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とても目立っています、旦那様



 ダンテ様を乗せるのだから、ヴァルツもとっても立派な体躯を持った馬である。

 そしてヴァルツに乗ったダンテ様は、なるほど氷の軍神――というぐらいに立派なお姿だった。


 そんなダンテ様に横抱きにされて馬に乗せられている私は、さながら軍神に救出された村娘――という有様である。

 自分ではそう思うのだけれど、もしかしたら美しいドレスを着せてもらっているので、救出された小国の姫ぐらいの雰囲気は醸し出せているかもしれない。


「いつもは一人で馬に乗っているのですけれど、乗せていただくのもいいものですね」


 落ちないようにダンテ様の腰に捕まる。

 すごく、大樹という感じがする。巨塔のようで、大樹のようなダンテ様は、素晴らしい体格をお持ちだ。

 惚れ惚れしながらそのしっかりした体幹を全身で感じている私を、ダンテ様は睨むように見据える。


「ディジー、ヴァルツはエステランドの馬だ。お前の父から買った」


「まぁ、そうなのですね! お父様は何も言っていませんでしたけれど」


「ミランティス公爵領の軍備のために、軍馬を何頭も仕入れたのだ。仕入れの担当は、ミランティス領の馬主だからな。俺が購入したことは、お前の父は知らないだろう」


「ご購入ありがとうございます、ダンテ様。ヴァルツはもしかしたら、私が幼い時に我が家にいた馬かもしれないのですね。ごめんなさい、ヴァルツ。忘れていたとしたら、申し訳ないです……」


 ヴァルツは軽く首を振った。

 言葉を理解してくれている。賢くていい子だ。そして、エステランド産の馬だと思うと余計に愛しい。


「ダンテ様は、エステランドから沢山色々とご購入していただいて……私まで娶ってくださり、ありがとうございます。ふつつかな女ですが、よろしくお願いします」


「い、いや……あぁ、まぁ、そうだな……」


 ミランティス家の門を通り、橋を越えると人々が暮らしている街が広がっている。

 整備された道の中央には、乗り合い馬車や馬が行き交い、歩道を歩く人々の姿もある。

 ダンテ様の姿を見た人々はぎょっとしたように目を見開いて、それから深々とお辞儀をした。


 ダンテ様は慣れているのだろう、あまり気にした様子もなく、人々に視線を向けることもない。

 私はダンテ様と街の人々の顔を交互に見た。

 

 ダンテ様は目立つ。

 ということは、ダンテ様に抱かれている私も目立っている。


 これからお世話になる領民の方々だ。

 エステランドの街の人々とは、家族のようなものだった。

 ミランティス領の人々とも、できることなら仲良くしていきたい。


「はじめまして、ディジーと申します! ダンテ様の元に嫁いでまいりました、よろしくお願いしますね!」


 私はダンテ様の腕の中でにっこり微笑んで、頭をさげてくれる街の方々に手を振った。

 凱旋パレードみたいだ。けれど、ここはダンテ様の妻としてちゃんとご挨拶をするべきだろう。

 

 挨拶は大事だと、私はお父様やお母様からきちんと教育されている。


「ディジー様……」

「ディジー様、なんと、お優しい……」

「鬼神に攫われてきた姫みたいだ……」


 顔をあげた人々が手を振り返してくれるので、私は嬉しくなってもっと手を振った。

 ミランティス領とは、想像もできないぐらいに都会だと思っていたし、実際そうだった。

 でも、どんな土地に住んでいても、笑顔で挨拶したら皆きちんと返してくれることが分かって嬉しい。


「ディジー、……あまり愛嬌を振りまくな」


「ごめんなさい、いけませんでしたか? ダンテ様の妻として、第一印象は大切だと思ったのです」


「……君の心がけは、理解した。だが」


「領主たるもの、多少はおそれられることも大切なのですね。ダンテ様の威厳、素晴らしいと思います」


「あ、あぁ。……違う、俺が言いたいのはそういうことではなくて」


「ダンテ様がにっこりできない分、私がにっこりします。にっこりするのは得意なのですよ」


「ぐ……っ、可憐だ……」


「ダンテ様?」


 ダンテ様は時折小さな声で何かをもごもご言うので、聞き取れないときがある。

 不思議に思ってじっと見上げると、視線を逸らされてしまった。

 ミランティス領ぐらい大きな領地であり、公爵様ともなれば色々あるのだろう。

 

 闘牛場までの道すがら、私はにこやかに手を振り続けた。

 確かにロゼッタさんの言うとおり、ダンテ様はダンテ様として目立っていた方が危険が少ないような気がする。

 それぐらい、皆から尊敬されていて、同時に少し怖がられている。


 ダンテ様が見回りをしたら犯罪なんてなくなってしまうんじゃないかと思えるぐらいだ。


 私にはそういった威厳のようなものはない。

 ナイフやハサミは持ったことがあるけれど、剣は持ったことがない。


 尊い身分の方というのは、その身分が貴いだけに、常に危険に晒されていると思っていた。

 けれど、何かあるとしたらダンテ様ではなくて私だろう。

 ダンテ様に迷惑をかけないように、傍を離れないようにしなければと決意を新たにした。



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