第5章「早着替え!特命遊撃士、朝支度」
結局私達は、お酒を飲みながら深夜放送をダラダラと見続けて、この晩は一睡もせずに夜明かししちゃったんだよね。
地デジの深夜放送が終われば、BSに切り替えてB級ホラー映画を茶化したり、居酒屋訪問番組を見て今後の飲み会の計画を立てたり。
気が付いたら朝日が窓から差し込んで来ていたんだから、笑っちゃったよ。
「京花ちゃん…結局、徹夜しちゃったか…」
「しちゃったね、千里ちゃん…」
いささか自嘲気味な私の呟きに、同じような響きで応じてくれる京花ちゃん。
つけっぱなしのテレビは、朝の情報バラエティー番組を映していた。ニュースパートは昨日の怨霊武者掃討作戦の事で持ちきりかと思ったんだけど、与党政治家の汚職疑惑や天王寺動物園の象の赤ちゃん誕生のニュースと同列で語られていて、そんなに尺は割かれていなかったな。
「うーん、他の地域は平常運転か…全国区の番組だと精々こんな扱いなのかな、英里奈ちゃん?」
「あくまで、堺県内だけでの騒ぎでしたからね…ただ、登校後の教室で、質問攻勢にさらされるのは避けられないかと…」
声がする方を何気無く振り向いたら、何となく違和感があるんだよね。
テーブルには英里奈ちゃんが座っていて、チーズとクラッカーをおつまみに赤ワインを嗜んでいる。私と京花ちゃんが『アドメト』を見ていた丑三つ時と、ほとんど同じなんだけど…
「あれ?英里奈ちゃん、もう遊撃服に着替えているの?」
間違い探しの答えを先に見つけたのは、京花ちゃんだった。あまりにも自然だったから気付かなかったよ、英里奈ちゃん。
「全く、悠長な連中だな…何が、『もう遊撃服に着替えているの?』だよ?今日は学校だろ、私達!早く身支度しないと、置いていくよ!」
腰に手を当て、あきれ顔で私達を見つめるマリナちゃんも、既に遊撃服をバッチリ着込んでいる。
「冗談キツいな、マリナちゃんも。まだ『お目覚めワイド』の時間なのに…」
ぶつくさ言いながらも浴衣の帯をほどき始めるあたり、京花ちゃんは素直な子だよね。こうなると、階級的には他の3人の部下に相当する私も従わないとね。
京花ちゃんに習い、濃紺色の帯をほどいて、白い浴衣を素肌から引き剥がす。下着姿まで京花ちゃんとお揃いだ。何しろ人類防衛機構謹製の、遊撃服と同素材である特殊繊維製の下着だからね。
浴衣をハンガーに引っ掛けた私達は、各自の遊撃服に手を伸ばした。
黒いニーハイソックスとミニスカで下半身を包み、白い遊撃服の金ボタンを締めると、ベルトループに黒革のベルトを通してウェストを絞り、仕上げとばかりに黒いセーラーカラーに赤いネクタイを巻き付ける。
この一連の動作は、本当に素早かったよ。
そう、まるでマスカー騎士の変身みたいにね。
30秒もかからない間に、幼くも艶やかな浴衣姿の少女2人組の姿は既になく、その代わりに、少佐と准佐の階級章を左肩に戴いた特命遊撃士が、誇らしく立っていた。通学カバンと個人兵装も忘れずにね。
特命遊撃士の早着替えは、部外者の目には隠し芸に見えるだろうね。
でも私達にとっては、訓練の一環で叩き込まれた動作でしかないんだ。有事の際に、速やかに動けるようにね。
「よし…行こうか、3人とも!」
通学カバンを肩から下げ、ルームキーを手にしたマリナちゃんが、私達を振り替える。
「うん!そうだね、マリナちゃん!」
「御供致します、マリナさん…」
「承知致しました、和歌浦マリナ少佐!」
返事の声と仕方は各自バラバラだけれど、その思いは1つ。
私達3人はマリナちゃんに向かって、一斉に頷いた。
まるで、上官に応じるみたいに揃った動きだったよ。
まあ、私の場合は本当に上官に当たるんだけどね…