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「続・楽園の誓い」  作者: 凡 徹也
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「第5章」 〜日光初日〜其の三

作者の日光での描写は、自身が日光を訪れた際の記憶に基づくものです。その為、1部の記述に、現実での風景描写とは違った部分があるやもしれませんが、その点は悪しからずご了承お願い致します。

美味しそうにタバコを吸い、煙を吐き出すユウイチの顔は満足気に見えていた。そこへ、来るのが遅いと娘の優香里がやってきて、「ユウおじさん!タバコは健康に悪いんですよ。だから、吸ってはいけません」と、窘めた。

ユウイチは、「参ったな。エミーより厳しいや」とこぼし、苦笑いをして、タバコを消した。周りに居た喫煙者からも思わず苦笑いの声が漏れた。

その様子を遠目に見ていたエミーは、「私にも頼もしい妹分が出来たわ。」と満足顔になると、由美子は吹き出して笑った。

ユウイチは、バツが悪いのかマヌケ顔になっていた。そんな顔を僕は初めて見たので、僕も思わず笑っていた。

駅舎を出たターミナルでは、僕の名前を書いたプラカードを持った温厚そうな紳士が立って待っていた。声をかけると

「尾崎様ですね。お待ちしていました」と、明るく返事をしてくれた。今日明日と、ガイドをしてくれるタクシードライバーである。

「直ぐにわかりましたよ。とても楽しそうに出てこられ、一際目が惹かれました。私、今日明日とご案内役をさせて頂く日光公認ガイドの和田でございます。宜しくお願い致します。」

僕は、「尾崎です。こちらこそお世話になります。宜しくお願い致します。」と言って頭を下げた。ユウイチは、「僕達2人はハワイから来ました。特にこちらの彼女、エミーは日本が初めてです。今回の旅行を物凄く楽しみにやってまいりました。ご案内宜しくお願い致します。」と言うと、エミーは

「日光訪れるのを本当に楽しみにしてました。日本語解りますので普通にお話ししてくださいね。」とお願いした。

「良かったです。私は、簡単な挨拶程度の英語は使えるのですが…、それなら全く心配要らないですね。では、ご乗車の前に、皆さんトイレの方は大丈夫でしょうか?特に女性の方々は今のうちに済まして来られた方が。途中に公衆トイレは有りますが、当分の間行くことが出来ませんので今の内に済ましておくことをお勧めします」

そう言うと、運転手は皆の荷物を預かり、トランクに詰め始めた。女性達は皆でトイレに行き、やがて戻ってきた。エミーは戻ってくるなり

「ユウイチ、凄いの!。パブリックトイレなのに、物凄く綺麗で清潔なの。ウォシュレットだし、洗面ではお湯も出るのよ。ホテルだけで無くこのような所まで。驚いたわ。日本のトイレって凄いわ」と、余りにもビックリ顔で話すので、僕はユウイチと顔を見合わせて笑ってしまった。

僕達5人がタクシーに乗り込むと直ぐにタクシーは走り出した。運転手は、ハンドルを握り、前方を注視しながら、話を始めた。

「改めまして、今回は当社のタクシーをご利用頂き有難うございます。今回のご案内ですが、本日はまず、車を奥日光の最奥部の湯湖へと走らせます。そこでタクシーを降り、湖畔と滝を観ながら散策して歩いて頂きます。戦場ヶ原までは下りと平坦な道ですので疲れは少ないと思われますが、足元に注意して、スリップなどされない様にして下さいね。

紅葉は、駅周辺や東照宮辺りでは未だ始まったばかりという感じですが、奥日光は、正に今が真っ盛りで綺麗ですよ。楽しみにしていてください。」

妻やエミーは、もう既にニコニコ顔だった。

間も無く前方に「神橋」が見えた。真っ赤な独特な形状の橋をエミーは身を乗り出して観た。

「橋と言えども、実際には年に一度、お祭りの日にしか渡ることはできません。何せ「神様の橋」でありますから。」

ガイドはそう付け加えた。そして「右側のこの奥に明日ご案内します東照宮がございます。」と言ったが、車窓からはその姿は見ることはできなかった。

車はやがて「馬返し」と呼ばれる奥日光への登りの取り口を折れ、いよいよ「いろは坂」へと入って行く。

「これからの道は、有名な『いろは坂』です。急なカーブがずっと続いて参ります。車に酔いやすい方はいらっしゃいますか?」運転手は、そう尋ねたが、皆で顔を見合わせたが、誰も手を挙げない。みな、車には強いようである。

「では、身体をしっかりとシートベルトで締めて、踏ん張って下さいよ。」ドライバーがそう言うと、エミーが笑い出した。車がは第一カーブを曲がったあと、左へ右へとカーブを繰り返していた。

