3 魔女の母と魔女の父は出会った
第3作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
嵐のような風は、大広間の中にあったいろいろな物を吹き飛ばし空中で動かした。
2人の姉、パトリシアとエレノアはとても恐くなり、その場にしゃがみ込んだ。
「お嬢様。お止めください。ほんとうにお姉様方の命を奪ってしまいます。私は十分です。それほど大切に思っていただいて、とてもうれしいです。」
侍女のメイが、クラリスを止めた。
「わかりました。」
彼女のその言葉とともに、空中に吹き飛ばされていた物は下に落ちた。
それとほぼ同時に大広間の入口が開いた。
ランカスター公爵、ヘルムート・ランカスターだった。
公爵はいろいろな物が、床に乱雑に散らかって落ちている状況を見ても、少しも驚かなかった。
「相変わらずだな。娘達、たった今帰還したぞ。戦争はゴード王国の大勝利だ。我が国土に攻め込んだ敵国は、全軍総崩れで逃げ出したぞ。」
戦勝の話には全く興味を示さず、長女のパトリシアは父親に告げ口をした。
「父上。クラリスは恐いんです。また不思議な力を発動して、このようになってしまいました。エレノアが、貴族として当たり前のことを注意しただけですのに。」
次女のエレノアも続けた。
「父上の御帰還を迎える時には、貴族として礼節が保たれる服装を着るべきなのに、クラリスはあのような服を着てきたのです。」
その言葉を聞き、クラリスは強い声で反論した。
「豪華な金ぴかの服を着るのが貴族としての礼節でしょうか。この服は地味ですが、気持ちを込めて織られており、色合いも自然で調和のとれた優しいものになっています。」
公爵はクラリスの言葉を真剣な表情で聞いていたが、聞き終わると少し微笑みながらうなずいた。
「今、私は地獄のような戦場から帰還したが、クラリスの姿を見て心がほんとうにいやされている。クラリスの着ている服は、この子の母親が編んだものだ。優しい心がこもっている。」
そして、2人の姉に対しさとすように言った。
「見栄えだけではなく。ほんとうに価値ある物をわかるようになってほしい。それにたとえ母親が違うとはいえ、クラリスはおまえ達の妹であることは間違いない。」
公爵の言葉に長女のパトリシアが反論した。
「私とエレノアの母親は、父上と幸せな毎日を送っていました。しかし、どこぞの黒髪の女に父上の心を奪われ、離縁の道を選ぶしかなくなりました。そして、私達を残してこの家を出ていったのです。」
公爵は、身分が釣り合うよう親が決めた、グロスター公爵家のマーガレットを妻とした。
パトリシアとエレノアの母親である。
ところが、結婚した最初から、公爵と妻の間には考え方の大きな違いがあった。
ある日のことだった。
公爵は騎馬と弓の技術をみがくため、家臣を引き連れ狩りに出ようとした。
野外での耐久性と機能性を第一に考え、公爵は見栄えがよくない服を作らせて着ていた。
「お待ちください。公爵様。その服を着られて狩りに行かれるのでしょうか。御身分にふさわしくないお姿を、家臣どころか領民にも見られてしまいます。お着替えをしてからお出かけください。」
「マーガレット。確かに貴族階級の常識からすると、このような服を着ることは全くないだろう。しかし、狩りの目的を考えると常識からはずれることが必要だと思ったのです。」
「貴族の常識からはずれれば他の貴族の笑いものになり、結局は貴族でいられなくなってしまいます。私は、王家と同じくらいの歴史があるランカスター公爵家に嫁いできたのです。」
「このような服を着る私がランカスター公爵家を潰すと―――― すいません。もう家臣を待たせています。今日だけはこの服を着て狩りに行かせてください。」
マーガレットはまだ何か言いたそう顔をしていたが、次の言葉が話される前に公爵はそそくさと居館を出て行った。
外に出ると、公爵の家臣達が100人ほど待っていた。
みんなが公爵と同じ、野外での耐久性と機能性を第一に考えた見栄えがよくない服を着ていた。
さきほど妻に言われたことを考え、公爵は苦笑した。
「私の代でランカスター公爵家は潰れるのかな! 」
公爵は幼い頃から人一倍頭が良く、何に対しても興味を持ち、現状には決して満足しない性格だった。
狩り場に行くために馬に乗っている時に、さきほどのことを考えていた。
(貴族の常識は貴族を貴族たらしめるもの。常識さえ守っていれば、いいのかな。国民からの尊敬を勝ち取ることはできるのかな。できると思えばできると思える。でも錯覚かもしれない。)
そして公爵は自分が今着ている服のことを考え始めた。
(狩りだけに留まらず、戦いが起こってしまった場合、服の野外での耐久性と機能性は最も重要。1万人の軍勢が耐久性と機能性に優れた服を着ることで一律に向上させれば、最強の軍勢になる。)
公爵の考えが最後に行き着くところは、この頃、いつも同じだった。
(私のように考える人は全くいない。考えない人に考えるようお願いするのはとても大変。だから、いつもお願いはしない。説明しないで終わってしまう。)
先頭を馬で駆ける公爵はその時、行く手に人が立っていることに気がついて、強引に馬を止めた。
少し離れた先にとても美しい娘が立っていた。
さまざまな色が調和したローブを着て、杖を持っていた。
娘はこの国にはめずらしい黒色の髪で、光輝いていた。
そして、透き通った海のように青い瞳、神秘的な瞳でランカスター公爵であるヘルムートを、とても厳しい表情で見ていた。
お読みいただき心から感謝致します。
※更新頻度
最初は内容をしっかり検討させていただくためのお時間をいただきます。
週1回、日曜日午前中です。
今日は少し早くできましたので、不定期ですが更新させていただきます。