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「続・楽園の誓い」  作者: 凡 徹也
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「第4章」

僕は未だオフィスにいた。明日の開発者会議の資料を纏めていた所だった。突然、マナーモードの携帯のバイブが震えたので画面を見ると、ユウ イチからの着信だと判り、取り急ぎ電話に出た。

「こんばんは、サトルです。ユウイチさん商談終わったんですか?」

「さっき初日の交渉終えて、今はエミーと銀座で飯食ってるとこだ。所で、ちょっとお願いがあるんだが」

「改まって何ですか?」

「実は、3日後の帰国前夜に、商談の先方を招いて会食と言うか、一席を設けたいのだが、サトルは何処か良い店知らないかな?」

「自分がたまに使わせて貰ってる店なら何軒かありますけど…和食がいいですか?」

「そうだなあ。静かに座って食べれるなら何でも良いのだが」

「それなら、良い天麩羅屋があります。東京ミシュランガイドでも紹介されてる店ですし、其処ならお勧めです。店主とも懇意にしてますし。」

「 そうかあ。其処紹介してくれないかな?。話もしたいし今夜チョコっとホテルに立ち寄れるか?」

「良いですよ。ホテルまで会社からも近いですし。何時にしますか?」

「サトルは、何時に来れる?俺の方は9時前位にはホテルに戻れると思う。」

「それなら9時に伺います。待ち合わせはホテルのロビーで良いですか?」

「OK!ロビーで待ち合わせで。宜しくな。」

僕はユウイチとの電話を切ると、直ぐ様家に電話を入れた。

「僕です。今夜、少し遅くなりそうなので先に休んでいてくれ。」

「夕食は、どうなさいますか?」

「帰ってから温めて食べるので。帰宅は11時位になるかな?」

「仕事大変なの?」

「いや。未だ会社なんだけど、この後チョコっとユウイチに会ってくる。相談有ると言うので」

「あらーそうなの。宜しく言っておいて下さいね。旅行愉しみにしてますって。」

「判りました。余り遅くならない様に帰りますので。じゃあ。」そう言って電話を切った。

8時半過ぎに、僕はオフィスを出た。ユウイチが滞在しているホテルはここから地下鉄で二駅程である。

ホテルには9時を少し回った頃に到着した。ホテルの玄関から中へ入ると、ユウイチ達はロビーの正面に立って待っていた。

「ユウイチさん!」と、僕が先に声を掛けた。

「サトルー、久しぶりだなあ!」ユウイチはそう言いながら、僕に駆け寄り、力強く抱きしめた。12年振りに見るユウイチは、相変わらずの真黒な顔で、顎には綺麗に揃えられた髭を蓄え精悍さを増していた。髪は雑誌の写真と同様に長く後ろで束ねていて、そのロン毛がジャケットにも似合う。その服の上からも発達した肉体が判るほど堂々としていて、周りに異彩を放つ。まるで、プロスポーツ選手か、ハリウッドスターの様だ。

「ユウイチさん変わらないですね〜。いや、前より更に男の魅力上がってますね」

「サトルも若いなあ。とても40歳には見えないよ。」

「そんな事ないですよ。髪の毛に白いのも混じり始めたし…」

「実はな俺も。本当は髪の毛黒く染めてるんだ。」ユウイチはそう言うと束ねた毛を持ち上げ、地肌を見せたので、僕は思わず笑ってしまった。

そこにエミーが、口を挟んだ。

「何2人してお互いに年寄り自慢し合っているのよ。それに、座って話ししましょうよ。」

そう言って、近くのソファーに誘い、僕らは腰掛けた。

「サトルさん。改めまして、社長の有能な秘書のエミーよ。今回はお世話かけますが宜しくお願いします。」

エミーは少しだけふくよかになってはいたが記憶に残るままの姿でいた。陽気な笑顔と人懐っこい性格に好感が持てる。

「まあ、なんだ。俺より1つ年上だしなあ。俺の目付け監視役みたいなもんだな。今回だってな日本へ行くって言ったら、『社長1人でなんか危なっかしくて行かせられるもんですか!』って言って勝手に同行する話進めて結局付いてきちまった。もっともな、10年以上の腐れ縁だし、1番頼りになる部下でもあるしな。それに、彼女は昔から日本へ行きたいってずっと言ってたんだ。」

