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ソロモンは愛ゆえに  作者: 結川 黎
3/13

助けられてばっかりで

「はい、それじゃ気を付けて帰るように」

 ウィズダムに所属してから一週間、今日もそそくさと帰り支度を始める。喫茶店のバイトがない日はとりあえず行くようにいている。

「三枝、今日もバイトか?」

「うん、まあね」

「愛、シフト増えた?」

「シフト増えたってか、掛け持ち? 始めたんだよね」

「まじ? 今週全部働いてね?」

「無理しないでね?」

「どうせ社会人になったら週五で働くんだし、今からやってたらアドでしょ」

「そーかもしんねーけど……お前すげーな」

「まあね、アンタらも掛け持ちするかシフト増やしたりする?」

「えー、今のうちに遊んどきたいかなー」

「俺たちは今しかできない青春を謳歌するんだよ!」

「はいはい、お熱くて何より。じゃあね」

「おー、いってらー」

「バイバーイ」

 胡桃と綺羅にさよならして、今日はウィズダムの方に向かう。



 今回で三回目となるウィズダム事務所を訪れる。

「おつかれさまでーす」

 初めてのときと同じでボスと祢宜さんと灰本さんがデスクに向かっていた。

「来たか。早速で悪いが、今日は祢宜とパトロールに出てほしい」

「わかりましたー。祢宜さんよろしくお願いします」

「ええ、三枝さん、行きましょうか」

「はいっす」

 出社三回目にして口調が解けているのを気にしないでくれているのが嬉しい。まあ高校生だからというのもあるかもしれないが。

「よし、ユウ、何かあったらよろしくね」

「ー!」

「何もないのが一番ですけどね」

「それはたしかに」

 支度を終えて外に出る。

「今日は隣の栄弥町に行きますよ。ちょっと目撃情報といいますか、行方不明者が出ているという話なので、ソロモンの可能性があります」

「うわー、プンプンしますね。ユウ、ちょっと身体解しとこっか」

「ー?」

 そう言ってユウの身体をうにうにとつまんでは伸ばす。

「愉快な準備運動ですね。さて、車出しますよ」

 苦笑いしながら駐車場へ向かって行く祢宜さんについていく。



 祢宜さんの運転で隣町に降り立った私たちは二手に別れてソロモンの捜索に出た。夕方から夜にかけて見回りをする予定だ。ソロモン関係の行方不明じゃなければまだ生きている可能性があるので、できればそっちの方がいいのだけど……どうだろうか。


 夜に差し掛かり、人の往来が少なくなった頃、事件は起きた。遠くから悲鳴が聞こえた。急いでそちらへ向かいつつ、スマホアプリでマップを開き、祢宜さんに現在地のスクリーンショットを送る。多分これで伝わるだろう。ともかく向かわなければ。


 現場に騨どり着いたとき、悲鳴の主はどこにもいなかった。いたのはソロモンただ一体のみだ。どうやら遅かったらしい。

「間に合うことって本当に少ないよね……!」

 大きな黒いソロモンもこちらに気付いたようだ。ひとまず祢宜さんが来るまで無理はせず凌ぐのに専念しよう。

「さあ来な!」

 ユウを大太刀に変形させ、構える。今までなら猪突猛進に切りかかっていただろう、自分一人しかいなかったから。だが今はそうじゃない。初めてのパトロールで灰本さんに言われたのだ。無茶はするなと。

 ソロモンが勢いよく飛び上がり、アタシの下に落下しようとして来る。後ろに飛びずさり、それを躱す。どうやら跳躍力の高い奴みたいだ。

「遅いよ!」

 ソロモンは次に腕のようなものを力任せに振り回す。それをユウで受け流し、一太刀浴びせる。大きな咆哮がソロモンから漏れる。激昂した様を見せると、両腕を組み勢いよく地面に叩きつける。その振動で、よろけてしまった。その隙にソロモンが腕で一撃を浴びせようとしてくる。

「まっず……!」

 その時、風を切る音と共に、ソロモンの腕に一本の矢が突き刺さる。後ろを振り返れば祢宜さんが弓を構えていた。あの弓はミクだ。

「無茶はしないと、教わりませんでしたか?」

 普段の笑顔は消え、真剣な眼差しで聞いてくる。

「すみません、引きながら戦ってたんですけどね……」

「まあいいです。まずはソロモンを倒すことに集中しましょう。援護します」

 ユウを握り直し、構える。

「さっきはやってくれたねえ。結構危なかったよ!」

 矢で怯んでる内に、胴体部分に突き刺す。その攻撃に耐え、アタシを掴もうとしてきたのを見て、急いで引き抜く。その時間を祢宜さんが三本の矢で確保してくれる。

「結構タフだね君!」

 先程ソロモンがやって見せたように大きく飛び上がり、そいつの下に落下する。その勢いで、頭にユウを突き刺す。ソロモンは体液を撒き散らしながら倒れていった。

「ごめんね、安らかに」

 動かなくなったのを確認してから黙祷を捧げる。これからも、こういう戦いが続いていくんだろう。やってることはあまり変わらないはずなのに、心に刺さるものができてしまった。知らない方がよかっただろうか。いや、そんなことはない。ユウのことを知れたし、なにより、ただの化け物じゃないってことがわかっただけでも、彼らの命は報われるかもしれない。どうか来世では良きパートナーに恵まれてほしい。

