プロローグ(4)新しいクラスメイト達
環奈と別れ、教室に向かった友季は本鈴が鳴る前に教室に着いた。
「お~友季。何か遅かったな。 大きいのもしてたのか?」
友季が教室に入ってきたのを見て一護は茶化す様に尋ねる。
「違うよ。 まぁちょっとあってね。」
僕は手で一護が言ったことの否定を表すジェスチャーをしながら、わざわざ言う事でも無いだろうと思い言葉を濁す。
「ま~た誰か人助けでもしてたんだろ。 相変わらずだな友季は。」
どうやら友季の性格を良く知っている一護には、隠しても余り意味が無かった様だ。苦笑しながらずばり当ててきた。
キーンコーンカーンコーン。
「あ、チャイムだ。 僕は席に着くよ。 また後で。」
「お~。 じゃあな。」
本鈴が鳴った事で話を中断した友季と一護は互いに軽く挨拶を交わし、それぞれに自分の席に座った。
「皆さ~ん。 席に座りなさ~い。 ホームルームを始めますよ~。 あらっ、今年のクラスは皆優秀ね。」
ガラガラガラッ。
そう言ってビシッと決めたスーツ姿の若い先生が教室の前の扉から入室し、扉を閉めて教壇へ向かう。
「さて。 クラスの皆さん。 2年Dクラス担任の《黒田沙知絵》、教科は数学担当です。 呼び方は黒田先生か沙知絵先生なら許します。」
教壇に立った沙知絵先生は自己紹介を始める。
「今年一年間、共に充実した学園生活を送りましょう。」
「は~い! さっちゃん宜しく~!」
「今年もさっちゃんで良かったよ~。」
新しくクラスメイトになった2人の男女が沙知絵先生をあだ名で呼ぶ。どうやら去年も担任が沙知絵先生だった様だ。
「はい。 これで三島君と大石さんの数学の内申点が減りました。 皆さんも気を付ける様に。」
「えー!?」
「えー!?」
『あはははははははは。』
揃って同じように叫んだ2人を見ていたクラスメイト達から笑いが溢れる。
そうしてホームルームは和やかなムードで進んでいく。
「では最後に自己紹介をしてもらいます。 早く先生も皆の顔と名前を覚えたいですしね。 あ、でも三島君と大石さんはもういいですよね?」
「そんな、せんせ~。」
「そんな~。」
「冗談です。」
『あはははははははは。』
沙知絵先生はビシッとスーツを着こなす姿から、真面目一辺倒な先生なのかと思いきや、ユーモアもある良い先生の様だ。
そして名前の順番に自己紹介が進んでいく。、
「《大石絵美》です。 去年はさっちゃっ・・じゃ無かった・・。 担任が沙知絵先生のクラスでした! 元気だけが取り柄です! 宜しくお願いします!」
先程先生に弄られていた絵美が、先生の呼称を間違えそうになりながらも元気に笑顔で自己紹介を終える。
そうして自己紹介が進んでいく中、始業式の時に見ていた綺麗な金色の髪をした女生徒の順番が来た。
「《冬島・エリィ・カトレア。》」
「お父さん日本の人、お母さんイギリスの人、ハーフ。 去年イギリス居ました。 日本語少し下手・・よろしく・・。」
カトレアは綺麗な髪だけで無く、モデルの様に綺麗な顔、そしてスタイルをしていた。 男子のみならず、女子からも騒がれそうな容姿をしているカトレアだが、他人を余り寄せ付けない様なピリピリしている表情で淡々と自己紹介をしていたので、騒ぐような生徒は居なかった。
「綺麗な娘だな~。」
そんな風に誰にも聞こえない程度の小声で呟いていると僕の順番が来る。
椅子から立ち上がり、自己紹介を始める。
「《皆方友季》です。 家が喫茶店 《カルテット》をやっています。 先にも紹介のあった《夏樹一護》とは幼馴染です。 趣味は家の影響で紅茶を少々。 それと、マンガとか読んだりするのが好きです。 一年間宜しくお願いします。」
僕はそこそこ無難に自己紹介を終えた。
「・・・。」
しかし、自己紹介を終えても、何故かカトレアが席から離れているこちらを少しの間だけ見ていた。
「僕何か変な事言ったのかな?」
何がカトレアの琴線に触れたのか分からないまま最後の1人の自己紹介が終わる。
「これで、ホームルームを終わります。 実際の授業は明日からなので、必要な科目の教科書とか忘れないように。 まだ学級委員を決めていないので、今日はこのまま解散して良いです。 ではまた明日。」
ガラガラガラ。
ガラガラガラ。ピシャン。
そう言った沙知絵先生が教室の前の扉から出て行く事で、今日の学校での予定はすべて終了した。
「おーい! 友季。 今日どする? 何所かよってくか?」
それぞれ自由に帰宅する生徒や雑談する生徒達の中、一護が友季に声を掛ける。
「う~ん・・それは魅力的なんだけど、今日はもう帰って家の手伝いをするよ。」
「そか~。 なら俺も今日は帰るかね。 一緒に帰ろうぜ!」
「うん。」
そう言って友季と一護は帰宅の途に就く。
「そういや友季。 あのハーフの娘とは知り合いか?」
学園から家までの道のりの途中。ふと一護が僕に聞いてきた。
「いや。 今日初めて会ったと思う。」
「でも何で?」
僕は一護が質問してきた理由が気になり、聞き返してみる。
「いや。 何かあの娘、自己紹介の時友季を見てた気がするんだよなぁ~。」
「あぁ、それは僕も気づいたけど、何故かは分からないままだったよ。」
自分自身も気づいていたが、理由が分からなかった事を素直に言葉に出した。
「確かに自己紹介も普通だったし、友季に一目惚れしてずっと見てたって表情でも無かったしな。」
「一護は良く見てるね。」
僕は素直に感心する。
「まぁな! 朝も言ったけど、今年の友季の周りは何か面白くなりそうな予感がするからな!」
一護が笑いながら僕の周りで起こりそうな事をネタにして、茶化す様に言ってくる。
「楽しい事で面白くなるなら良いけどね。」
僕は苦笑いを浮かべながら、一護の言葉に言及する。
そうして2人で話しているうちに家の前まで帰って来た。
「じゃな~友季。 また明日。 ついでに姉貴をよろしく~!」
「ははっ。 了解。 また明日。」
そうして互いに軽く手を振りながら挨拶を交わし、それぞれの家に帰って行ったのだった。