すると、エミーはユウイチの体を肘で押し、

「あーら御言葉ですこと!部下だなんて大した紹介の仕方ね。ビジネスパートナーと言って欲しいわ。それに女性の年齢をいきなりバラすなんて失礼極まりないわ。本当に社長にはデリカシーってものが無いんだから。もう!」

と、冗談?混じりに怒った様子がとても可笑しくて思わず笑った。

「今日は挨拶程度しかできませんが、明後日の朝、このホテルまで家族と供にお迎えにあがります。僕の家族も旅に同行できる事を楽しみにしています。今日はお疲れでしょうからぐっすりと休んで下さいね。後、明後日は草原のハイキングも有るのですが、奥日光は今朝は4℃まで冷え込んだそうです。くれぐれも日本で風邪などひかないように、着込んで来て下さいね。」そう言うと

エミーは、

「驚いたわ。しっかりとした紳士よねーサトルは。社長の友達にこういう方が居るだなんて信じられないわ」

「エミー!それはどういう意味なんだ?」と、ユウイチは憮然としたが、その掛け合いが面白くて僕は再び笑った。

「ユウイチさん。頼まれていた件なのですが、この店でどうでしょうか?天麩羅料理屋としては一流の店ですし、目の前で揚げてくれて味は勿論のこと、雰囲気も接客も保証します。それに、ミシュランガイドでも星取ってますし、良ければと。」

「サトルのお薦めなら間違いないだろう。そこを手配してくれるか?」

「では、個室の予約を入れておきます。時間と人数、それに予算は、決まってますか?」

「いや、未だ詳しくは」

「では、部屋だけでも押さえておきましょう。詳しくは当日の昼までに連絡入れれば大丈夫なので。」

「宜しく頼むよ」そう言われて僕はその場で電話を入れた。

「OKだそうです。」

「良かった。サトルに頼んで良かったよ。」

「サトル、一寸時間あるかな?良かったら、部屋で一杯付き合ってくれ。」

「そんなに時間は無いですが、再開の乾杯位なら。」

「良かった。積もる話しが山ほどあるんだ」

「そんなに付き合っていたら夜が明けちゃいますよ」

「そうだった。今夜はさわりだけだな」

「そうですよー。積もる話は、日光でも出来ますよ。」

「 ははは〜!それもそうだな」

僕達は、そう言いながら、部屋がある上層階へのエレベーターに乗った。

エレベーターを降り、エミーは

「男同士の話に私は邪魔ね。部屋でゆっくりするわ」と言うので、僕は「エミー、お休みなさい。1日お疲れ様でした。日本滞在の初日、ゆっくり睡眠とってくださいね。」と言うと、エミーは真向かいの自分の部屋へと入り、僕はユウイチの部屋へと入った。

「広い部屋ですね。」

「旅行社が、用意してくれた。男1人には勿体無い部屋だな。」

僕らはソファーに腰掛けた。ユウイチが冷蔵庫の中から、飲み物を取り出してきた。

「ビールはダメだったよな」そう言って、梅酒ソーダを僕に差し出した。

「良く覚えていてくれましたね。でも、最近は、ビールも少しは飲めるようになったんですよ。それも、ハワイでの最後の晩に飲んだことがきっかけです。」

(本当は、ユウイチと再会できた時の為に、一緒に飲めるように懸命に練習したのだったが、そんな事はとても言えない)

僕達は、数年振りの乾杯をした。ある意味、万感な想いが溢れる。それは、ユウイチも同じだった。

(サトルとこうやって逢いたかった。でも、とても逢えないと諦めてもいた。そのサトルが目の前に居る)

暫くお互いに無言の時間が有った。僕から堰を切ったように話し始めた。

「事業のご成功おめでとうございます。ここまで来るには、色々大変だったでしょう。」

サトルのその言葉に、目頭が潤んだ。あの忌々しい記憶が脳裏をよぎった。

サトルは、ユウイチの目が微妙な反応を示した事に気が付いた。何とも言えない間が空いた後、ユウイチは、静かに話始めた。

「そうだな。今は順調と言えるかな。それでも、会社の立ち上げの時は本当に大変だった。色んなことが有ったな。」そう言うと、ユウイチは、視線を天井に向けて、感慨深げだった。いつもと違う表情を見せた事に、僕は違和感を覚えていた。

