コントロール
注!この作品の登場人物はすべて男子高校生です。
「まずは方向性を決めよう。コントか漫才か」
「一応漫才をやりたいんだけど、どう違うんだそれ?」
やっぱりわかってなかったか。
「役を決めて演劇みたいなことをするのがコント、漫才は話の中でボケてツッコむヤツ」
「やくわり?」
……まだわかってないのかよ。馬鹿なやつとは思ってたけど、まさかここまでとは。
「例えばお笑いで『俺、刑事ドラマに出てくる主人公の刑事に憧れてて、一度でいいからやってみたいねん。俺が刑事役やるから、お前犯人役してくれへん?』みたいなやつあるだろ」
「うん。よくある」
「あれが漫才」
「へぇ。じゃあコントは?」
俺は右手で拳銃の形を作ると、銃口を隣に座る相方に向けた。
『動くな、手を上げろ!……まさかお前が犯人だったとはな』
「は?いきなりどうした?」
相方は本気で「何やってんだ?」みたいな顔をしている。話の流れで分からないもんかね。俺は呆れながら銃口を下ろした。
「って風にいきなり刑事と犯人として始まるのがコント」
「なるへそ。理解理解」
相方が大げさに頭を縦に振る。
「それで、漫才でいいんだな?」
「ああ。でもコントも面白そうだな。どうせならどっちもやらない?」
「……本番まで時間ないけど、やってみるか?」
「おう!」
相方ががしっと肩を組んできた。相変わらずスキンシップの多いやつだ。
「まずは漫才から決めよう。まず役割だが、この調子だとお前がボケで俺がツッコみだな」
「また役割か。お笑いって役割が大切なんだな」
しみじみつぶやく相方に、
「お前が文化祭のステージでお笑いライブやりたいって言いだしたんだろ。何他人事みたいに言ってんだ」
と俺がツッコむ。……基本はこの流れでいいな。
「それより先にコンビ名決めようぜ!」
「それもそうだな。何かいい案は?」
「漫才、コント、役割…………こんなのは?」
相方がメモ帳(最近ネタ帳として買ったらしい)を見せてくる。そこにはたった一つ、カタカナ語が書きこまれていた。
「お前にしてはシャレがきいてるな。芸人ぽくていいと思うぞ」
「ところでさ、一ついいか?」
相方が突然声のトーンを落とした。俺は少し不安を感じた。
「どうした?」
「俺、実はゲイっていうか、その……男が、いや、お前のことが好きでさ!」
「…………は?」
「だから俺と付き合ってくれ!それで一緒に夫婦漫才しよう!男同士の夫婦漫才なんて誰もやったことないだろうし絶対ウケるから!」
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
文化祭のステージでスベり倒した二人は、その時の悔しさもあってか高校卒業後に二人仲良く(?)養成所に入り、十年後にはテレビで引っ張りだこの超有名お笑い芸人になり、さらに三十年後にはお笑い界を「支配する」ほどの大御所にまで上り詰めるのですが、それはまた別のお話。