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1 プロローグ

 ライトエルフの国とダークエルフの国の境界にある広場で、両者の話し合いが行われようとしていた。


 ライトエルフの国は若き王へ、ダークエルフの国は若き女王へと代替わりしたばかりの時だった。


『会って話がしたい』


 そう持ちかけてきたのはダークエルフの女王の方だった。


 お互いの存在を気に入らないながらも黙認してきた相手からの突然の呼びかけに、ライトエルフの王は訝しく思いながらも了承した。


 中央の少し小高い位置に設置された円卓には、先に到着したライトエルフの若き王が座っていた。


 約束の時間が迫っているにも関わらず、一向にダークエルフの女王は姿を現さない。


「向こうから話を持ちかけてきたのにまだ来ていないとはどういう事だ?」


 予定された時間より少し早く来たライトエルフの王は腕組みをしたまま、自分の後ろに控える従者に愚痴をこぼす。


「まだお約束の時間までは間がありますので、間もなく来られるのではないですか?」 


 従者がライトエルフの王の気持ちを落ち着かせるように告げる。


 だが、一向にダークエルフの女王が現れる気配はなく、そのうちに約束の時間は過ぎていった。


「もうこれ以上は待てん! 帰るぞ!」


 しびれを切らしたライトエルフの王が立ち上がりかけた時、ダークエルフ側の広場にぱっと光が降り立った。


 光が消えたそこには従者を従えたダークエルフの女王が立っていた。


 女王はゆったりとした足取りでテーブルに近寄ると、従者に椅子を引かせて腰を下ろした。


「遅れて来るとはいい度胸だな。そちらから呼び出しておいて話をする気があるのか?」

 

 不機嫌さを隠さないライトエルフの王に向かってダークエルフの女王は優雅に笑いかける。


「あら、ごめんなさい。支度に手間取ったのよ」


 ダークエルフの女王はニッコリと妖艶な笑みをライトエルフの王に向ける。


 身に着けているドレスは大きく胸元が空き、胸の谷間を強調させるものだった。


 その胸元に視線が惹きつけられそうになるのをライトエルフの王は必死で耐えた。


(こんな女の微笑みと色仕掛には騙されないぞ…)


 ダークエルフの女王の顔を見ながらライトエルフの王が口を開く。


「それで、今日はどんな用件でここに呼び出したんだ?」


「自己紹介も無しにいきなり本題に入るの? …まぁ、いいわ。お互い代替わりしたばかりでしょう? おまけに男と女だから、この際婚姻を結んでエルフの世界を一つに纏めようと思っているの。いかがかしら?」


 いきなりのダークエルフの女王の提案にライトエルフの王は怪訝な顔をする。


 表立って敵対しているわけではないが、お互いに生息している場が違うのにどうして一つに纏めようとするのかがわからない。


 そこに何か別の意図を感じてライトエルフの王は身構える。


 すぐには返事をしないライトエルフの王にダークエルフの女王は畳みかけるように口を開く。


「ライトエルフの王よ。私と結婚していただけますね」 


 まるで断られるとは思ってもいない口ぶりに、ライトエルフの王は眉を寄せた。


「申し訳ないが、そなたとの結婚はいたしかねる。今更エルフの世界を一つに纏める必要がないからな。この話はなかった事にして貰おう」


 それまで優雅に微笑んでいたダークエルフの女王が鋭い視線をライトエルフの王に向ける。


「何ですって! この私の誘いを断ると言うの? 随分と身の程知らずな男ね! もう一度聞くわ、私と結婚するでしょう?」


「何度聞かれても断る! そなたと結婚する気などない! …これで失礼するぞ」


 立ち上がろうとしたライトエルフの王だったが、それよりも早く地中から伸びてきた真っ黒い蔓が体に巻き付いてきた。


「陛下!」


 後ろに立っていた従者が慌てて近寄ろうとしたが、その従者も地中から伸びてきた蔓に絡め取られる。


「馬鹿な選択をしたものね。婚姻を了承すれば命だけは助けてやったものを。お前の持っている王の証を手に入れれば、お前なんかに用はないわ。さあ、王の証を渡しなさい!」


「やはりそれが目当てだったのか! そなたには渡すわけにはいかない!」


 ライトエルフの王は必死に蔓から逃れようとするが蔓は幾重にも巻き付いてライトエルフの王の自由を奪う。


 ダークエルフの女王の腕が不自然に伸びてライトエルフの王の首に下がっているペンダントを掴んだ。


 プツッ!


 ダークエルフの女王の腕がペンダントの鎖を引き千切り、ライトエルフの王の首から奪い取った。


「ホホホッ、これさえあればもうお前に用はないわ。さあ、この世から消えるがいい」


 ダークエルフの女王の口から毒の霧が吐き出され、王の身体を包み込む。


「グウッ!」


 毒の霧に包まれた王の身体が徐々に透明になっていき、やがて影も形もなくなった。


 後ろにいる従者も毒の霧の影響を受けたのか、その場に崩れ落ちる。


「王は死んだわね。随分とあっけないものだったわ。もう少し楽しませてくれるかと思ったのに…。でもこれで妖精王の称号は私のものよ。ホホホッ!」


 ダークエルフの女王が高らかに笑っていると従者が床に転がっているライトエルフの従者を指差した。


「女王陛下、まだ従者の息があるようですが、どうしますか?」


 ライトエルフの従者はその場に倒れながらもまだ微かに息があった。


 瀕死の状態でありながらもギラギラとした目でダークエルフの女王を睨みつけている。


「放っておきなさい。どうせ長くは保たないわ。王の後を追えて本望でしょうよ。こんな所に長居は無用だからさっさと城に戻るわよ」


 女王は倒れているライトエルフの従者を一瞥すると、クルリときびすを返した。


 従者は女王が居なくなると同時に、枯れてしまった蔓を自分の身体から引き千切ると、身体を引きずるように王が座っていた椅子へと近寄った。


「陛下…、陛下…」


 呼んでも返事が返ってくるはずもなかった。


 伸ばした手が空を切り、パタリと地面に落ちる。


 従者の身体もやがて透明になって消えていった。






(…ここは、どこだろう…)


(…ああ、そうだ…)


(…僕はダークエルフの女王に…)


 最後の力を振り絞って魂の一部を分離させたが、このままではいずれ消えてしまう。


 生死の間で浮かんでいると、今にも消えそうな命を見つけた。


 生まれる事なく母親の体内で尽きてしまいそうな命だ。


(あの子と同化すれば消えずにすむ。…だが、そうするとすぐには記憶を取り戻せないだろう)


 しかし、グズグズしている暇はなかった。


 このままでは二人共、消えてしまうのは時間の問題だった。


 僕はその子に寄り添うと、同化を始めた。


(僕達は一つになるんだよ。さあ、僕と一緒に生きていこう)


 消えそうだった命が再び輝き始め、無事に母親の胎内に定着した。



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