あの国の滅んだあと、"星夜の探求者"は
本日、星降の誕生日なので自分にプレゼントです。この世界が滅ぶとき、唯一信頼できる兄様への続編になります。ずっと書きたかったのですが、連載を沢山やり過ぎて、もはや時間がありませんでした。
連載をお待ちくださっている方々すいません。『花の乙女』の大幅修正が終った後連載の続きを書きますので今暫くお待ちください。
アルティゴス王国の革命が起きて新政府が発足する前、僕は一族の子供と共にイチリア村という山間の村のレイシスという魔術師のもとを訪ねた。まだ幼い子供も居たから大変だったけど教会に悪魔と言われ処刑された妹のレティエが教会に捕まる前に馬車を用意してくれたから助かった。村に着いてからは、村の方々に子供達を預かって貰い、レイシスの家に来た。
レイシスに会ってから僕は驚いた。レティエにそっくりだったから。でも歳を尋ねてからもっと驚いた。なんでも彼女はアテルリスの始祖で、ずっと昔に魔術の失敗で不老不死になってしまったそうだ。
その事に気が付いた彼女は幼馴染みで、当時弟子だった男と山奥に引っ越したそうだ。その後その男――ザイシャルト―――と結ばれ子供にも恵まれたらしい。その子供が街に出て魔術師として活躍し、師匠として爵位をいただいた………それがアテルリス家の始まりなんだとレイシスが言っていた。
「この村の住民はほとんど私の弟子達なんだ。みんな魔術師さ。」
彼女はそう言って笑った。
「リカルト、君のことはレティエから聞いているし、君さえ良ければ弟子にしてやるけど、他の子供達は一度アテルリスから切り離した方がいいと思う。私のツテで別々の家に送るけどいいかい?」
「なら、双子のミネルバとミティラは同じ家に送ってやってください。」
僕はこの双子を離してはいけないと聞いたことがある。
「………わかった。なら、ターシャと、ガイツと、ミネルバ達を別々の家におくるよ。」
「ええ。よろしく頼みます。」
「ふむ。ルーニャ!」
「はいっ!師匠、お呼びでしょうか?」
違和感なく転移魔術で跳んできたルーニャという少女は蜂蜜色だった。まるで天使のような………髪色以外は全く蜂蜜色ではないのが不思議だ。
「ルーニャ、彼を2階に案内して部屋は南の村を一望できる出窓のある部屋で。」
「はいっ、師匠。はじめましてレイシス師匠の弟子、"蜂蜜の薬草使い"ルーニャです。」
少女に差し出された手を握り返しながら自己紹介をする。
「はじめまして。僕はリカルト・ヨイツ・アテルリスです。どうぞよろしく。」
「ルーニャ、リカルトはレティエの実のお兄さんだよ。」
「そうなのですか?では、あのお兄様なのですね。レティエちゃんからお話を聞いてます。よろしくお願いしますね。リカルトさん。」
どうやらレティエの知り合いらしい。
「僕もレイシスさんに弟子入りするので、さんはいりません。姉弟子。」
「では、リカルトくんで。私もルーニャで構いませんよ。それでは、お部屋に案内しますね。」
「はい、お願いします。」
この家は外から見たときより大きく感じた。その事をルーニャに訊くとと、空間魔術を使っているらしい。
僕の部屋として案内された部屋はベッドと本棚と机があり、壁には何も貼っていないルクト板が掛かっていた。出窓にはレースのカーテンが掛けてあり、手入れの行き届いた部屋という印象を受けた。魔術師の家と言えばごちゃごちゃした家を想像していただけに、意外だと思った。その理由は後に知るのだが、今はまぁ、置いておくとしよう。
まぁそういうわけで、僕はレイシスの弟子になった。その夜僕はおもいっきり泣いた。やっと一人になれたからだ。一族の大人達はどうでもよかった。でも、レティエはただ才能が有って、国のために頑張っただけなのに。僕が義叔父に損なわれそうになったから。そのせいで、仲間にも周辺国にも裏切られて。僕のせいで。兄貴なのに妹の足手まといになってしまった。
おもいっきり泣いた日から一週間。僕は魔術に没頭した。もう二度と誰かの足手まといにならないように。レティエの手紙のようにではないが、一族の子供達を守りながら僕は生きていこうと思う。
それから何年も月日は流れた。別々の家に送った一族の子供達もレイシスに弟子入りするために戻ってきて、その後独立した。
「ふぁ~あ、ふぐっ」
「あ、リカルトくん、おはよう。」
「ルーニャ。おはよう、今日も早いね。」
「だって、リカルトくんとレティーナと師匠にご飯作らないとだもの。」
レイシスは未だに自分で飯が作れない。
「おとーさん。おそいよー。もうごはんできたよー。」
「ははっごめんごめん。」
「こらっ。レティーナ、お父さんは夜遅くまで研究してたんだから仕方ないでしょう?」
「はーい………ごめんなさい、おとーさん。ふぇ、おかーさんおなかすいたよー。おなかがなったもん~。」
レティーナは僕とルーニャの娘だ。レティエに見せてあげたかった。今でもときどきレティエのことを思い出す。
「はいはい。今ご飯にするからね。ちょっとだけ待っててね。」
ルーニャがそう言うとオーブンからチーズのいい匂いが漂ってきた。
「はい、出来たよー。レティーナが好きなグラタンよ。これを食べ終わったら、師匠のところにパンとミルクとチーズを持っていきましょうね。」
「やったー!ししょーのところにいくー!」
レティーナはレイシスの弟子ではないが僕とルーニャの真似をしてししょーと呼んでいる。
「師匠のところに行くなら、これも持ってってくれないか?」
「はーい。」
「私がきちんと持って行くわ。"星夜の探求者"から"悠久の魔術師"にって伝えれば良いのよね?」
「ああ。頼む。」
僕は"星夜の探求者"という魔術師名をレイシスからもらった。今ではあの空っぽだったルクト板は研究資料で埋め尽くされている。
「さて、ご飯が冷める前に食べようか。我等が大地を支える神々に感謝して。いただきます。」
「いただきます。」
「いっただっきまーす!」
―――レティエ、僕は今とても幸せだよ。あの時僕を逃してくれてありがとう。君が生まれ変わって幸せになってくれることを僕は祈っているよ。君の魂がどうか損なわれませんように。
因みに魔術師の部屋が片付けられているのは放置するのが危険な素材が沢山あるからで、部屋がごちゃごちゃしているのは三流の証なのだとか。
僕はこれからもレイシスの家の近くのこの家で生活して行くのだろう。どうか僕の家族が幸せでありますように。
ルクト板・・・・コルク板のようなものです。この世界にはコルク材がないので。