4 魔女の母と魔女の父は出会った2
第3作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
行く手に立っている美しい娘は、ヘルムート・ランカスター公爵に強い口調で言った。
「どこの貴族様かは存じませんが、今日、どれほどの動物を狩りに来られたのですか。あなた様が率いている狩人達であれば、この山々の動物を全て刈り尽くしてしまうでしょう。」
馬を止めていた公爵は、娘の問いに答えた。
「御心配することはありません。私達はそんなにうまく敏捷に動けるわけではありません。多くの動物達は逃げてしまうでしょう。」
「そうでしょうか。狩人達の日頃から訓練の行き届いた動き、それは耐久性と機能性に優れた服を着ていることでさらに高められています。そして、あなた様は驚くべき指揮官です。動物達は死に絶えます。」
「私は動物達を殺戮するのはきらいです。もし、娘さんのおっしゃることが現実になるとすれば、今日の狩りは止めることにしましょう。」
「現実に起きることです。」
娘は透き通った海のように青い、神秘的な瞳で公爵と目を合わせた。
「あっ! 」
公爵の心の中に浮かんだのは、狩りをした今日の未来、自分達が面白いように動物達を狩り、殺戮の快楽にひたってしまう姿だった。
「これは、いけない。」
そう言った後、公爵は娘に聞いた。
「今、私が見たのは幻想ですか。それとも、ほんとうの未来ですか。」
「ほんとうの未来です。私は魔眼で、真実や真実の結末の未来を見ることができるのです。私はクリスタ、『真実に至る魔女』です。」
「わかりました。クリスタさん。狩りは中止にしましょう。あっ、言い忘れました。私はヘルムート・ランカスター、ランカスター公爵と呼ばれています。」
「ゴード王国、序列第一の公爵様でしたのね。それでは、狩りを中止していただいたお礼に私が公爵様と家来の皆様にささやかな食事を御馳走したいのですが、どうでしょうか?」
「家臣に相談します。しばしお待ちください。」
それから公爵は家宰のヴォルフに相談した。
すると、家宰は猛反対だった。
「公爵様。どこの魔女かは知りませんが、全面的に信用されるのはいかがなものかと。食事に毒を盛られたら大変です。」
「大丈夫。クリスタさんが私に見せてくれたのは、確かに訪れたかもしれない現実の未来だ。今、記憶の中で確認してもリアルすぎる。ヴォルフが左手にルーンアックスを持って猪をしとめていた。」
「私が左利きで愛用の斧を使っていた光景…………あの魔女は本物の高位の魔女ですね。高位の魔女であれば、裏はない思います。大丈夫ですね。」
「クリスタさん。お受けしたいとは思います。しかし、こんなに多くの人数の食事を作るのは大変では…………」
「全然、問題ありません。私にも結構多くの家臣がおりますのよ。後についてきてください。」
そう言うとクリスタの手に箒が出現し、彼女はそれに乗り空を飛んで移動し始めた。
クリスタは主要道をそれて、森の中へ侵入する道に入った。
(こんな場所に道があったのか。)
公爵が今まで気づかなかった道だった。
その後、彼と家臣達がしばらく馬を走らせ後についていくと、やがて森の木々に囲まれた館が前方に出現した。
館の前の広場に馬を停め、公爵達は屋敷の中に案内された。
大広間の中には既にテーブルの上に、たくさんの料理が並べられていた。
にっこり笑いながらクリスタが公爵に言った。
「ここに来る前に、料理を100人分用意するように家臣に魔法で連絡しておきましたが、既に作ってしまったのですね。」
「失礼ですが、クリスタさんの家臣は何人いらっしゃるのですか。」
「4人です。水の魔女。火の魔女。風の魔女。土の魔女。それぞれ四属性を束ねる長の魔女達です。四属性が強力し合えばなんだってできます。」
「四属性を束ねる長の魔女がクリスタさんの家臣とは、相当な地位なんですね。」
「あまり言いたくなかったのですが、私は魔女の世界の女王。『真実に至る魔女』とは女王に与えられる贈り名なんです。さあさあ、美味しい物が一杯並んでいます。早く食べましょう。」
クリスタは心の中で密かに思った。
(ヘルムート・ランカスター公爵様……未来に生まれる可愛らしい我が娘の父様が、優しいすばらしい方でよかったわ。仮を止めてくださった。動物達の命も大切に思った人……)
その後、彼女はそっと中指と人差し指を重ね、娘の未来の時間に魔法をかけた。
(あなたに訪れる苦難の時、たぶん私は一緒にいられないけれど、優しい父様があなたをいつも見守ってくれるわ。世界の大災厄を終わらせ、必ず幸せな未来をつかみ、その時に必ず会いましょう……)
それから、公爵はたびたびクリスタの館を訪れ、次第に恋人以上の関係になった。
ついには、大変無理なことだったが、彼女の懇願を受け入れ侍女として城に受け入れた。
魔女の世界の女王が、人間の世界の侍女になった。
彼女は、自分の娘が生まれ暮らすことになる場所と回りの人々を確認したかったのである。
働く以外は、質素な侍女の部屋で気持ちを込めて幸運の魔法をかけながら、服を編んだ。
それは、質素だが自然で調和のとれた優しいもの色合いのものだった。
その服を着たクリスタは、戦いから帰還した公爵の心をいつもいやした。
数か月間、クリスタは彼女とそっくりな女の子を産んだ。
そして不思議なことに、すぐに姿を消してしまった。
妻のマーガレットは非常に怒り、城を出て行き実家のグロスター公爵家に帰ってしまった。
グロスター公爵から国王に対して、ヘルムート・ランカスター公爵の不貞の罪の訴えがあった。
しかし、彼のゴード王国に対する多大な貢献と愛すべき性格を国王は考え、何もお咎めはなかった。
クリスタが姿を消して数日後、公爵はベッドですやすや眠っている娘を優しい目で見ていた。
(まだ、ほんとうに小さいけれど、なにもかもクリスタにそっくりだな。)
その時、少しだけ開けられている窓から、花びらがたくさん入ってきた。
そして、その花びらはベッドの上に規則正しく並んだ。
ク ラ リ ス
お読みいただき心から感謝致します。
※更新頻度
最初は内容をしっかり検討させていただくためのお時間をいただきます。
週1回、日曜日午前中です。