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僕の大切な幼なじみ

作者: アキ


いつからだろう。

どうしてそうなったのかはいまだにわからない。

ただ気づいた時には彼女は··········僕が大切に思っている幼馴染は··········学校に来なくなっていた。









「····················」


僕には頭が良く、引きこもりの幼馴染がいる。

彼女はとにかく天才で、その頭の切れを生かし、もう株で大金を稼いでいるらしい。

将来を気にする必要は全くなく、就職をしなくても、遊んで暮らすことができるだろう。

···········だけど········それでも·········僕はまた彼女と············。


「···············ふぅ」


深呼吸をして、息を整える。

今から僕は、学校に来るように彼女を説得するつもりだ。

おそらく無理かもしれない。

でも············やれるだけやる。


”コンコン”


部屋の扉をノックする。


「は~~い。入っていいよ~~」


中から気の抜けた声がする。

意を決して、僕は彼女のいる部屋に足を踏み入れた。








「さーくん今日も遊びに来たんだ。

いつも学校大変だね。疲れたでしょ?」


「うたちゃん」


「ほらほら立ってないで座ってよ。

まぁ散らかってて、足の踏み場もないと思うけど··············」


「学校に行かない?」


「··················」


瞬間。

彼女の整った顔に、怒りの色が帯びた。

目つきを鋭くして·············僕を睨んでくる。


「あのね。

いくらさーくんだからって、何を言われても、学校なんかには行かないから」


「···················」


「だってさ········あんなとこ行く意味なくない?」


「···················」


「一応入学だけはしてみたんだけど·········うん········やっぱりダメ。

レベルが低すぎて話になんないよ」


「················うたちゃん」


「さーくんだってわかってるよね?」


「····················」


「私は生まれつきで最高の頭脳を持っていて、どんなことでもす~~ぐ理解できちゃうんだから、勉強する必要なんかないって」


「····················」


「学校ていうのは、勉強を学びに行く場所なんだよね?」


「····················」


「わかっていることをなんでわざわざ学びに行かなきゃいけないのか················私は理解ができないよ」


「·····················」


「納得できる説明があるなら聞いてあげる」


「·····················」


「ほら、さーくん言ってごらん」


「·········えっと·······その······ずっと部屋の中に居るのは健康に悪いと思うし······外の空気を吸うことも大事だって!」


「はぁ~~~~~~~~」


うたちゃんは呆れたように、わざとらしくため息を吐いた。


「何を言うかと思えば············体の健康のためにも外に出た方がいいってこと?」


「う、うん······」


「さーくんって相変わらずバカだね」


「·····················」


「私は学校に行く必要性について聞いたんだけど?」


「·····················」


「それがどうして健康の話になるのかな?」


「それは············ゴロゴロしてばっかりだと太ると思ったから」


「私は太らない体質だから大丈夫」


「でもうたちゃん··········最近ちょっと太ったような··········」


「さーくん叩くよ?」


「ごめん·····てイタタタタッ!

やめてうたちゃん!手首はそっちに曲がらないから!」


「まったくもう·······デリカシーってものがないなぁ」


「ごめん」


「昔からそういうとこ変わってないよね」


「·························すいません」


説得なんて夢のまた夢。

僕って本当に馬鹿だなぁ············うたちゃんを怒らせてどうするんだよ············。


「どうしてこんな人のこと·········」


「··········?」


彼女が何か言ったような気がしたが·······声が小さく·········うまく聞き取ることができなかった。


「もう今日はいいや」


「え?」


「なんだかうとうとしてきたし、ちょっと仮眠をとりたいから··········さーくんは帰ってよ」


「·····················」


「学校なんて行かないからね」


「·····················」


「私を説得したいんなら·······また明日もこの部屋に来たら?」


「·····················」


「なんでそんなに連れ出したがっているのかはわからないけどさ」


「·····················」


「·····················」


「·····················」


「·········まだ、何か言いたいことでもあるの?」


「·····················」


「だったら早く言ってくれない?私は早く寝たいんだけど?」


「寂しいんだ」


「···············································ふぇっ!?」


「君と学校で会いたい」


「········え·····あ·············」


「お弁当を一緒に食べたい·····図書室で一緒に本を読んだりしたい··········他にも、一緒にやってみたいことがたくさんある」


「あ·····あぅ」


「また来るから」


「·····················」


”バタン”


扉を閉めて、僕は歩を進める。

彼女の部屋がだんだん遠ざかっていく。

うたちゃんの言うとおり·········僕は馬鹿だ。

自分の頭が悪いということは········誰よりも自覚している。

だから僕には·········「気持ち」を「素直」に伝えることしかできない。

包み隠さず······赤裸々に······ありのまま思ってることをそのまま··········。

彼女には届いているだろうか?

いや·········届いてなくてもいい。

何度でも何度でも·········言葉に出して伝え続けよう。

そうすれば······いつかきっと······。


「制服·······入るかな」


扉の向こうから·············そんな呟きが聞こえてきた気がした。











「バカ·······バカ······バカ···········さーくんのバカ」


彼が帰った後、私は布団にくるまっていた。

··············体が熱い。

心臓の鼓動が早くなり、思考が全て彼のことで染められる。

自分をまっすぐ見つめる凛々しい瞳。

昔と変わらない··········気持ちを素直に伝えてくるバカみたいな性格。


(ああもう···········弱いんだよなぁ·······)


私はさーくんが大好きだ。

彼もきっと同じ気持ちだろう。

言動や行動ですぐわかる。

二人の気持ちが通じ合ってると考えるだけで········それだけで········幸せな気分になってくる。


「寂しいんだ」


「君と学校で会いたい」


「一緒にやってみたいことがたくさんある」


彼の言った言葉が脳裏に浮かぶ。

·················私は、学校という場所に行こうとは思わなかった。

この部屋でずっと生活を続けてさえいれば··········さーくんはそばにいてくれる。

優しい彼は、私のことを放っておけない。

友達なんてつくることができず、もちろん彼女もつくることができない。

自分の時間を犠牲にしてまで、彼は私のために尽くしてくれる。

一気にはいかない。

ゆっくりと·······ゆっくりと········身も心も堕としていく。

私のものにするために。


「寂しいんだ」


さーくんがあんなことを言うなんて·········。

どうやらとっくの昔に·······彼は私に惚れ込んでいたみたいだ。


「君と学校で会いたい」


脳裏であの言葉が繰り返される。

··················行ってみてもいいかもしれない。

さーくんと一緒にいられるなら。

彼と一緒にいられるなら。

二人でいつも一緒にいられるなら、いいかもしれない。

私は一人、布団にくるまりながら·········そんなことを思うのだった。





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