「一体、何が有ったのですか?」

そう尋ねると、ユウイチは重そうな口を開いた。

「スポンサー探しが大変だった。当初乗り気だった投資家に、話が煮詰まった時点で急に断られてなあ、その後がドタバタして本当に大変だった。本当に…」

「大変だったのですね。でも、良く乗り切りましたね。」

「まあ…何とかな。話せばとても長くなりそうだ。行く行く話せるチャンスがあれば。」

ユウイチの顔が曇った事を察知して僕はそれ以上は聞かない事にした。

「 それでは、今夜はこれ位で帰ります。積もる話は、明後日の晩にでも。」

「そうだな。明後日が本当に楽しみだ。」

「それでは、お休みなさい、ユウイチ。」

「サトル、お休み。帰り気を付けてな。」

僕はそう言って部屋を後にして、地下鉄の駅へと歩いて向かった。

(ユウイチに、何が有ったのだろう。あれ程言いづらそうな表情をするとは…)

(とてもサトルに本当の話は出来ない。きっと軽蔑されてしまうだろう。なんて話をすればいいのか…)

それぞれが、頭の中を混沌とさせていた。

 ユウイチは、エミーの部屋をノックした。エミーは、まだ寝ずにいて、ユウイチは、部屋の中へ入った。

「サトルさんは本当に爽やかな人ねー 好感持てるわ、」

「そうだな。昔と変わっていなかった。まるで少年のようで。」

エミーはそう言ってから顔の表情が冴えないユウイチの様子を見逃さなかった。(久し振りに会って、手放しで喜んでいるはずなのに、一体何が有ったのかしら?)口に直接出して聞かけず勘ぐるしかない自分にもどかしさを覚えるしかなかった。

僕が家に帰り着いたのは11時少し前の事だった。由美子は未だ起きていて、晩飯も食べずに待っていた。

「先に食べてくれて良かったのに。待たせてごめんね。」

「色々、話ししたい事も有るし、それに一緒に食べたかったのよ。」

そう言うと、由美子は、鍋の火を付けて、料理をレンジで温め始めた。

「ユウイチさんはどうでしたか?」

「昔とちっとも変わっていなかった。むしろ以前より男前になっていたなあ」

食卓に料理が並び2人で席に着いた。

「旅行の準備は今日のうちに殆ど出来ているわ。後は当日出かける時に着ていく服のことだけね。3人のトレッキングシューズも万全よ。優香里は新品の靴だから御機嫌よ。先週から紐通して、休みはそれを履いて近所の公園とか歩いて貰ったもの。足に馴染んで、とても良い感じよ。私達も大丈夫ね。

 あなた、覚えている?結婚前に一緒に長野県の車山高原へ出かけた時の事。リフト乗って車山の山頂まで上がって、そこから八島湿原まで歩いたわよね。それ以来よハイキングなんて。自然の中で、太陽の光浴びれるなんてこの先あるのかしら?本当にワクワクしちゃうわ。きっと奥日光は、マイナスイオンも、フィトンチッドもいっぱいで気持ちいいんでしょうね。それに紅葉もピークの様だし、天気も2日間快晴みたい。私も優香里も過去の日光での残念な思い、払拭出来そうよ。」

「僕も何か気分がウキウキしてきたよ。家族とそしてユウイチも一緒だなんて、ちょっと前まで想像もしてなかったよ。」

「私も。素敵な旅行になると良いわね。」食事も終わり、食器の片付けを僕も手伝い、キッチンに並んで洗いながら、会話は更に弾んでいた。

片付けも終わり、僕は寝る前にシャワーを浴びながら今日1日の事を振り返って思い出していた。益々かっこよく見えたユウイチが眩しく見えて胸が熱くなっていた。それでも、満面の笑顔に差し掛かったあの暗い影は、一体何なのだろう。哀しげにも見えたあの曇った顔が頭から離れなかった。

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