11 お使い
「僕達はあなたの宝を盗みに来たわけじゃありません。さっきの地震で穴が出来たらしく、そこに落ちてしまったんです」
レオが必死に説明するも、ノームのおじいさんは疑わしそうな視線を向けるだけだ。
「地震で穴が出来て落ちた? お前さんはともかく、そのちびっ子妖精が穴に落ちるわけがないだろうに」
ノームのおじいさんに図星を突かれ僕はすぐに反論する。
「僕はレオが穴に落ちたから追いかけていっただけだ。決しておじいさんの宝を狙って来たわけじゃないよ」
「ふん! 口では何とでも言えるわな。だいたい盗人が正直に『盗みにきました』なんて言うわけがないだろうが!」
おじいさんの言い分もわからなくはないが、本当の事なのでそこは信じてもらいたいものだ。
どう言えば納得してもらえるのかと思案していると、「ゴゴゴッ」という不気味な音と共に今立っている場所が揺れだした。
「うわっ! また地震だ!」
レオが不安そうに叫んでいる。
僕は今、宙に浮いているし、前世でも何度か地震を体験しているので、これくらいの揺れならどうって事はない。
だが、ノームのおじいさんに疑われたままでは、この地下から脱出する事は出来ないだろう。
「ほら、今のような地震で穴があいて落ちてきたんですよ」
レオの必死の訴えにノームのおじいさんは鬱陶しそうにパタパタと手を振っている。
「こんな事はいつもの事じゃ。…だが、ちと周期が短すぎるか…?」
後半の方は何やらブツブツと呟いていたので良く聞き取れなかったが、こんな地震は良くある事らしい。
何とか誤解を解いて早く地上に出たい。
今にも上の岩が崩れ落ちてきて潰されるんじゃないかと気が気じゃない。
ノームのおじいさんは意味ありげに僕達を見ると、ちょいちょいと手招きをする。
「なんですか?」
僕達が近寄るとノームのおじいさんは「エヘン」と咳払いをする。
「いやなに。この地震を引き起こしている奴にちょっと話を聞いてきてくれんかの? そうしたら地上に出る道を教えてやろう。どうじゃ?」
僕とレオは顔を見合わせたが、お互いに考えている事は一緒だった。
僕達は頷き合うとノームのおじいさんに「やります」と答えた。
「そうかそうか。それじゃこれを持っておいき。…はて、何処にしまったかの?」
おじいさんは自分の服のポケットをあちこちゴソゴソとまさぐっていたが、ようやく見つけたらしい何かを取り出すと、ポンとレオに放り投げて来た。
レオは両手でそれをキャッチすると、手を開いて中身を確認した。
そこには黒くてツヤツヤと光る鱗があった。
(地中なのに魚の鱗?)
僕が不思議そうにその鱗を眺めていると、おじいさんはもったいぶったように告げる。
「そいつは希少な物じゃからな。後で必ず返してくれよ」
希少な物と言いながら随分とぞんざいな扱いのような気もするが…。
「わかりました。それで、どちらに行けばいいんですか?」
「それを持って歩けば自ずとその鱗の持ち主の元に辿り着くわい」
この小さな鱗にそんな力があるとは…。
レオはなくさないようにその鱗をポケットに仕舞うと、おじいさんに背を向けて歩き出した。
*******
ノームはフィルとレオの後ろ姿を見送ると、ふうとため息をついた。
「やれやれ。あんな小さななりをしていても、纏う妖力は膨大じゃな。もっともそれを感じ取れるのは同等の妖力を持つものだけじゃけどな」
ノームはフィルが穴に落ちて来た時から、彼がライトエルフの王の側近だと気付いていた。
ライトエルフの王とその側近がダークエルフの女王に殺されたという噂はノームの耳にも届いていた。
だが、実際には殺されたのだはなく、ダークエルフの女王の手から逃れるために姿を隠したのだろうと察していた。
「じゃが、あれほど小さな妖精になっているとは…」
その点はノームにも予想外だった。
「まあ、あいつにどうにかされるようなら、ダークエルフの女王に勝てはしまいて」
ノームはふるりと首を振ると自分のねぐらへと戻っていった。