戦時下であるということ
12月31日
昨日横須賀から出港した護衛艦まや、むらさめ、いかづち、きりしま、そして輸送艦おおすみは現在マリアナ諸島沖を航行していた。
派遣は特措法を制定して行われている。
30ノットで進む臨時混成艦隊はラバウルを目指している。
※護衛艦まや※
レーダーに艦影が写る。
「アメリカの潜水艦か?」艦長が尋ねる。
「はい。ガトー級潜水艦のようです」
「射ってくるだろうか」
「目的は通商破壊でしょう。聴くところによると昨年照和17年9月にはこの辺りで日本の輸送船がいくつも沈められているそうです。
さらに3年後にはアメリカの潜水艦によって日本は物資の運搬がほぼ不可能になっています。ですからあの潜水艦も恐らくは...」
(どうかこのまま通らせてくれ...)
いまだ戦争中という事実を心の奥底で拒絶する艦長は願っていた。
そこにはやはり躊躇いがある。
「...!
注水音を確認!敵潜、魚雷発射管に注水しています!!!」
「...来ましたね」
その注水音は、今が戦時下であることを如実に伝えている。
「機関全速!!!」
最大戦速で動き出す艦。
この時代、誘導魚雷は存在しないためこれでまず当たることはない。
「艦長、破壊しましょう。これは正当防衛です。ここで破壊しなければ後の日本がどれだけ苦しめられるか分かりません」副長が進言する。副長は既に意識を戦場に切替えている。
「...短魚雷発射用意!!!」艦長の声。
(どうか恨まないでくれ)艦長は天に祈っていた。
「...射てーー!!」
まやの舷側に備えられた魚雷発射管から誘導魚雷が発射される。
その発射管は元々はアメリカ海軍で開発されたものだった。
(皮肉だな)と副長は思った。
※アメリカ軍潜水艦 アルバコア※
「日本の駆逐艦隊か...気づいていないようだ。これは好都合。さっさと沈めてしまえ!」
潜水艦長のアルバートは安全に攻撃できることを心の底から喜んでいた。
(この艦も沈めてやる)その強い想いが兵士として当然であることを彼は信じて疑わなかった。
「魚雷発射!」
魚雷が射出される。
「敵駆逐艦、速度を上げました!
魚雷、外れます!!」
「なに?気づいていたのか...。
まぁよい...次弾装てn...!」
狭い艦内に警報音が鳴響いた。
「...敵艦何かを射出!こちらに来ます!!!」
まやから射出された12式魚雷は正確にアルバコアに近づいている。
駆逐艦の対潜兵器としては爆雷しかなかったこの時代、アルバコアの乗員たちは即座に反応することができなかった。
「敵兵器こちらに来ます!
向きを変えている!!当たる!!!」
けたたましく鳴る警報音の中でレーダー担当が絶叫した。
魚雷が命中し凄まじい熱量となって爆ぜる。
一瞬にしてアルバコアの全乗員はその命を失った。
※護衛艦まや※
「敵潜に命中!目標沈黙!!!」
「...市ヶ谷に打電しておけ」艦長は告げた。
「了解!」
それは自衛隊創設以来、初の戦闘であった。
その相手がアメリカ海軍だと1ヶ月前の彼らは誰も予想していなかった。
この一戦は護衛艦隊に、そして玲和を生きた日本人に、今が戦時下であることを強く意識させた。
それぞれの思いを乗せながら護衛艦隊は南洋を往く。




