ダンテ・ミランティス、不安になる
◇
はじめて共に出かけた日、色々問題は起こったもののディジーは楽しんでくれたように思う。
俺は饒舌に言葉を口にできるわけでもないし、女性の扱いが上手いわけでもない。
だが、ディジーは終始笑顔でいてくれた。
信頼できる者たちがいる場所だと、ミランティス家について感じてくれている。
そう伝えてもらった時に、どれほど嬉しかったか分からない。
だが、どういうわけか共に出かけた翌日からディジーは部屋にこもるようになった。
具合が悪いのか。それとも、何か機嫌を損ねてしまったのか。
もしくはやはり、エステランドに帰りたいのか。
俺が、嫌いなのか。
悪い想像ばかりが頭をよぎり、意味もなくぐるぐると自室を歩き回る。
食事は共にしているために、よく食べていることは知っている。
機嫌が悪い様子もなく、顔を合わせればにこやかに挨拶をしてくれるし、話しやすいようにとすぐ傍で食事をしてくれる。
「ディジー、部屋からあまり出ていないようだが」
(結婚が嫌になったのか? 故郷が恋しいのか? もしかして部屋で一人で泣いているのでは……!)
聞きたいことは多々あったが、俺の口から出てきたのは当たり障りのない、その上素気ない質問だけだった。
ディジーは気にした様子もなく、「お部屋もとても快適ですよ」と笑顔で答えてくれた。
何か、誤魔化されている気がしたが、それ以上は聞けなかった。
食事を終えるとそそくさと部屋に戻ってしまうディジーの細い背中を見送って、俺は重い息をついた。
「ディジー様の姿がこのところみえませんね」
「ディジー様と喧嘩でもなさったのですか、ダンテ様」
執務室ではサフォンとディーンが悪気なく聞いてくる。
俺が何も言わないと、二人で話をしはじめた。
「ディジー様の姿が見えないと、なんだか心配になりますね」
「愛らしい方だからな」
「愛想のないダンテ様とは正反対ですからね。ディジー様は愛想の塊のような方ですから」
「それも、自然体で嫌味がない。街のものたちからの評判もすこぶるいいようだ」
サフォンの言葉に、ディーンは大きく頷いた。
「この間のデートの際に、ディジー様が街の者たちに挨拶をしてくれたのですよね。それから、闘牛場でのことや、大聖堂での演奏も。人の噂は早いですから、ダンテ様が優しく朗らかな女性を娶ったと、皆口を揃えて言っています」
「ディジー様がきてくれてよかった。ダンテ様が誰も娶らず、ミランティス家の血筋が途絶えるのかと心配していたからな」
「ええ、本当に」
家の者たちが心配をしていたことは知っている。
二十歳過ぎて結婚をしないというのは、血筋を残すことが仕事の一つとされている貴族では、あまりないことだからだ。
家を継ぐことのできる兄弟が多いのならば、まださほど問題にはならない。
だが、俺の場合は一人だ。
俺に何かあった場合、ミランティス家の者たちは主を失い困窮することになる。
その際、付き合いの薄い親戚がこの家を継ぐことになるのだろうが、恐らくは跡目争いが起こり混乱することだろう。
俺が嫁を娶り、子をつくるのが、ミランティス家にとっては大切なことだとは十分承知している。
それもせずに国境の戦に軍を率いて向かったことについては、ディーンには小言を何度か言われた。
「それで、ダンテ様。せっかく嫁いで来てくださったディジー様に何かしましたか?」
「嫌われるような何かを」
「歩調を合わせずに置き去りにしたとか」
「また、君のことを愛していると言おうとして、愛さないような愛さなくもないような、と、妙なことを言ったのでは」
何も言ってない。だが、何も言わな過ぎてよくなかったのではないだろうか。
ディジーがあれほど俺に優しく言葉をかけてくれたのに、俺は自分から話題を振ることさえ満足にできなかった。
思い出すと、反省ばかりだ。
「何も言っていないが……ディジーは、部屋にこもっている。お前たちは、何か知らないか?」
ディーンとサフォンは顔を見合わせた。
それからしばらくして、ディーンはロゼッタに「ディジー様はお加減が悪いのか?」と尋ねたようだ。
だが、「お元気ですよ。ですが、ディジー様はいらしたばかりなのですから、色々とあるのです」と、誤魔化されたらしい。
サフォンもそれとなく侍女に尋ねてみたものの「サフォン様、ディジー様はお元気ですので心配ありません」と言われて、部屋にこもっている理由までは教えてもらえなかったのだそうだ。
ディジーが部屋にこもって数日。
ディーンとサフォンは「ディジー様は故郷に好きな男性がいたのでは」「もしかしたら、ダンテ様に遠慮なさって、言い出せないだけなのでは」と言いはじめた。
「その場合、俺はどうしたらいい」
「略奪愛というものがあります」
「故郷の男を忘れられるぐらいに、ダンテ様がいい男であれば問題ありません」
「しかしダンテ様は、愛想がないですからね……」
「ダンテ様は、口下手ですからね……」
それは俺も、大いにそう思う。
気の利いたことを口にできる自信などない。
本当は嫌われているのかもしれない。他に好きな男がいて、その男を想って泣いているのかもしれない。
そんなことを考えていると、どうにも腰が重くなってしまう。
どうするべきかと話し合っていると、部屋の扉がたたかれて、真剣な顔をしたディジーが現れた。
「ダンテ様、大切なお話があるのです」
終わった、と思った。
別れ話だ。
まだ結婚はしていないが。
エステランドに好きな男がいるから、帰りたいと言うのかもしれない。
サフォンとディーンも何かを察して、青ざめて震えている。
俺は慌てて立ち上がった。そのせいで、テーブルに体をぶつけて、書類がバサバサと床に落ちた。
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