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ソロモンは愛ゆえに  作者: 結川 黎
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通りすがりの助っ人

 あれから一週間が経つが、胡桃はまだ学校に来ない。先生に聞いたら病院に通っているらしい。西園寺先生も法事のあれやこれやで忙しいらしくまだ来ない。日常というのはこうもあっさり崩れてしまうのかと、嘆いてしまう。それでも、勉強はしなくちゃいけないし、バイトにもウィズダムにも顔を出さなきゃいけない。いつまでも落ち込んでいてもしょうがない。胡桃や西園寺先生が戻ってきたときに、今まで通りの会話ができるくらいにはしておかないと。

 今日はウィズダムに向かう日だ。帰りのホームルームを終え、事務所に向かう。


 事務所の扉を開けると、珍しく雑賀さんがいた。ボスとなにやら話していたようだ。

「おつかれさまでーす。雑賀さんいるの珍しいっすね。基本外にいるイメージだったんで。何かあったんすか?」

 雑賀さんとボスがこちらを見やり、雑賀さんが話し始める。

「三枝か、以前強い個体のソロモンに襲われたのを覚えているか?」

 苦い記憶が蘇る。

「あー、覚えてます覚えてます。すんません、雑賀さんが来なかったら結構まずかったですね……」

「あの個体だが、どうやら後天的に強化された個体だとわかった」

「えっ、強化された……?」

「ああ、そして、その強化というのは元々ウィズダムで研究していたものだ」

「そんなことやってたんですかここ⁈」

「その研究は本来、たまに現れる強い個体……つまりより深い哀しみを負ったソロモンに対峙するためのものだった。ソロモンは哀しみの度合いで強さが決まるのではないかという説が上がってからな。だが、その研究は今はもうやってないんだ」

「どういうことですか? やっぱり危険だったとか……?」

「ここからはわしが話そう」

 ボスが口を開く。

「昔、その研究をしていた者がウィズダムにおったのじゃが、数年程前に突然姿を消したのじゃ。そしてその際に研究成果を全て持ち去っていった」

「じゃあもしかしてその人が……」

「恐らく、独自に研究を続け、野良のソロモンに薬を投与した可能性がある」

 知らない情報が次から次になだれ込んできてついていくのがやっとだ。

「それで、誰なんです? その人って」

「御門剣也という男だ」

 雑賀さんがそう言いながら、顔写真の着いた資料を見せてくれた。眼鏡をかけた長髪の男の写真が載っていた。

「生きているなら彼は五十歳で、ボスの次にウィズダムに長く勤めていた人間だ」

「そんな古株が失踪したんだ……」

「そうだ。そしてそいつが、動き始めた可能性がある」

「何のために?」

「それは不明だ。だが、放っておくことはできない」

「その通りじゃ」

 ボスが相槌を打つ。

「これからより一層警備を強化する。三枝よ、くれぐれも一人で戦うでないぞ」

「は、はい!」

「ではこれより、雑賀と共に警備に当たれ」

「承知です!」

「じゃあ行くぞ、三枝」

「おっけーです」

 雑賀さんと共に扉を出て、外に出る。どうやら今日は徒歩でこの町の警備みたいだ。

「御門って人、どんな人だったんですか?」

 何も知らないので雑賀さんに聞いてみることにする。どうしてウィズダムを離れてしまったのかが気になる。

「彼か、彼はウィズダムで誰よりもソロモンの事を愛していた。野良のソロモンにも、敬意を持って対峙していたのが伺えた。だが、それゆえにソロモンを倒すことに疑問を持っていた。それが徒になったのか、野良のソロモンに自身の使役するソロモンが食われてしまったんだ。研究者になったのはそれからだ」

「自分のソロモンが食われ……」

「ああ。だが、彼はそれを乗り越えた……はずだったんだが、姿を消したところをみるとやはりそうではなかったらしい」

「そっか……今どこで何してんでしょうねー」

「それを探るのが、これからの警備の追加任務だ」

「なるほど、了解っす」

「とは言っても、手がかりはあまりない。地道にいくぞ」

「あまりってことは多少は?」

「ある。俺が退治した強化ソロモン以外にも的崎が一体仕留めたそうだ。それもこの町だから、近くに拠点があるんじゃないかと考えている」

「こんなウィズダムの拠点がある町でやるなんて、堂々としてますね」

「見せつけたいんだろうな。気に食わん」

 元々仲間だった人が裏切ったということもあって結構お怒りみたいだ。


 夜になり、そろそろ引き上げるかといったところで、雑賀さんから現在地が表示されたマップのスクリーンショットが送られてくる。ソロモンを見つけたらしい。すぐにそちらに向かう。

