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カルミア  作者: Rとレモン
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不幸な少年と心霊

 

もう嫌だ。今の現実からとにかくすぐにでも逃げ出したい。


受験に失敗にしてからほんとにつらいことしかない。やりたいことがない。


『やりたいことがない?』そうじゃない。受験に失敗して、行きたくもない大学に進学してから、周りを自分より劣っている存在と見下したり、進学校に通っていた当時の仲間と今の自分を比べ、自分に劣等感を抱き、何をするにしても疎外感を感じているだけだろう。自己解析はこの半年間で十分成長したつもり。


ベットの上で、自分のスマホとにらめっこするばかり、部屋が蒸し暑い、パンツ一丁で寝返りを打つ、まあ寝返りといっても寝ているわけではないが、


「もう八月なんだよな。」


バイトをしないといけない。そう自分でも感じているし、また同時に母にもそうするように煽られる。

というのも9月に海外、タイに行く予定があるのだ。


受験に落ちた後、今の大学に入学してから、その悔しさとプライドの高さも相まって、仮面浪人を決意した僕は、『一年たったら絶対この大学を辞めてやる』そう思っていた。

そう思っていてそして大学での生活に慣れてくるころには、どうせ一年しかいないんだしという口癖が自然に意識に表象するようになっていた。

大学の友達、同じ進学校に通っていたころからの友人のおかげなところもあるが、かろうじて友達はできた。ここでは友達と呼べる存在と言っておく、その友達と呼べる存在に会うたび、『こいつとは一年との付き合いなんだな』と感じるし『一年だけだから』と心に少しだけ人間関係についての余裕?とも思えるものものもでき付き合いをしていくうえで楽だった。


タイに行くことになった経緯は簡単なもので、簡単なものでというよりは自分の安易な考えのもので、仮面浪人の保険のためである。


仮面浪人を失敗したとき、華やかしい大学生活の一年を勉強に費やして棒に振るわけで、浪人も同じじゃないのかと思うだろうが、仮面浪人は浪人と違って勉強にあてられる時間もかぎられているわけで、当然失敗する確率も高い。


まず仮面浪人をしようとする絶対数が少ないところもあるのだが、浪人していればよかった後悔しないようにしたいし、合格した時に、大学生として遊んで浪人生として上の大学に合格することもできたぜ。と他と比べて優越感に浸れると考えたためである。そのためのタイである。



扇風機が首を180度回しながら、音を出しながら回転する。風が一度自分にあたってからまた自分にあたるまで少しの時間が、その規則的な時間がなんともいじらしい。スマホで住宅地周辺のバイト情報が載っているサイトを指でスクロールする。

いろいろあるうちの1つが目に留まった、家から4キロ離れたところにあるパスタ専門店である。

別に特別な理由があったわけではなく、ただ感覚的に直感的にここがいいかもしれないと思っただけだった。すぐにその店の電話番号をスマホでメモを取りその店に電話を掛けた。



「ハイ電話を承りました。フォンセパスタです。」

その電話の声主は淡々としていたが芯のある声で女性だとすぐにわかった。


「あ、もしもし~」

こういうのは得意で僕は直で人と接すると会話できないくせに、電話やラインなどは饒舌になるタイプである。


「ネットでそちらの店のバイト情報を見つけまして、バイトの面接に伺いたいんですが。」


「わかりました。担当のものに変わりますね。」 

それから30秒もなかったと思う。

「もしもし電話変わりました。」


かわった面接担当さんは気弱な男を想像させるような疲れたような声だった。


「バイトの面接だったよね?えっといつからがいいかな、3時、、4時んん、じゃあ5時に店まで来てくれる?あ、場所はわかる?」


「わかります。」


「そうじゃあそういうことでお願いします。お疲れ様です。」


「はい、ありがとうございます。」


よしとりあえず事が進んだ。屑にならなくて済む。



三時間はあっという間にすぎた。履歴書をもち、着替えて家から外に出た。自転車にまたがって目的地に向かう。


家は大学に近く徒歩1分もない。道路をまたいで向かいにあるので非常に通学には楽である。

その道路を自転車でこいでいく。4キロだったら大体30分ぐらいで着くだろう。


道路に隣接する大学内の野球場で野球部が練習している。

熱いのによくやるなと思いながらひたすらに自転車をこぐ、国道にさしかかったところの信号で、


「ひたすら漕ぐのもあれだな」


そう思って、信号が赤の間うちにバッグからイヤホンを取り出し、携帯につないで音楽を聴くことにした。


音楽の好みは特にない、アイドルが好きだが、アイドルそのものの個性や顔が好きなだけで別にアイドルの曲が好きなわけではない。その時話題だった映画か何かの主題歌をかけた。

