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第3章 「水泡に消えたプール遠征」

「そうだ!せっかく大浜に行くんだから、水族館にも行かない?だって、マリナちゃんって水族館好きでしょ?サイバー恐竜の時に武装特捜車の中で、『スナメリが入ったから、そろそろ行かないと…』みたいな事を言ってたよね?」

「3年も前の雑談をよく覚えていたよね、お京…」

 京花ちゃんに水を向けられて、苦笑するマリナちゃん。3年前と言えば、私達はまだ中1で、ようやく養成コースを修了したばかりの頃だよ。そんな昔の何気無い一言を覚えているなんて、京花ちゃんは本当にマリナちゃんの事が好きなんだね。

「確かに好きだけど、ちさや英里はいいの?」

「いいね!水族館、大賛成だよ!」

 私達を気遣うマリナちゃんの問い掛けに、私は手放しで肯定の意を示したんだ。端から見れば、物凄く子供っぽい仕草に映っただろうね。

「行き先がどちらでも、皆様と御一緒なら、私は満足ですわ。」

 私の答えに英里奈ちゃんも同調する。

 英里奈ちゃんのこの思いは、きっと本心だろうな。

 何しろ、私達4人で一切のわだかまりもなく大浜歌劇団の夏公演に行くために、あれこれと心遣いをしてくれたんだからね。

「ねえ、せっかく大浜に行くなら、プールにも行かない?私、みんなの水着姿も見てみたいんだよね!」

 私達が大浜に行くのは夏公演の時期だから、その提案は出ると思っていたよ、京花ちゃん。とは言うものの、私って幼児体型の傾向があるんだよね。腰に括れはないし、短足だし。

「おいおい、お京。プールで遊んで水族館を見学して、その後に大浜歌劇団の夏公演を鑑賞するのか?それはさすがに、強行スケジュールだと思うよ。」

 まさしく水を差す発言だね、マリナちゃん。水着と水族館だけにね。

 とはいえ、髪を乾かしたり着替えたりする時間を考えると、確かにどこかの行程が疎かになりそうだね。

「それに、万一有事が起きた場合、私共は水着姿で対応する羽目になりますね…そのようなはしたない姿で戦うのは、私としては少し抵抗が…」

 心なしか語尾がフェードアウトしているよ、英里奈ちゃん。

「先週の『アドメト』が、まさしくそんな話だったな。あっちはアニメだから、水着姿で有り合わせの武器を使っても都合よく勝てたけど、同じ事を私達が出来るとは限らないし…」

 ここで私がチラッと口にした、「アドメト」というのは、「アドミラル・メートヒェン~愛、死にたまう事なかれ~」というアニメの略称なんだ。

 深夜に放送している、いわゆる萌え系のミリタリーバトルアニメなの。元々はゲームから始まった企画で、アニメ版はメディアミックスの一環なんだよね。

 日露戦争時代の著名な軍人さん達を女の子にアレンジした海軍乙女挺身戦隊が、訓練を通して友情を育みながら、ラスプーチン率いるロシア魔導師団と戦う内容なんだ。女の子達が戦うこの手のアニメは、他人事とは思えないからついつい見ちゃうんだよね。

 先週の回では、乙女挺身戦隊の面々がレクリエーションで海水浴をしている最中に、ロシア魔導師団アナスタシア隊が攻めて来て、そのまま戦闘に突入したなあ。

 乙女挺身戦隊の島村綾子ちゃんがビキニ姿で、ビーチパラソルを銃剣代わりに戦うシーンはカッコ良かったけど、『普段の軍服でないと落ち着きませんね…』って、終始気にしていたっけ…

「そうだね、千里ちゃん…それに、水着なんてふざけた風体で本隊の足を引っ張ったら大顰蹙だよね…」

 毎週楽しみにしている深夜アニメの水着回を引き合いに出す私も、それで英里奈ちゃんの指摘に納得する京花ちゃんも、なかなかにキているよね。

「そうヘコむもんじゃないよ、お京!プールなら支局地下5階に、訓練用の25メートルプールがあるじゃない。訓練で使われていないタイミングで地下プールの使用許可を申請して、それで遊べばいいじゃないか?」

「養成コース時代に着衣水泳訓練をした、あのプール?懐かしいね!」

 マリナちゃんの提案に、私は思わず食い付いちゃったの。

 着衣水泳訓練と一口に言っても、人類防衛機構が行う訓練は、普通の着衣水泳とは一味違うんだよ。

 普通の学校が体育の水泳の授業の一環で行う着衣水泳は、海難事故を想定した物で、濡れても構わないTシャツや体操服を着て行うよね。

 そして普通の学校の場合は、ペットボトルを使って浮き上がるか、背浮きをすれば、それでノルマは達成。

 ところが人類防衛機構の着衣水泳訓練の場合は、水棲型の怪生物との戦闘や人命救助を想定して行われるんだ。訓練服をバッチリ着込んだ状態で、敵の攻撃を想定した魚雷や銛を回避して破壊したり、被災者に見立てたダミーロボットを回収したりと、色々とやらなきゃいけないメニューが一杯なの。

 もっとも、撥水性抜群の特殊繊維を使用した上に、ナノマシンを配合する事で形状・状態記憶性に優れた訓練服と下着を着用しているから、陸上と同じ感覚で行動出来るし、私達の身体能力の方も、サイフォースと生体強化ナノマシンで強化されているから、そこまで苦にはならないんだよね。

 養成コース時代は「着衣水泳訓練」という呼び方だったけど、正式の特命遊撃士になった今では、「水棲敵対勢力殲滅訓練」及び「水中人命救助訓練」という呼び方に変わっているよ。

 まあ、内容がより専門的になっただけで、本質的には同じなんだけどね。

「支局の地下プールでしたら、万一有事が発生したとしても、私共は遊撃服に着替えてから、増援扱いで駆けつける事が出来ますね!」

 この提案には、英里奈ちゃんも乗り気みたいだ。

 もしかしたら英里奈ちゃんは、部外者に水着姿の自分をさらすのに抵抗があったのかも知れないね。

 私も、この幼児体型をさらすのには勇気がいるな。

「後は、各自水着を用意して、地下プールの利用許可が下りる日に当直勤務を申請すれば大丈夫そうだね、京花ちゃん。」

 さっきのマリナちゃんが出したアイディアには、私も大賛成だったよ。

「まあ、そう言う訳で、大浜での行程は、水族館と歌劇団の夏期公演になりそうだけど、それでいいかな、お京?」

「うん!プールは支局にもあるけど、水族館と歌劇団は大浜に行かないとないからね。正直、どうしても大浜のプールでないとダメって訳でもなかったんだ。せっかくだから、1粒で3度美味しくしようと思ったの。」

 マリナちゃんの問い掛けに、素直に応じる京花ちゃん。

 どうも私達って、マリナちゃんには頭が上がらないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] >私、みんなの水着姿も見てみたいんだよね! なんだか中身オッサンなキャラに見えるのは気のせいか(ォィ そして千里ちゃん……クビレがなんだ! それが無くたって……君は君じゃないか!(セクハラ…
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