~言い伝えと美江の思考と人形の力~
「留美さんの言う、発見された言い伝えは、きっとこう書かれているはずです。
『心ノ赤ヲ持つ者、人形の者有リ。
ソレハドール族ナリ。名にドールが付ク者が人形。
人形ハ人間ノ形ヲシ、人間と見分ケツカズ。
ソシテ人形と覚醒人間ハ関係ヲ持タム』
訳すと、『心の赤を持つ者には人形の者もいる。それはドール族である。名前にドールが付く者が人形。人形は人間の姿をしていて、人間とは見分けがつかない。そして人形と覚醒人間は関係を持つだろう』
貴方はレガン・ドールさんでしたね? ……そう、貴方の名前に『ドール』が付いている……それが証拠となります」
美江さんは私とレガンに向かって、そう告げる。私は持っている言い伝えを見ながら、美江さんのを聞くと、確かに同じ文だった。
「……俺は人形……。俺は人間じゃない……。なのに心の赤を持つ者として今……俺は此処にいる。俺はそもそも……留美と関わる権利も価値もなかったんだ……。守る権利も……人間として生きる価値も……!!」
レガンの体は震えていた。私もレガンの言葉に何も返せず、ただ涙を流すだけだった。
「留美……。一つ俺……嘘を吐いたんだ……。お前が淹れてくれたお茶……美味しいと言ったが……本当は俺……あの時から人形化が進んでいたんだ……。味や匂い……分からなかったんだ。……もう俺……人形に戻ってしまいソウ……なんだ……」
「……!?」
私はレガンを見た。レガンは私を見て、そして少し微笑んでいた。だけど悲し気に。
「……もう進んでしまっているのですね……。人形化が……」
美江さんは悲し気にレガンを見た。
「そうみたい……なんです。俺にとって……動けなくて涙も汗も出なくて、唯一喋ることだけ出来る頃に戻るんです。もう俺は何も出来なくなるんです……。留美を守ると……つい最近、約束したばかりなのに……」
私は心が裂けそうだった。レガンがもういなくなってしまうんじゃないかと思った。レガンは再び下を向く。私がどれだけ呼んでも顔を上げなかった。
「……人形化を少し止める薬があります。貴方の留美さんに対しての思いは伝わりました。……これを飲んで下さい」
そう言って、レガンの手に薬が乗せられた。
「人形化を治すことは出来ませんが、少し止めることは出来ます。これを飲んで、留美さんを……覚醒人間を守って下さい」
「美江さん……」
美江さんの言葉はレンの時と同じだった。レンと行った時の記憶が私の頭を支配し始める。レンの優しさ・レンとの思い出・レンの体力の無さ……。私はまた涙を零す。そして目の前の小さな体にそっと触れた。
「……!? ……留美……」
彼の目は傷付いた目だった。そんな目が出来る時点で、もう人間だと思った。
「……お願い……レガン。私の傍にいて……」
「で……でも……俺は人形だぜ? 人間じゃないんだ。……それでもいいのか……?」
「貴方が人間だろうが人形だろうが……どうでもいいの。私は……傍にいて欲しいだけ……。ううん、私が貴方の傍にいたいの」
「……!!」
レガンは驚いた顔で私を見た。正直私も、驚いていた。レガンと出会って、まだ一ヶ月ちょっとなのに、私とレガンの間にこんなにも深い関係が生まれているなんて……。きっと、この間に起きた出来事が私達を……。
「だからレガン……。その薬を……飲んで」
「留美……。あぁ、飲むよ」
そう言ってレガンは薬を口に含み、水でそれを飲み込む。
「…………」
レガンは黙り込む。一体どうしたのだろうか……? すると、レガンの体が輝き出す。
「……!!」
「レガン……!!」
レガンの体がさらに輝く。私は眩しくて目を閉じた。
「……もう開けて大丈夫だぜ? 留美」
レガンの声を聞き、私はゆっくり目を開ける。
「無事、成功です。薬の効き目が無くなるまで、レガンさんは人間でいれます」
美江さんはそう言って、微笑む。
「ほ……本当ですか? 美江さん……!!」
「……留美さんの思いが届いたのかもしれません」
「俺……このままでいてもいいんですか?」
「ええ。貴方はもう……人間ですから。人形に……そんな心はありません。レガンさん……どうか留美さんの傍にいてあげて下さい」
そう言って、美江さんはレガンの頭を撫でた。
「くすぐったいですし、恥ずかしいです……!!」
「いいじゃありませんか。此処には私と貴方と留美さんしかいませんし」
「留美が見てます……!!」
「あはは、レガン、可愛いよ!!」
「留美……」
レガンは恥ずかしさのあまり、そっぽ向いた。それがまた少年らしく可愛かった。
「お、お、覚えてろよ!! 二人共!!」
レガンは赤面でそう言う。全く……可愛すぎて説得力0だ。
ふと美江さんを見た。初めてこんな笑顔を見た気がする。レンと行った時は微笑むぐらいだったから。そういえば、言い伝えに『人形と覚醒人間は関係を持つだろう』とあった。もしかしてこういうことなのだろうか……。これが人形特有の力……?