っているのかな?」
…あ、バレちゃったか…。
こうなると今さら隠しても仕方がないな。
「そうだよ。僕も前世の記憶があって、スフィンクスは写真で見た事があるんだ」
「へぇ。二人共、前世の記憶があるなんて、不思議な偶然だね」
レオは脳天気に笑っているけれど、本当に偶然なんだろうか?
歩いているレオよりも少し先を飛んでいた僕は、微かな声を聞いたような気がした。
「ねぇ、レオ。何か声がしなかった?」
「え?」
レオが立ち止まって手を耳に当てて、耳をそばだてるような素振りをみせる。
「うーん。特には聞こえないけど…」
「おかしいな。気のせいかな?」
僕は更に先へと進むと、やはり微かな声が聞こえた。
どうやら誰かが泣いているような声だ。
「やっぱり聞こえるよ。誰かが泣いているみたいだ。あっちから聞こえる」
「あっ、フィル、待ってよ」
飛ぶ速度を速めた僕をレオが走って追いかけてくる。
やがて僕の目の前に原っぱが見えてきた。
その中央に座り込んで泣いている少女の姿が見えた。
「ねぇ、君。どうしたの?」
僕が声をかけると、ビクリと肩を震わせた少女がゆっくりと振り返った。
歳の頃は七~八歳くらいだろうか?
シルバーブロンドの髪に青い目をしているが、その耳は長く尖っていた。
(もしかして、エルフの子供かな?)
少女は涙を拭うと
「あなた、誰?」
と、聞いてきた。
そこへ息を切らしたレオが、ようやく追いついてきた。
「フィル、おいていくなんて酷いよ! …あれ、この子は? …もしかして、エルフ?」
ゼエゼエ言っているレオに、エルフの少女は更にビクついている。
「…こんな所に人間?」
青褪めた顔をしている少女は今にも泣きそうな顔をしている。
(せっかく泣き止んだのに、レオを見たせいでまた泣いてしまいそうだ)
僕は少女に近寄って安心させるような声で話しかける。
「僕はフィル、そしてこっちはレオ。僕達はライトエルフの国に行くために一緒に旅をしているんだ」
僕と一緒に旅をしていると知ると、レオレの警戒が少し溶けたようだ。
「私はエイミーよ」
「エイミー、どうして泣いていたの?」
「…お家がわからなくなっちゃったの」
「一人で出てきたの?」
エイミーはコクリと頷くと俯いてしまった。
「家の前で遊んでいたんだけど、蝶々を追いかけてたら、お家がわからなくなっちゃった…」
今にも消え入りそうな声で呟く。
僕とレオは思わず顔を見合わせてしまった。
「どうしよう、フィル。一緒にお家を探してあげた方がいいのかな?」
「でも、僕達だってこの子の家が何処なのか分からないよ」
「だけど、このままここにほったらかして行くわけにはいかないよね…」
レオの言う事ももっともだ。
一緒に歩いていると、そのうちこの子を探している親か、この子を知っている妖精に出会えるかもしれない。
僕は俯いているエイミーの顔を覗き込んだ。
「僕達で良かったら一緒にお家を探してあげるよ。一緒に行くかい?」
すると、エイミーはパッと顔をあげて嬉しそうな顔をする。
「ほんと? 一緒に探してくれる?」
「ああ、いいよ。さあ、一緒に行こう」
レオが手を差し出すと、エイミーはおずおずとその手を握った。
「それじゃ行こうか」
僕とレオはエイミーを間に挟むような形で歩き出した。