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終章:愛しい夜がずっと続きますように



 ダンテ様はくすくす笑っている私を眉を寄せて睨んだ。

 といってもこれは怒っているわけではなくて、困惑しているのだ。


「ごめんなさい。ダンテ様も同じぐらい、私と緊張しているのがわかって、なんだか安心してしまって」


「……緊張が、伝わってしまうのは、どうにも恥ずかしいな」


「あまり、言わない方がいいですか?」


「いや。だが……戦場に立っていた方が、気が楽だ」


「私といると、落ち着きませんか?」


「そうではなく。……その、君が愛しくて、どうにかなってしまいそうになる」


 それは、私も同じだ。

 一瞬、安堵したように緊張が抜けたものの、再び心臓がうるさいぐらいに高鳴りはじめる。


 ダンテ様の声が皮膚を通じて体の奥底にじんわり染みこんでくるかのようだった。


「あの……ロゼッタさんたちが色々と準備をしてくれて。お酒もあります。飲みますか、ダンテ様」


「いや。今日は、いい。酒に酔って、大切な記憶を失いたくない」


「……っ」


 ダンテ様はベッドに足をかけて、私に体を寄せる。

 立派なベッドが、ダンテ様の重みに僅かに沈む。


 私一人だと広すぎるベッドだけれど、体格のよいダンテ様と一緒だとちょうどいいぐらいの大きさだ。


 精悍な顔が至近距離にあって、私は緊張と羞恥に身をすくませる。

 恥ずかしがっていないで、積極的に。頑張らなくては――なんて思っていた。


 けれど、そんなことも吹き飛んでしまうほどに、体が硬くなってしまう。


「綺麗だ、ディジー」


 耳元でささやかれて、顔にぶわっと熱が集まる。

 ダンテ様は、婚礼の儀式からなにかが吹っ切れたように、飾らない言葉で気持ちを伝えてくれる。


 嬉しい。けれど、照れてしまう。


「……ありがとうございます」


「いつも、楽しそうにしている君がこれほど緊張をしている姿は、はじめて見た」


「……私も、驚いています。もっと、平気でいられるって、思っていました。でも、はじめてのことなのでドキドキしてしまって」


「俺も同じだ。できる限り、傷つけないようにする。ディジー……触れても、いいか」


「はい」


 言葉を奪うように、唇が重なる。

 私よりもずっと大きな手が、私の腰を抱きすくめる。

 唇を合わせながらそっとベッドに倒されて、私は心許なさにダンテ様の腕をぎゅっと掴んだ。


 舌先が唇の間を撫でる。

 促されるようにして唇を開くと、もっと深く唇が合わさった。


 私はダンテ様を、遠慮がちで謙虚で、恥ずかしがり屋な方だと思って侮っていたのだろう。


 私が頑張らなくてはいけないなんて――そんなことは全くなくて。


 逞しく、立派な体躯に縋り付くことしかできなくて。

 ずっと私を好きだったのだというダンテ様の思いを、ぶつけるように。

 荒波に揉まれる小舟のように翻弄されて、涙の雫をこぼした。


「ディジー、辛くは?」


「……大丈夫です」


「愛している。好きだ、ディジー。まるで、夢のようだ」


「夢では、ありませんよ。……私はここにいます。あなたの、傍に。これからも、ずっと」


「あぁ」


 挙式をあげて皆に祝福されたとき、これ以上幸せなことはないと思った。

 けれど、こうして、取り繕うものなんてなにもないぐらいに体を寄せ合い指を絡め合っていると。


 甘美な多幸感で胸がいっぱいになる。


 体が溶け合ってしまうように。

 一人ではないのだと。寂しくないのだと。


 怖いことはもうなにもなくて、あなたとずっと、愛し合っていられるのだと。

 それを嬉しいと、強く思う。


 筋肉の隆起する背中を撫でて、助けを求めるように軽く爪を立てる。

 謝る私に、なんでもないように、むしろ嬉しそうにダンテ様は艶やかに微笑んだ。


 こんな時でも、笑わない男性の笑顔とは凶悪なものなのだと、思い知らされる。


 胸がきゅっとして、愛しさが体中にあふれた。


 一生分の大好きを伝えて、それ以上の幸福を伝えて。

 ぐったりとベッドに疲れ果てて横たわる頃には、夜明けが近かった。


「……すまない、ディジー。……辛くはないか。夢中に、なってしまって」


「ダンテ様。こういう時は……といっても、はじめてなので、私も詳しく知っているわけではありませんけれど。でも、言うべきは、すまないではなくて」


「愛している」


「っ、はい、私も……大好きです、ダンテ様」


 力の入らない指をダンテ様の手に絡めて、微笑む。

 引き寄せられて抱きしめられると、抗えない眠気に襲われる。


 日が落ちるとすぐに眠ってしまう私が、こんなに起きているのは――生まれてはじめてかもしれない。


「ごめんなさい、もう、眠くて……もっと、お話ししたいのに」


「明日も、明後日もずっと、一緒だ。おやすみ、ディジー。君の安らかな眠りを妨げるものがないように、君を俺がこれからもずっと守っていく。だから、ゆっくり眠れ」


「……ダンテ様。……あなた、好き。大好きです」


 抱きしめられると、安堵が体に満ちる。


 私は目を閉じて、微笑んだ。

 愛しさに満ちたこんな夜が、ずっと続いていけばいい。


 これからも、ずっと。いつまでも、ずっと。




お読みくださりありがとうございました!

評価、ブクマ、などしていただけると、とても励みになります、よろしくお願いします。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

きりがいいのでここで完結にするのですが、

隣国との戦いの顛末や、叔父との軋轢の顛末など何も書いていないので、

ただただ幸せな話しが書きたかったので、

もしかしたら二章を書くかもしれません。その時はまたよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み終えて「ただただ幸せな話だったな」と独り言を言ったら後書きに「ただただ幸せな話が書きたかったので」とあり笑ってしまいました。 ざまぁやドアマット状態、ヘイトを集める登場人物等全く出な…
[良い点] すごく幸せな気持ちになるお話でした…! 笑えるシーンもぐっとくるシーンもいっぱいあって、ラストの幸せいっぱいに感動しました 語彙がなくてうまく伝えられないのがもどかしいですが、この物語を読…
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