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東日本戦記  作者: 繧繝
第1章: 激動の南洋
11/26

日本の船出

本編スタートです。

葉山がずっと感じていた背筋の凍る寒気。

東城を前にしたときの震え。

今思えばそれは単に心情のみが表れたものではなかった。


気象庁によれば照和17年12月、東京の日平均気温は2.9度。それは玲和元年のそれより実に2.7度も低かった。

単純に気温が低かったのである。


他には西日本だけでなく海外とも連絡がとれないこと。

これも東日本が照和へと転移したことの証左だった。


西日本が玲和元年に転移したのではなかった。

東日本が照和17年に転移したのだった。

数々の物証はそれを物語っていた。




そしてそれは日本国政府が戦争状態に陥ったことを意味していた。






日本帝国と日本国が、多少の差異ことあれど事実上の同一国家であることにより、非自発的に戦争状態へと移行させられた日本国政府は、半ば強制的に平和のための措置を講ずることとなった。


そして大阪との間に通信網を繋げること、更には衛星を打上げるための発射基地を種子島に作ること、今後の戦況を注視すること等を葉山は閣議決定した。





そして転移から2週間が過ぎた。


※※照和17年12月26日※※



大阪の無線基地局は既に完成し、南は九州までをカバーできるようになった。現在は南樺太と沖縄で無線基地局の開設が進められている。


種子島のロケット発射台は現在工事中である。

西日本の兵たちも動員され、工事は高速で進められていた。

このままいけば来年1月下旬には完成できるそうだ。

設計図等は現代に以前あったものを流用したとはいえ、前代未聞の突貫工事だった。



一方、東城英機は大阪に戻っている。一切の軍務を取り仕切るためだ。



彼は天祐と天罰は紙一重だと感じた。


今、彼は帝国軍の技術者たちを多数東側に派遣している。

技術者らは東側の技術を口を揃えて賛揚する。


既に配備された通信技術だけを取ってみても素晴らしい。

今まで音声通信は酷い出来だった。雑音も多く、故障も多い。

帝国軍の艦船は文字を送ることでしか通信できていなかった。

それが今では簡単な設備で連絡できる。


それにレーダーも軍艦も性能が格段に違うものがあるらしい。

東側の技術力は最早疑いようがない。


(この戦争、完全勝利が可能だ)と東城は思った。


ただ問題は東日本の奴らが戦争に後向きなこと。

彼らは肝心なところであまり協力的ではない。

こうしている間にもガダルカナルをはじめとして南方戦線では大勢の日本兵が死んでいるというのに。


我々はただでさえ東日本約3000万人の人口とその軍備を失っているのだ。

最低でも以前の東日本と同じだけの戦力にはなってもらう必要がある。


彼らを戦争に駆り出すことが自分の使命だと東城は信じていた。

天祐と天罰の紙一重を、その紙たった1枚をさえ越えられればこの戦争に勝つことは間違いないのだから。





あの大阪会談を思い出す。

あの後、東城は葉山と名乗る人物に連れられてヘリコプターに乗った。


何故あんな怪しい人物に付いて行ったのだろうか。

今思うと東城は不思議だった。


会談で葉山は魔法でも使ったかのような道具を見せてきた。

あんなものは見たことがなかった。


同席した国竹参謀長はヘリコプターを絶賛していた。

中部軍に来る前、彼は陸軍兵器本部で総務部長をしていたから多少は技術に明るいらしい。

まるで見たことがない。帝国軍の技術ではなし得ないものだと褒めた。


その彼に押され、東城は東京行きを決めたのだった。



1時間ほど乗っていると富士の山が見えてきた。やはり美しい山だと感心していると、ヘリは静岡の辺りで着陸した。


そこには四角く無機質な建物が並び、まるで知らない世界が広がっていた。

(なるほど、あの電信の「シヅオカヨリサキ」はかういふ意味だつたのか!)

東城は東日本が既に“今”でないことを理解した。


ヘリを降りると彼らはここから鉄道で東京へ行くと言い出した。

国竹は辺りを見て驚きながら尋ねた「鉄道で行けば4時間以上はかかるだらう?わざわざそんなもので行かなくても良いのではないか?」

「大丈夫ですから、まぁ付いてきてください」葉山が応じる。


その駅舎には「新富士駅」と書いてある。

(“駅”とは“驛”の略字だらうな、時代が変はると字も変はるのだらう)などと謎に得心する。


東城たちがホームに着くと、そこには、白く無駄のない滑らかな車体があった。


「これは我らが誇る新幹線、“のぞみ”です。これで東京へ向かいます。今日は特別に直通で行きますので、40分もかからずに着きますよ」葉山はにこやかに笑いながら言った。


新幹線の速さは凄まじかった。一瞬で新しい街へと進んでいく。


(嗚呼これは弾丸列車ではないか!

4ヶ月前に建設が閣議決定されたばかりの夢の鉄道に!我々の計画よりも速い真の弾丸列車に!!私は今乗つてゐる!!)



その速度が貫く、全く知らない新日本の中で東城は思っていた。

(70年で日本はここまで素晴らしい鉄道を作れるやうになつたのか...この戦争勝つた...)と。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 東日本の人間が戦争を嫌うのには、ちゃんと理由が有る。 その理由を東城が知ったなら、彼はどう思うだろうか。
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