助っ人再び
バイトからの帰りで夜道を歩いている時のことだ。ユウがいきなり頭の上から飛び降りた。そして少し進んでアタシの方を見てる。
「ど、どうしたのユウ?」
二、三度跳ねてからどこかへと向かいだす。
「あ、待って待って」
こんなことは初めてだ。何かあったのだろうかとついていく。
しばらくついていくと、とある路地の方へと入っていく。この街にこんなところあったんだと感心している間もユウは奥に進んでいく。すると、錆ついた鉄扉の前に辿り着いた。しかもその扉はあけ放たれている。
「え、なにここ、あやしー……」
ユウはその中に入っていこうとする。
「ああ待ってさすがに一緒に行くよ」
そう言ってユウを抱えて中に入る。すると訳の分からない実験器具が置かれた実験室のような部屋があった。
「なにこれ、やばそう。全然わかんないけど」
これだけでも不気味だというのに更に奥の扉が開かれている。しかも人影が見えるような気がしてしまった。入って大丈夫だっただろうか。
「慎重に進もう」
声を小さくし、足音を殺して扉へと向かって行く。
扉の先はどこかの社長室の様だったが、そんなことよりも眼を引くものがあった。顔半分がなくなりながらもふらついた状態ではあるがなんとか立っている人間と、それをニヤニヤと眺めている的崎さんだ。
「的崎さん⁈ これは、いったい……?」
「おー愛チャン、来てもうたか。ようここがわかったなあ」
「ええ、まあ……というよりもこの目の前のこれは……」
残った顔の半分に見覚えがあるとは思わなかった。これはまさか。
「えっ、雑賀さん⁈ 雑賀さんじゃないですか! 的崎さん、何があったんですか⁈」
的崎さんは当たり前のように告げた。
「何って、ボクがやったんやで。正確にはボクとカイクンが、かな」
何を言っているのかわからなかった。
「え……? ウィズダム同士で何やってるんですか⁈」
「そやなあ、愛チャンにも種明かししとこか。ボクはずっとリプロの人間や」
愕然とした。まさかこんな近くに敵が潜り込んでいたなんて。
「でも不思議な話やないやろ? 御門サンやて元はウィズダムの人間やったんやから。もう一人くらいリプロに行ったメンバーがおってもおかしないやんなあ?」
「それは、そうかもしれませんが……」
「そや、元々戦力削る予定で雑賀クンここに誘ったんやし、もう一人殺しておいてもええやんなあ?」
「え……?」
そう言って杖をアタシ目掛けて振り下ろす。なんとか飛びずさって避ける。慌ててユウを大太刀に変形する。
「お、やる気になったんやなあ」
「やる気にというか、やらざるを得ない状況になったっていう方が正しいですかね」
「ほな、消えてもらうで」
的崎さんはこちらに突撃し杖を振るってくる。それを躱し、一太刀振るうも、こちらの攻撃も避けられる。的崎さんの次の攻撃は避けきれず、ユウで受け止める。杖を弾いてから切りかかる。それをまたひらりと避けられ、もう一度杖を振られる。それをどうにかユウで払いのける。そして構え直すが、的崎さんはこれ以上攻撃を仕掛けてこないようだ。
「……?」
「まあ、もう十分やろ」
「どういうこと……?」
的崎さんは杖を床にコンと叩く。するとユウの先端が泡立ち始める。
「な、何?」
「ボクの杖、カイクンはねえ、接触した相手に細胞を付着させて食べることだできるんだよ。今はそのユウクンを食べてるってわけや」
「嘘⁈ ユウ!」
壁にこすりつけて剥がそうとするも、侵食がそれ以上に速い。
「嫌! ユウ! ユウ!」
「君は雑賀クンと違って君自身は脅威がないからね、ユウクンだけ食べれば十分かな」
悔しすぎて的崎さんを睨みつける。
「いい顔しとるねえ。でも君は何もできない」
確かにそうだ、アタシは何もできない、ただの女子高生になってしまう。
その時、パシュンと音がしたかと思うと、ユウの食われていた部分が白く染まっていた。
「え……?」
「なんやこれは?」
的崎さんがやったわけではなさそうだ。混乱していると、突如部屋が煙で満たされる。
「けほっけほっ、何?」
「こっちだよ!」
何者かに手を引かれ、この場を逃げ出す。
*
人通りのあるところまで逃げてきてようやく事態を理解する。
「龍石堂さん!」
「やあ、また会ったね」
綺麗にウィンクを飛ばしてくる。
「とりあえず、ちょっとごめんね」
そう言うと龍石堂さんはユウの白くなった部分を指で弾く。すると、その部分は粉々に砕けてしまった。
「え、あ、ちょっと!」
「悪いね、元に戻すことはできない。俺ができるのは進行を食い止めることくらいさ。ちょっと怪我しちゃったけど、その子はもう無事だよ」
「ほ、本当ですか?」
ユウを元の形状に戻してみると、なんだか一回り小さくなった気がする。
「武器の形状もちょっと短くなるかもね」
「でも、無事ならそれで構いません。ありがとうございます!」
「じゃ、俺はこれで。ウィズダムには報告しといた方がいいかもね、今回のことは」
「そうですね……。えっと龍石堂さんは何者なんですか?」
「通りすがりの助っ人さ」
また一つウィンクをして彼は去っていった。彼のことは気になるが、一先ずウィズダムに報告しなければ。スマホで事務所に連絡を入れ、事の顛末を話した。電話に出た祢宜さんは驚きこそすれ、しっかり事実として受け入れていた。明日、仲上さん、祢宜さん、アタシでさっきの場所を調べることになった。
嫌な予感がする。これから何か、大きなことが起きそうな、そんな予感がする。