「お疲れ様です」

 祢宜さんが声をかけてくれる。

「ありがとうございました。いやーやっぱ持つべきものは仲間ですねー」

「三枝さん、ちょっといいですか?」

「あ、はい」

 これは、おそらく、長い説教が来るな……。というアタシの予感は的中し、車に戻るまでの道中、ずっとお叱りを受けた。たしかに今回は動きがのろいソロモンだと思って油断してしまったのは認める。しかし祢宜さん……昔教師でもやってたんだろうか。なんというか、説教が板に付いているような気がするのは気のせいだろうか。

「というわけで、いいですね? くれぐれも、相手の力量を見誤らすに、お願いしますね。これは命に関わることですから」

「は、はーい……」

 次から気を付けないとな……。ひとまずパトロールを終えて事務所に帰り報告をすることになる。



「うむ、ご苦労であった。今日はもう帰りなさい」

「はい、おつかれさまでした」

「おつかれさまでーす」

 帰り支度をしていると祢宜さんから声をかけられる。

「暗いですし、送っていきましょうか?」

「ああ近いんで大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「そうですか、ではおつかれさまです」

「はーい」

 近いのは嘘じゃないが、いきなり施設に送ってもらうのもなんか、と思い遠慮してしまった。あまり自覚はないが、心のどこかで気にしているらしい。夜風にでも当たりたかったのかもしれないと思いながら帰ることにする。


「いやー、久々に説教食らったなー」

 これから精進しよう。でもミクは弓なんだなー。援護に向いてるけど、接近戦とかきつそうだから、アタシが先に見つける方で良かったかもしれない? でも祢宜さんが先に見つけたらそれはそれで遠くから一方的に攻撃できるのか。ペアとしては悪くないのかも。

 そんな考え事をしていたから気付かなかったのだ。ソロモンがいることに。

「ー‼」

 ユウが壁になって後ろからの攻撃を防いでくれるが、それでも二、三メートルは吹っ飛んだ。

「やっば……!」

 咳き込みながらもなんとかユウを手に取り、大太刀に変形させる。

「一日二戦は、反則っしょ!」

 思い切りユウを振り払うが、攻撃は当たらず、ソロモンは俊敏に後ろに下がっていた。

「スピードタイプ……? たしかにそこまで大きくないけど」

 そんな思考を許さないとでも言わんばかりに突進してくる。

「まずいっ⁉」

 突進をもろに食らい、五メートル程吹っ飛ぶ。

「パワーもあるじゃん……」

 今はパトロール中じゃない、誰に助けを求めればいい……? しかし相手は思考を許さない。もう一度勢いをつけて突っ込んでくる。またまともに食らってしまう。そう思ったその時、二発の閃光がソロモンを襲った。ソロモンは地面に倒れ伏したが、再度立ち上がる。よろよろとしたその身体に容赦なく無数の弾丸のような閃光が襲う。今度こそソロモンは地面に倒れ、動かなくなった。弾丸が飛んできた方を見れば、そこには雑賀さんがいた。

「無事か」

「すんません、ありがとうございます……」

「とりあえず、病院だな。ウィズダムのことを知る病院がある。そこに連れていくぞ」

「あ、ありがとうございます。そうだ、ちょっと連絡だけしていっすか?」

「ああ、やっておけ」

 スマホを取り出し、施設に電話する。

「もしもし、園長先生? 今日ちょっと帰れないかも」

「愛ちゃんどうしたの? 何かあった?」

「ちょっと盛大にこけちゃって、病院行ってくるんだ」

「あら、大丈夫? 帰るの明日になるの?」

「診てもらわないとわからないからちょっとなんとも……」

「どんなこけかたしたんだか……でも、話せるくらいには元気なのね?」

「まあね。心配しないで」

「皆も心配するから、あんまり無茶しないでね」

「はーい、ごめんね」

 通話を切って雑賀さんに向き直る。

「連絡終わりました」

「車を回す。そこで待っておけ」

「はーい……」

 いやー、一日で二回もやらかすとは……。先が思いやられるなあ。


 その後、雑賀さんに病院に連れていかれ、治療を受けた。なんとか臓器は潰れていなかったが、あばら骨が一本折れていたようで、痛み止めを貰うことになった。

「結構しんどい職場だな……それにしても」

 雑賀さん、何か考えてる顔してたけど、なんだったんだろう。

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