「私が前来た時はね、霧がかかってて、なーんにも見えなかったの」と、娘の優香里が唐突にドライバーに話しかけた。

「そうですか。それは悲しかったでしょう。でも、今日は、快晴ですから、いろは坂も、男体山、華厳の滝も綺麗に見えますよ。お嬢さん」

「わーい、楽しみ」と、優香里は座ったまま椅子の上で跳ねた。

「優香里!行儀悪いわよ。」と、妻は軽くたしなめたあと、

「本当に、修学旅行の時を思い出すわ。あの時もこうやって左右に振られて、バスが時折、エンジンを唸らせるの。途中で壊れて止まらないのかしらと思ったくらいよ。」

そんな会話が進む中、車は少し視界が開いた「明智平」と言うロープウェイ乗り場のある大きな駐車場へと入った。

「ここは、景色も最高なのですが、この先、トイレも暫く有りませんし、普段車に酔わない方でもいろは坂では酔ってしまう方も多いので、必ず休憩を取るようにしています。前方の方へ歩いて頂くと、素敵な景色と出逢えますよ。」

そうドライバーに促され、僕たちは車を降りた。

優香里とエミーは、降りるや否や手を繋いではしゃいで走って先に行ってしまった。妻は慌てたが、もう仕方ないわねと言った表情を見せてその後を追った。僕とユウイチは、その後をゆっくりと歩いて続いた。

ロープウェイ乗り場の広い駐車場を横切って行くと、走って行った優香里とエミーが手招きをしている。僕達も、少しだけ急ぎ足でその場所迄行くと、その先にある深い谷間を見下ろせた。

「パパ、観て。あれ!」優香里が指差した先に小さな、しかし、存在感のある滝が見えていた。

「あれって華厳の滝だわね」由美子が驚いた顔をして呟いた。

「こんな場所から観えるなんて知らなかったな。」と、僕も呟いていた。

「 結構壮大たなあ、驚いた」とユウイチが言うので、

「でも、ハワイにはもっと凄い渓谷沢山有るよね」

「カウアイ島に行くとな。でも、オアフではそんなでも無い。」

ユウイチは、そう言うとタバコに火を付けて一服してから、

「ユカちゃんに見られたら大事にされちゃうからな」

と、思い切り煙を吸い込むと、気持ちよさそうに一気にその煙を吐き出した。

「サトルは相変わらずタバコはやらないのか?」

「僕は仕事上、タバコを吸ってはいけないんですよ。まあ、元々やらないんですけどね。それに、日本では喫煙できる場所が、年々規制されてきて喫煙者はかなり肩身が狭い思いを強いられてますね」

「それは、ハワイでも同じさ。ワイキキビーチでタバコ吸えば、罰金取られるし路上では吸えないし、飛行機内でも、今じゃ全席禁煙、ホテルでも喫煙ルームは少ない。周りの者は受動喫煙で病気にされると騒ぐしな。

でもやめられない口寂しいというか、落ち着かない」

「ユウイチが、『寂しい』って、何か似合わないですね」

「そうかな…」そう言うと、ユウイチは、上空を見上げた。

間も無く後方から女性達もやって来て谷を覗いてみる。

「うわっ!結構高くて怖いー!」と、優香里が声をあげた。そして、谷底からの上昇気流がエミーの髪を巻き上げた。

「風が強い〜!でも、気持ちいいわあ」

そのエミーの横からのシルエットが、僕にあのタンタラスの丘のシーンを思い出させていた。

「そろそろ先に向かいますよ」と、タクシードライバーの呼び掛けで僕等は車へと引き返した。

僕等が全員車に乗り込むと車は再び走り出した。いろは坂もあと僅かであった。暫くすると登り坂も終わり、短いトンネルへと入った。そこを抜けると左手には湖が見えてきた。中禅寺湖である。道は間も無く突き当たり、そのT字路を左へと折れ、湖畔の道を進んで行く。

中禅寺湖は、静かでフラットな湖面を見せていた。その周りを囲む様に見頃を迎えた鮮やかな色の樹々が縁取っていた。対岸の森は赤、黄、オレンジの中に、溶け込む様に緑や茶色が散在して彩り、まるでキルトの生地の様でもあった。

娘とエミーは2人で子供の様にはしゃいでいた。

「ワンダフル」「きれいー」

ユウイチも思わず「ホォーッ」と言葉を漏らした。

「日本の秋はやっぱり最高だな」

由美子は、「本当に綺麗ね。造り物みたい。まるで錦に織られた

絨毯の様だわ」と、静かな感想を漏らした。

僕も、素直に美しいと思った。構えてしっかりと風景など見ることは今迄無かったが、こんなに綺麗な紅葉はおそらく初めて観たのだと思った。

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