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アイアシリーズ  作者: 南田萌菜(ナンディ・モイーナ)
あめふらしがへし
2/25

 視線と視線

 大切な何かを失った彼の前を少年と少女が通り過ぎる。

 しかし二人はその変化に、喪失に、気づくことはなかった。

 

「宿題の範囲から問題出るんよね。数学の宿題全部終わっとるんやけどさ。でもなぁ」

「俺は数学より英語」

「英語は覚えるだけでしょ」

「メェ」

 彼の声は二人の耳に入った。しかし頭に入ることはなかった。

 

 かつては二人も彼を愛で、足しげく野菜くずを運ぶ小さな人間だった。


 しかし高校受験を控える歳。多大な関心事を目の前にした二人に、ヤギの鳴き声など日常の雑音の一つでしかなかった。


「いっしょに勉強する?」

 顔を覗き込みながら放たれた少女の言葉は、実は少年が言い出せずにいたものだった。

「うん。まぁ、いいけど」

 うまく使いこなせない、持て余したような声で少年は答える。


「どっちんちでする?うちでいいよね?圭ちゃんの部屋汚いっしょ」

 わざとらしい笑みを浮かべ、わざとらしいしゃべり方で少女がからかう。

「汚くねえよ。奇麗だよ。でもまぁ、うん、美鈴の部屋でいいよ。エアコンあるし。お前だってわざわざ着替えてうち来るのが面倒なだけだろ」

 そんなの当り前だろうという顔で美鈴はわざとらしく頷いた。

 それに対し圭は眉をひそめ、唇を尖らせた。

挿絵(By みてみん)


「じゃあ、着替えたら行くわ。一時間後くらい?」

「なんでそんなにかかんのよ。そんなにおめかししなくてもいいでしょ」


 からかう美鈴の言葉に圭は返事をせず、二人は小さな四辻を二手に分かれた。

 信号どころか白線もない、かろうじて車がすれ違える程度の細い道。

 

 二人の約束は何気なく交わされたように見えて、それでいて二人とも速足だ。

 

 そんな様子を眺める赤いぼさぼさ髪の不気味な姿があった。

 

 そしてそれを眺めるヤギの姿があった。口を動かし何やら咀嚼をしていた。

 多分反芻だ。

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