第4章 「アドミラル・メートヒェン~愛、死にたまう事なかれ~」
「そう言えば、そろそろ『アドメト』の時間だからSBC堺に替えておくね、千里ちゃん。」
テレビのリモコンを手にした京花ちゃんが、チャンネルを地元のUHF局に切り替えてくれると、大浜潮湯の30秒CMが流れていたんだ。
-潮湯でホッコリ癒されたら、自慢の海鮮料理に舌鼓。東洋一の水族館と少女歌劇団で、目の保養もバッチリ。母なる海の恵みで、身も心もスッキリとリフレッシュ!南近畿のレジャーなら、大浜潮湯!皆様のお越しをスタッフ一同、心よりお待ちしております!
「あっ、また大浜潮湯のCMだよ!私のイメージだけど、何気無くSBC堺にチャンネルを合わせると、大抵このCMをやっている気がするんだよね。」
私もそう思うよ、京花ちゃん。
他の局では流れないローカルCMだから、余計にそう思うのかもね。
それにしても、このナレーションは何年前に録音した物なんだろう。
おばあちゃんが若かった時にも、このCMは流れていたらしいから、少なくとも40年前後は使い続けている事になるね。
音だって、随分歪んでいるし。
お陰様で、堺っ子なら誰でも口ずさめるナレーションになっているけどね。
「いいの、京花ちゃん?南近畿テレビで『アルティメゼクス』のHDリマスター版がやってるよ?」
スマホで番組表を確認した私に対して、京花ちゃんは麦焼酎炭酸割りを一気に飲み干すと、軽く笑って首を横に振ったんだよね。
「そのHDリマスター版の『アルティメゼクス』ならブルーレイで持ってるよ、私。しかも主人公の黒森進治さんのサイン入りでね!この私を誰だと思っているのかな、千里ちゃん?」
ポンッと軽く胸板を叩く京花ちゃん。
そうだったね。
貴女は筋金入りの特撮女子、枚方京花少佐だったね…
「だから、この時間帯は『アドメト』を録画しているんだ、私。私は葉月ちゃん派だけど、千里ちゃんは乙女挺身隊の中で誰が好き?ロシア魔導師団側だと、アナスタシア将軍も捨て難いんだけど、あの子死にそうだからね…」
京花ちゃんは、「アドメト」における私の推しメンを知りたがっている。
同じ作品を嗜んでいる相手への、プレーンな質問だね。
メディアミックスの発端であるゲーム版「アドメト」では、特に主人公は設定されていなかったけど、アニメ版「アドメト」では、東郷葉月ちゃんと島村綾子ちゃんのダブル主人公制をとっているの。
ポニーテールにした赤毛が印象的な東郷葉月ちゃんは、軍刀を愛用する明るく元気な熱血少女で、青髪をロングヘアーにした島村綾子ちゃんは、銃剣を着けたライフルの扱いに長けた、クールで清楚な御嬢様。
それ以外にも、個性豊かな美少女を敵味方に配置しているから、誰でも必ず好みのヒロインが見つかるようになっているんだ。
「あっ、いかにも京花ちゃんらしいチョイスだね!私は、クールで清楚な島村綾子ちゃんが好きかな。」
どうやら京花ちゃんは、自分に似たタイプのキャラクターに自己投影して応援する傾向にあるみたいだね。平たく言えば、明朗快活なキャラクターにね。
私はむしろ、自分に無い物を持っているキャラクターに、憧れ混じりで惹かれているのかも知れないな。
私はクールでもなければ清楚でもないし、ましてや御嬢様でもないからね。
「思った通りだよ、千里ちゃん。島村綾子ちゃんって、千里ちゃんにそっくりだからね!」
それは意外だったよ、京花ちゃん。
「えっ…?京花ちゃん…私、綾子ちゃんに似ているかな?ライフル使いって所位しか、共通点なさそうだけど…」
「そっくりだよ、千里ちゃん!綾子ちゃんがライフルを構える時の鋭い目付き。あれを見ると、千里ちゃんを思い出しちゃうんだよね!それに、千里ちゃんだってツインテールをほどいたら、綾子ちゃんそっくりになると思うんだ!」
京花ちゃん…それって、本当なの?
テレビに写っている「アドメト」のOPは、ちょうど乙女挺身戦隊メンバーの個別カットに差し掛かっていた。テレビの中の島村綾子ちゃんは、鋭く凛々しい表情でライフルをぶっ放しているけど、私もあんな表情をしているのかな?もしもそうだとしたら、自分の事って、案外自分では分からない物だよね。
まあ、アナスタシア将軍と軍刀で鍔迫り合いをする東郷葉月ちゃんは、確かに京花ちゃんっぽいけど。
でも、双子の秋山姉妹も捨てがたいよね。マイペースなお姉ちゃんの好子ちゃんがキック技に長けていて、しっかり者な妹のジュンちゃんがナックルを駆使したパンチ技で戦って。一見すると真逆の性格でも、タッグで戦ったら強いのは、さすがは双子だよね。
「それにしても…いいよね、千里ちゃん!伴奏が終わるタイミングで、結集した乙女挺身戦隊がピシッと敬礼する所って、カッコいいよね!」
私も京花ちゃんの意見に同感だね。テレビの中の乙女挺身戦隊は海軍式の敬礼だから、人類防衛機構の敬礼とはまるで別のポーズだけど、戦友同士で思いと足並みを揃える点では同じだと思うんだ。
「なかなか盛り上がっていらっしゃいますね、お2人とも…以前に千里さんからお借りした漫画は、こちらの作品のコミカライズみたいですね。あの作品ですと、薙刀使いの方には親近感を覚えました…」
「伊集院俊子ってキャラだっけ?あのアニメには拳銃使いがいないから、私は個人的にイマイチ乗り切れなくてさ…ちさから借りた、陸軍側を描いたスピンオフ小説には、乃木希美って2丁拳銃使いの子がいるみたいだけど、海軍メインのアニメ版には、そのキャラクターは出てこないし…」
生ハムとチーズでワインをやり始めたマリナちゃんと英里奈ちゃんが、ぼんやりとテレビを流し見しながら、一歩距離を置いたコメントをしているな。
それでも一応2人とも、「アドメト」の知識はあるみたいだね。まあ、実質的には私が布教したような物だけど。
守備範囲から多少外れた内容であっても、私が話題として持ち掛けたら、それなりにかじった上で話に乗ってくれるんだから、友達って本当にありがたいよね。
私だって、そうだよ。
京花ちゃんが神性視している初期アルティメマンシリーズの、語り草になっている名エピソードをレンタルや公式配信で視聴したり、英里奈ちゃんが読んでいるような少女漫画を、地元の図書館のヤングアダルトコーナーで借りてみたり、マリナちゃんが凝っている輸入ビールを買って試してみたり。
英里奈ちゃん達が私の好きな事に関心を持ってくれているように、私も英里奈ちゃん達が興味を持っている事を知りたい。好きと思う気持ちを共有したい。
そして、その同じ話題で盛り上がりたい。そう思うのは当たり前な事だよね。