ふとして携帯から顔を上げるとさっきはそこにいたのだろうか、白い服を着た女の人が歩行者用専用ボタンのそばに立っていた。

身長は170くらい、いやもう少し高いようだった髪の毛はきれいな黒色で腰の近くまでの長さだった。熱いのか白い帽子もかぶっており髪も長いので自分の位置からはその顔は見えなかった。


『顔を見たい?』馬鹿なのか。


顔を見るためには、彼女を追い越した後、振り向かなければならない。

そうすれば彼女に僕が彼女の顔を見たかったと教えるようなものだ。そんなことは絶対しない。

なぜなら僕はプライドが高いからな。


自分の意識下で自分に突っ込みを入れるのは我ながら気持ち悪い。信号が青になるとそのまま自転車をこいで過ぎ去った。それから20分後くらい自転車を走らせて、フォンセ・パスタについた。外装はネットの記事にあった通りのようでよくあるファミレスのようだった。中に入ってみると親子ずれが窓際の席に座っているのが見えた。


「いらっしゃいませ~。え~とおひとりさまですか。」


すぐに店員さんが接客してくれた。大体この周辺でバイトをしている人は同じ大学だ。それに同い年にみえる。顔は美人というよりはかわいい系。顔に言った視線が胸元に強引に引っ張られた。相当にでかい。たぶんf未満ではない。


「えっと、、バイトの面接に来ました。」


「支配人に聞いているよ。齋藤君だよね。おくまできてくれる?」


「あ、はい..」


言われたように厨房の中を通り、その奥の個室に入ると、デスクトップの前に一人の男の人が座っていた。その男はパスタを食べている途中のようだった。たぶん僕が電話している途中で変わった声が気弱な男だろうということが分かった。しかし、実際見てみるとひょうひょうとした風貌で髪の毛は少しパーマがかかっているような髪質で黒メガネをかけていた。


「斉藤君だね。履歴書見せてくれる?そこに座って」


僕はバッグから履歴書を出して支配人さんに渡した。

支配人さんは一通り履歴書に目を通し机の引き出しから書類を取り出した。


「部活やサークルはいつあるの?平日?」

僕はサークルには入ってなかった。勉強時間を確保するため部活やサークルには基本はいらないようにしている。


「サークルには入ってないです。いつでも大丈夫です。」

支配人さんは淡々とした表情を崩さなかった。


「そう。こちらとしては人が不足していて困っているんだよ。最近は意味もなくバイトを辞める子が多いんだ。少しはこっちの都合を考えてほしいもんだよねぇ。君、採用にしようと思うんだけど、この書類を書いて持ってきてくれる?」あっさりと採用になった。


「いつまでにですか?」一応聞く


「書類ができたら連絡して、その時言うよ」

「わかりました。」




フォンセパスタを後にし、帰り道コンビニで晩御飯を買って帰ることにした。

フォンセパスタで過ごした時間は10分も無かったので、ほぼ行き帰りの時間だ。コンビニに寄った時間も5分もなかったと思う。僕はパンかご飯かという質問に『麺が一番好きです』と答えるぐらい麺類が好きなので迷う余地がない。

バイト先を無意識にパスタ専門店にしたのもそういうことなのかもしれない。

今日は大盛ペペロンチーノにしよう。昨日はカルボナーラだった。一人暮らしを始めてから生活習慣が乱れ、健康的な食事もできてない、そろそろ自炊を始めないとお金もやばい。


コンビニから出て、また自転車を走らせる。吹いてくる風が心地いい。



家につき、勢いよく自転車を止め、そのまま階段を駆け上がる。ドアを開けようとして、ズボン、バッグのポケットを順にまさぐった。やっと鍵をみつけ、手に取りドアを開けようとした。


その時、僕は、自分の家に、そのドアに違和感を感じた。しかし僕はすぐにこの違和感の正体にきずいた。


「チラシがない。」


出かける前まではドアの差し込みポストにチラシなどが挟まっていたのだ。それがなくなっていた。


「このご時世チラシ盗むって、どういう神経してるんだよ。まあゴミが減ってありがたいんだけど。」

最近はおかしい人が多いらしい。そしてそのまま鍵を開けて部屋にはいった。


人生は何が起こるかわからないとはよく言われる。僕の人生は、受験に失敗した時からどん底だった。悔しい気持ちから仮面浪人を決意したことも、正しいのかどうかは正直わからない。



でもこの時、改めて僕は確信した。


『僕の人生はろくなことが起こらない。』





部屋に入ったとき、僕の視界には、一人の銀髪な少女が写った。その少女は手にチラシを握っていて、端正で、ぱっつんで、小さくてうつくしかった。そしてうっすら僕に笑みをこぼしてしゃべりかけた。



「お帰り待ってたよ。お兄ちゃん・・・・・・。」




温めてもらったペペロンチーノのいい香りがする。

これだから僕の人生は、、もう嫌だ。


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