表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/65

君を愛さない宣言



 ダンテ様のお姿さえ知らなかった私は、その立派な体躯に惚れ惚れしながらダンテ様を見つめる。


 お兄様も筋骨隆々で、ずんぐりむっくりのお父様と、鶏ガラのように細いお母様からどうしてお兄様が……というようなほどムキムキだ。


 ダンテ様もまた、立派な大胸筋と上腕二頭筋をお持ちになっていらっしゃる。


 私はお母様に似て細身だけれど、結構力持ちだ。

 牧草の束も運べるし、アニマやエメルダちゃんも抱っこすることができる。


 ダンテ様はお兄様ぐらい力がありそうだ。

 私よりも牧草を運べるかもしれない。


 やはり、フェロモンがでている雄とは、立派な体躯をお持ちになっている。


 ダンテ様に睨まれながらそんなことを考えていた私は、一瞬ダンテ様に何を言われたのかわからなかった。


「ディジー・エステランド。俺は君を、あ、愛さ……ない」


「……?」


 愛さないと言われたのかしら。

 それはそうよね。私はダンテ様の想い人のディジーさんではないのだから。


「あ、愛さない……ことも、ないような、あるような……! 気がするような、しないような……!」


「はい……!」


 ええと。

 どっちなのかしら……!?


 ダンテ様と呼ぶのは失礼かもしれないわね。

 旦那様。旦那様と呼んだほうがいいかしら。


 どちらなのでしょうか、旦那様……!?


 などと尋ねたかったけれど、それは失礼だろうと、とりあえずお返事だけしてみる。


 せっかくの素敵な低音のお声なのに、焦っているのか怒っているのか、震えている。

 心配になってしまうぐらいだ。

 やっぱり、皆の前では人違いと言いにくいのだろう。


 間違えて婚約を申し込んだのに気づいたけれど、帰れ、とは言えないのかもしれない。

 私の立場を気づかって。


 動物も目を見るとその性格がなんとなくわかる。


 人間も一緒だと、私は思っている。

 勘でしかないけれど。その勘によれば、ダンテ様は優しい人だ。

 愛さないともはっきり言えず、微妙な表現になってしまったのね、きっと。


 私はわかりますよ、という気持ちを込めて微笑んだ。

 再びの沈黙が続く。

 ダンテ様は右や左に視線を彷徨わせた。

 まるで、目が合わない。


「……で、では。さがっていい」

 

「あの、旦那様」


「だ……っ、旦那様……!?」


 ダンテ様はがたがた音を立てて立ち上がった。


 私を睨む瞳が、剣呑を通り越して顔全体に広がり、凶相になっている。

 旦那様と呼ばれたくないタイプなのだろうか。

 

「申し訳ありません、なんとお呼びすればいいのかわからなくて」


「なんとでも呼べ。ダンテでも、だ、旦那様でも」


「では、ミランティス公爵」


「何故だ!?」


 寡黙で無表情と聞いていたけれど、ダンテ様は結構表情が豊かだ。

 怒ったり怒鳴ったり忙しい。

 

 もう少し落ち着きのある方かと思っていたけれど。

 たぶん、違うディジーが来てしまったから、動揺をしているのだろう。


「ミランティス公爵では、失礼でしたでしょうか。では、やっぱり旦那様と。ダンテ様の方がよいですか?」


「……好きにしろ」


「それでは、ミランティス公爵」


「だから、何故だ!」


「ミランティス公爵ではなかったですか?」


「ミランティス公爵だが」


 今のところ、一番穏便だと思うのだけど。

 ダンテ様は、呼び方に厳しい。

 呼び方だけでこんなにつまづいてしまうなんて、高貴な方とのお話というのは難しい。


「いけませんでしたでしょうか」


「いや、好きにしろ」


「……旦那様?」


「……なんだ」


 うん。了解を得られた。旦那様なら大丈夫みたいだ。


「どうか、私のことはお気になさらず。私が旦那様に相応しくない女だということぐらい、理解しています。ですから、その、大丈夫なのですよ」


 愛さないなど、回りくどいことを言わなくても大丈夫だ。

 今すぐ間違いだったと言って、家に帰らせてくれないだろうか。


 このままでは、色んな人に申し訳ない。


「なにも大丈夫などではない。ディジー、君は俺との婚姻を了承したはずだ」


「はい」


「俺は君を、その、愛さない、こともない、はずもないんだ」


「そ、そうなのですね」


 大丈夫かしら、ダンテ様。

 動揺しすぎて落ち着きがなくなっている気がする。


 ふと見ると、ロゼッタさんと、ロゼッタさんによく似た男性が、壁際で両手に顔を埋めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! イケメン過ぎると、恋愛メンタルは低いのよね〜(笑) (偏見かもだけどよく見るよね) どうやって二人の距離が埋まるかな〜
[良い点] ディジーちゃんとダンテ様が面白すぎるw 楽しい思い違いすれ違いにニマニマします。かわいいなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