4.秘密の扉
中央宮の裏に庭園がある。
しっかりと手入れされた木々が立ち並び、季節の花も何種類か咲いている。
ここは王族とそれに招かれた者、そして管理を任された者しか入れない、秘密の庭である。
池や軽いお茶ができるような屋根付きの休憩所もあり、代々皇帝や王族の心休まる場所となっていた。
庭園の突き当り、竹林を抜けた先に、小さな扉がある。
ここは駿星と仔空しか知らない、外へと続く扉だ。
駿星が幼い頃、母君に叱られ中央宮を飛び出した際に、偶然見つけたのだった。
「よっ、と。。。」
幼い頃はかがむ必要はなかったのに、と思いながら、駿星は扉から宮廷の外へと抜け出した。
(仔空に黙って抜け出すのは久しぶりだ。バレたら大目玉だな。)
駿星は幼い頃から宮廷の外に興味があった。
平民の暮らし、食べ物、城下町の活気、初めて見たときは衝撃的だった。
自分が今まで過ごしてきた世界とあまりにも違っていたからだ。
自分の世界と比べて、豊かさや華やかさはなかったが、みな楽しそうだった。
宮廷の中では、愛想笑いや噂話、陰謀ばかりが渦巻いているのに。
幼い駿星は度々宮廷を抜け出しては、城下町の様子を眺めたり、古本屋で珍しい書物を眺めたりしていた。
しかし、仔空にバレるのは時間の問題。
扉を見つけてから3ヶ月後、仔空にとうとう度々の外出がばれ、誰にも他言しないことを条件に扉の存在を白状したのであった。
それ以降、抜け出す際は仔空が護衛として付き、笠で顔を隠して高官を名乗っている。
15で成人してからは第二皇子として公務の一環を任されることが増え、忙しさから最近は外出の頻度は減っていた。
「______ふう、」
駿星は扉を抜けると、大きく息を吸い込んだ。
外の世界にでたというだけで、肩の荷が下りたような、自由を手に入れたような気分になる。
この扉を1歩出れば、自分はこの国の第二皇子駿星ではなくなれる気がしていた。
秘密の扉を抜けると、裏山に繋がっている。
裏山といっても、少し小高い丘のようなものだ。
麓にそってぐるっと回っていくと城下町にたどり着くのだが、今日はあまりそういう気分ではなく、気の向くままに裏山をゆっくりと登っていった。
夜風が頬を撫でる。さわさわと木々が揺れる音がする。
下の方から、微かに夜の城下町の賑わいも聞こえてくる。
開けた頂上にたどり着くと、駿星は草の上にごろりと仰向けになった。
夜空に星が瞬いている。
木々の音と、微かな喧騒、自分の呼吸。
静かな夜に、目を閉じて昼間のことに思いを巡らせた。
最初の妃を取らなければならない。
妃を迎えればいよいよ皇族として、王位継承権を持つものとして様々なことから逃れられなくなる。
現帝は母上、皇后様と仲睦まじいが、先帝は皇太后様と不仲であった。しかし皇太后様は右大臣家の娘ゆえ、無下には出来なかったようだ。
妃を取れば、駿星を取り巻く欲望や陰謀は更に顕著になるだろう。
「、、、自由からは更に遠ざかるな。」
駿星は大切な兄のことを想った。
3つ上の兄、東宮は亡き雅文妃と帝の御子である。
雅文妃は右大臣の娘で、帝の最初の妃であったが、難産の末に亡くなってしまったという。
ちょうどその頃後宮に入内したばかりであった皇后様は東宮を不憫に思い、生まれたばかりの東宮の世話を買って出た。入内したばかりで自身も寂しく不安を抱えながらも、優しく穏やかに東宮を育てる皇后様のお人柄に、帝は心惹かれたようだ。
帝は皇后様をご寵愛し、後に駿星と美雨が生まれた。そして美雨の出産と同時に、正式に皇后に据えられたのだった。
生みの親は違えど、3人は実の兄弟のように育ってきた。
兄弟の仲だけは、決して宮中の思惑や陰謀に踏みにじられたくはない。
間違っても兄と王位を争う関係にならないよう、自分が如何に政治や王位に興味がないか、自由奔放な性格で皇帝に向かないかをアピールして生きてきたつもりではあるが、ささやかな抵抗に過ぎないようであった。
右大臣家と、それに従う派閥の者は、帝の長男である東宮が次期皇帝となるのが当然だと言い、右大臣家やその一派と対立する者、右大臣一派の力がこれ以上強まるのを危惧するもの達は、皇后様の実子である駿星皇子が東宮に相応しいと唱える。
当の本人達にはそんなつもりは微塵もないのだが、対立は既に始まっているのだ。
「煩わしい、、、、。」
駿星は頭から嫌な考えを消すと、よっ、と地面から起き上がった。
その時、
「えっ、人!?わ、わわ!?」
頭上の木がわさわさと揺れたかと思うと、
人が___降ってきた。