 辿り着いた場所には五メートル程の大きなソロモンが雑賀さんと戦っていた。でかい図体の割に動きが素早い。

「来たか」

「はい! 行くよ、ユウ!」

「!」

 ユウを大太刀に変形させ、突入する。ソロモンの触手の一振りを飛んで躱し、間合いを詰めて一閃。身体は裂けて、ダメージを負ってるはずなのにあまり堪えていないようだ。こちらを振り向いたソロモンに雑賀さんが二丁の拳銃で連射して注意を逸らす。それをいいことにユウをソロモンに深々と突き刺し、抉るように切り裂く。さすがにきいたようで、ソロモンはよろける。そのタイミングを見計らって雑賀さんが二丁の拳銃を重ね、一際大きな閃光を放つ。それを食らったソロモンはようやく倒れる。しかしまだ立ち上がってくるのを見てもう一度構える。起き上がりざまに触手を大きく振り回す。ユウで受け止めるも、かなり後方に飛ばされる。

「いった……まだ気合十分って感じね……!」

 ユウを地面に突き刺して立ち上がる。絶え間なく雑賀さんが銃を連射させていて、注意がそちらに向いているソロモンに飛び掛かり背後から一突き。そのまま体重任せに地面まで振り下ろす。

「これで、どうよ!」

 ソロモンは咆哮を上げ、倒れ伏し、塵となって消えていった。

「はーつっかれた」

「上出来だ」

「ういっす」

「今日はこんなところだろう。帰るぞ」

「はーい」

 雑賀さんと初めてパトロールしたけど、仕事人って感じだなあ。

「三枝!」

「えっ」

 突然、身体が宙に浮いた。何が起きているのかわからない。わからないまま更に空中で人型のソロモンに鷲掴みにされる。そのまま彼方へ放り投げられる。まずい、明らかにまずい。このまま地面に叩きつけられたら――

 しかし想像していたよりも遥かに柔らかい場所に着地する。突如現れたエアクッションのようなものに全身を包まれ、弾かれ、地面に落ちる。

「あいたたた……」

「やあ、無事でなにより」

「えっと、どなた……?」

 萎んだクッションの裏には白いスーツを身に纏ったモノクルをかけた男がいた。

「俺は通りすがりの助っ人、龍石堂縁義さ」

「はあ……」

「そんなことより、命の恩人にお礼の一つでもしてくれないかい?」

「あ、えっとすんません。ありがとうございます……」

 全然わからない。助けてくれたのはありがたいことこの上ないが、なんで助けてくれたんだ? この人誰? 何もわからない。

「うんうん、偉い偉い。そうだ、あの怪物くんはもう姿を消したみたいだからひとまず安心だね」

「え、あ、そうなの?」

「うん、気配が全くしないよ」

「たしかに追い打ちは来ないけど……」

 遠くの方から走ってくる足音が聞こえる。

「おっと、俺はあの人に見つかると話がややこしくなるんでね。この辺でお暇させてもらうよ。じゃあね」

 そういうとこちらの言葉も待たずにどこかへ行ってしまった。

「おい、無事か!」

「あ、はい、なんでかよくわかりませんが無事です」

「なんだその気の抜けた顔は」

「いや、アタシにも何がなんだかよくわからなくて……」

「何があった?」

「なんか、龍石堂って人に助けてもらった? みたいな……」

「龍石堂だと⁈」

 珍しく驚いたような顔をする。

「知ってる人ですか?」

「俺が刑事の時に追っていた怪盗だ」

「え、怪盗⁈」

「ああ、ここしばらくは動きがなかったはずなんだが……まあいい、今の俺は刑事ではない」

「ああそういう……」

「しかし、さっきのソロモンの姿が見えないな。気配がまるでない」

「やっぱそうなんですか? さっきの人もそう言ってたな」

「念のため警戒してもう一回りするが、それで見つからなければこの件は持ち越しだ」

「了解でっす」

「いくぞ」

 立ち上がりパトロールを続行する。にしてもあのソロモン、何か引っかかるな……なんだろう。何かアタシに言ってたような……。あれ、ソロモンって喋れたっけ?

 一抹の不安を抱えながらパトロールを終え、この日は帰ることになる。

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