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闘牛を見ましょう旦那様



 ダンテ様の準備は素早かった。

 私はロゼッタさんにお出かけ用のショールを着せてもらって、髪に花の飾りをつけてもらった。

 街で目立っても大丈夫なのだろうかと疑問だったのだけれど、「ミランティス領でダンテ様に刃向かおうと思うお馬鹿さんはいません。むしろディジー様は、ダンテ様の妻として目立ったほうが安全です」とロゼッタさんは言っていた。


 ドレスに可愛らしくも上質なショール、美しく煌びやかな髪飾り。

 薄化粧もしてもらって、こんなに綺麗な格好で街を歩くのははじめてだ。


 私が準備を終えてお屋敷の入り口に向かうと、ダンテ様はすでに準備を終えて待っていた。


「お待たせしました、ダンテ様。とても早いのですね」


「あ、あぁ。街に行くだけだ。……さほど準備は必要ない」


 そういうダンテ様は、黒い革手袋に、腰には帯剣。黒いマントに上質でしっかりした生地のお洋服を着ている。

 先ほどのお洋服とは違う気がするのだけれど、気のせいかもしれない。ともかくよく似合っている。


 隣に並ぶと、私よりも腰の位置が高い。そして、頭は私よりも一つと半分ぐらい高い場所にある。

 

 巨塔みたいだ。


「ダンテ様、大きいのですね。私はそこまで小さいほうではないのですけれど、背伸びしても私の頭はダンテ様の肩ぐらいまでしかありません」


「そうだな。幼い頃から鍛えていたら、自然とここまで育った。それに、俺と同程度の身長の男など五万といる」


「国の中央の方々は背が高いのでしょうか。お兄様はエステランドでは特別大きかったですけれど、ダンテ様の方が大きい気がします」


 やっぱり食べるものが違うのかしらと感心しながら、私は背伸びをしてダンテ様の頭と自分の頭を比べてみた。

 ダンテ様は一歩さがると「出かけるのだろう、ディジー。日が暮れる」と言って、扉から出て行こうとする。

 私は慌ててその後を追いかけた。


 追いかけようとして、くるりと振り向くと、お見送りに並んでいるロゼッタさんやサフォンさん、ディーンさんや使用人の皆さんたちにペコリとお辞儀をする。


 お辞儀をしたあと思い直して、ドレスのスカートを摘むと礼をした。

 私も、このお辞儀の仕方ぐらいは家庭教師の先生から習っている。

 ちなみに、練習以外でこのお辞儀をするのは初めてだ。


「みなさん、行ってきますね!」


 何故かロゼッタさんを筆頭に、皆さん肩を落としたり両手に顔を埋めたりしていたのだけれど、私が声をかけると慌てたように居住まいを正して礼をしてくれた。

 行ってらっしゃいませ──と送り出してくれるので、私は嬉しくなってもう一度お辞儀をした。


 今度は皆で拍手をしてくれたので、私は得意げな顔で微笑んだ。

 微笑んでいるとダンテ様の姿が見えなくなってしまったので、ドレスの裾を掴んで小走りに追いかけた。

 走るのは得意だ。結構早い方だと思っている。


「ダンテ様、ごめんなさい。遅くなりました」


「別に……問題ない。ディジーあまり走るな」


「あっ、そうですよね。貴族女性は走らない。忘れていました。ちゃんと覚えておきますね」


「そういうことではないが……」


「違うのですか?」


「なんでもない。街までは馬に乗る。共に乗れるか」


「はい! 馬に乗るのは得意です」


 馬に乗るということは、馬に触れるということよね。

 毎日のように触っていた動物たちが今はいないので、お部屋のクッションで代用していたのだけれど、やはりクッションと本物の馬は違う。


 馬番の方が、見事な黒毛馬を引いてやってくる。

 真っ黒な瞳は賢そうで、立髪はやや灰色をしている。つるりとした体は美しい黒色で、長い尻尾は灰色だ。

 精悍な顔立ちをした馬である。

 ダンテ様からもフェロモンが出ているけれど、ダンテ様の乗る馬も馬界ではかなりの男前だろう。

 とても雌に人気がありそうな姿をしている。


「この子の名前はなんというのですか?」


「ヴァルツだ」


「はじめまして、ヴァルツ。素敵な立髪ですね、体も艶々ですね。大事にされているのがよくわかります。触ってもいいですか?」 


 挨拶をする私をヴァルツはじっと見つめて、それから軽く馬首をさげた。

 触っていいと言われているのが分かったので、その首にそっと触れる。

 とても温かい。馬の感触だ。懐かしい。


「ヴァルツは触られることを嫌がるのだがな」


「そうなのですね。触らせてくれてありがとうございます、ヴァルツ。とてもいい子ですね」


「あぁ。長く共にいる。君は、やはり動物の扱いが得意なのだな」


「得意かどうかはわかりませんけれど、いつもお世話をしていましたので、慣れているといえば慣れているかもしれません」


「そうか。では、行くぞディジー。街の中心地までは歩いても行けるが、馬の方が早い。君はどこか行きたい場所があるか?」


 尋ねられて、私は軽く首を傾げた。

 どこに行きたいと言われても、何があるのかもさっぱりわからない。


「劇場や、音楽鑑賞用の屋外ステージがある。闘技場や、それから、散策用の公園がある。あとは、闘牛場や競馬場があるな。それから、カジノなどか」


「闘牛、競馬!」


「あまり、女性の行く場所ではない」


「そ、そうですよね」


 闘牛や競馬は噂には聞いたことがある。

 でも、実際には見たことがない。見てみたかったけれど、両方ともお金をかけて遊ぶ場所である。

 私は行くべきではないかとちょっとだけがっかりした。


 馬が走る姿や、牛が走る姿を見たかった。


「君が行きたいのなら、別に構わない」


「いいのですか?」


「あぁ」


「じゃあ、闘牛を見てみたいです! 馬は、ヴァルツに触ることができたので、牛が見たいです、牛!」


「分かった」


 私は自分で馬に乗ることができるのだけれど、ダンテ様が抱き上げて乗せてくれたので、大人しくしていた。

 私の腰を掴む手が大きくて、なんだかドキドキした。



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