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2 目覚め

 眩しい光を感じて僕は目を開けた。


「…ここは、…何処だ?」


 いつもと違う感覚に戸惑い、布団も掛けていない事に眉をひそめる。


「昨夜は普通にベッドに入ったはずなのに…」


 そう独りごちて身体を起こすと目の前には大きなマッチ棒のような物が数本立っていた。


 ただし、そのてっぺんは赤ではなくて黄色い色をしている。


「何だ、これ?」


 不思議に思ってその黄色い部分を触ると、手にベタベタとした黄色い粉が付いた。


(…まるで花粉みたいだな…)


 キョロキョロと辺りを見回すと、赤い壁が僕を取り囲んでいる。


(ここは何処だ?)


 自分の部屋で寝ていたはずなのに、見覚えのない場所に困惑するばかりだ。


 すぐ横に見える壁に沿って視線を上げていくと、そこには小さな穴があって光が差し込んでいた。


 どうやらこの光が眩しくて目が覚めたようだ。


 見上げていると、その穴がだんだんと大きくなっていく。


 それと同時に壁も外へと広がっていった。


「……!」


 壁はどんどんと外へ広がり、終いには床のように広がってしまった。


 そこで初めて僕はそこが花の中だとわかった。


 大きなマッチ棒のような物は花粉が付いた雄しべだったのだ。


「これが花? 一体どれだけ大きな花なんだ?」


 僕の身体がすっぽり入る花なんて、まるで現実味がない。


(これはきっと夢なんだ。もう一度寝て起きたらまた元の世界に戻っているさ)


 そう考えた僕はもう一眠りしようと、その場に横たわろうとした。


 その途端、激しい頭痛が僕を襲う。


「い、痛い!」


 頭を押さえる僕の脳内に走馬灯のように映像が流れてくる。


 目の前に座っている王の背中。


 そこに現れたダークエルフの女王。


 立ち上がろうとした王と自分に巻き付く黒い蔓。


 そしてダークエルフの女王の毒を受けて消えていった王…。


 そこでようやく僕はライトエルフの王の側近だった事を思い出した。


 そしてダークエルフの女王から放たれた毒によって王と僕が殺された事を…。


「くそっ! ダークエルフの女王め! よくも僕と陛下を殺したな!」


 怒りと悔しさと王を守れなかった後悔で僕の感情はグチャグチャになり、僕はポロポロと涙を零した。


 ダークエルフの女王から「話がある」と持ちかけられた時にもっと警戒するべきだったのだ。


 今更悔やんでも仕方がないのはわかっているが、どうにもやるせなかった。


 …だが…。


 僕がこうして転生したという事は陛下も何処かに転生しているはずだ。


「こうしちゃいられない。早く陛下を探さないきゃ…」 


 あの時、ダークエルフの女王が奪い取ったのは、本物の「王の証」ではない。


 ダークエルフの女王の目的はあの「王の証」だろうと見越して、陛下は偽物を用意した。


 だが、まさかあの場で毒を浴びせられて殺されるとは思ってもいなかった。


「まさかあそこまで物騒な女だとは思わなかったな…」


「女だから」と高をくくってしまったのは誤算だった。


 あれからどれくらいの時が過ぎたのかはわからないが、ダークエルフの女王はあの「王の証」が偽物だと気付いているだろう。


 あの時、陛下は本物の「王の証」を何処かに隠してしまった。


(ダークエルフの女王よりも先に「王の証」を見つけないと…。ダークエルフの女王が妖精王になると、人間界にも影響が出るぞ) 


「妖精王」とはかつてアルフヘイムと人間界に平和をもたらしたという伝説の存在だ。


 だが、時が経つにつれて妖精の中にも邪悪な心を持つ者が生まれ、いつしかライトエルフとダークエルフに分かれ、妖精王の存在は消えていったという。


 そしてライトエルフとダークエルフの二つの「王の証」を手にした者が「妖精王」になれるという伝説が残っている。


 その伝説が何処まで本当かはわからないが、ダークエルフの女王にそれを渡してはならない事だけは確実だ。


「陛下を探すのはいいけれど、先ずは自分がどんな状況に置かれているのか把握しないと…」 


 僕は今いる場所から出ようと立ち上がって一歩を踏み出した。


「…うわっ!」 


 途端にバランスを崩して落ちそうになる。


 咄嗟に目の前にあった雄しべを掴んたが、花の茎は傾き僕は雄しべを持ったまま宙吊り状態だ。


「わわっ! 落ちる!」


 必死で雄しべを掴んでいる僕の周りを何やら光の玉のような物がふわふわと舞っている。


「何だ? この光は?」


 光の玉から何か音が発せられているようだが、まったく聞き取れない。


 そのうちに花の茎はどんどんと傾き、やがて僕の足の先は地面へと到達した。


「ふう! やれやれ、助かった」


 足が地面に確実に届いたのを確認して雄しべから手を離すと、花は僕をバシッと弾き飛ばして元通りにまっすぐ立った。


 花に弾かれた僕は後ろへと尻餅をつく。


「いてて! 何すんだよ!」


 花に文句を言いつつ立ち上がると、「プッ!」と誰かが吹き出した声が聞こえた。


(今のを見られてた!? 見てたんなら助けてくれても良いのに…) 


 恥ずかしさと怒りで顔を赤くして声のした方を振り向くと…。


 そこには見上げるほどに大きな少年が立っていた。


 少年は握った手を口元に持っていき、可笑しそうに僕を見ている。


(何だ、あいつ!? もしかして巨人族か?)


 一瞬、そう思ったがすぐにそうではないと気が付いた。


 そう、僕の身体の方が小さくなっていたのだった。

 

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