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ありがちな僕らの恋模様  作者: 四季弘泰
プロローグ
3/6

プロローグ(3)ちょっとしたハプニング

 教室で自身の席を確認し、荷物を置いた友季(ゆうき)一護(いちご)は始業式が開かれる体育館へと向かった。

 がやがやがや。

 先に来ていた生徒たちが、互いに挨拶や話をする声で体育館は賑わっている。

 「えっと・・俺らのクラスの席はっと・・おっあそこだな!」

 そんな中、クラスの書かれたプラカードが立て置かれているのを一護が見つけた。

 「行こうぜ。 友季。」

 「うん。」

 そして友季と一護はクラスに宛がわれている席に座った。

 

 「これより、今年度1学期の始業式を始めます。」

 進行役の生徒がそう言って式が始まる。

 式が淡々と進んでいく中、これまでも何度か同じ様な話を聞いてきた所為で流石に僕を含め、何人もの生徒達が少し退屈を感じ始めていた。

 「すぅすぅ・・。」

 一護なんてすでにもう寝ている。

 僕は退屈からくる眠気を紛らわそうと、少し視線を周りへと動かしてみる。

 すると同じクラスの席がある辺りの中に、とても綺麗な金色の髪をした女生徒の後ろ姿があった。

 「あの娘がクラス表で見た留学生なのかな。」

 僕はふとさっきの出来事を思い出し、小声で呟く。

 「・・・。」

 「これにて、今年度1学期の始業式を終わります。」

 「あっ、いつの間にか終わってた・・。」

 僕がそんな綺麗な後ろ姿に見とれていると、いつの間にか式が終わる頃になっていた。

 「それでは3年Aクラスから順次教室へ戻って下さい。」

 進行役の生徒に変わり、先生の1人が体育館の出入り口に近いクラスから教室へ戻るよう指示を出していく。

 「次、2年Dクラス。」

 カタンッ。

 クラスメイトであろう皆が一斉に立ち上がり、ぞろぞろと歩いて体育館を後にする。


 「いや~こういう式って何でこうも退屈なのかね~。」

 廊下を歩きながら一護が伸びをし、少し愚痴を零す。

 「はは。 しょうがないよ。 これが伝統ってものなんだと思うし、もしかしたら、きちんとやらないと先生達も教育委員会とかに怒られるのかもしれないね。」

 「先生たちも大変だな・・。」

 「かもね・・。」

 そんな話をしていた僕たち2人は、先生たちの大変さをしみじみと想像するのだった。


 友季と一護は教室に戻るため1階の廊下を歩いていると、手洗い場の近くに来た。

 「あ、僕ちょっと顔洗ってから教室戻るよ。」

 始業式で少し眠気を持っていた僕はきちんと目を覚ましてから教室に戻ろうと思い至り、一護にそう言った。

 「おう、友季。 じゃ、また教室でな~。」

 互いに軽く手を上げ、その場で分かれて別行動を取る。

 キュッ。

 ジャー。

 バシャッバシャッ。

 キュッ。

 「ふ~。 よし、サッパリした!」

 顔を洗い終えた僕は顔と手をハンカチで拭き、手洗い場を後にする。


 「あ、ちょっとっとっと・・。」

 2階の自分の教室へ戻るために階段へ差し掛かったところで、少し上の方から女の子の声が聞こえてきた。

 その声につられ上を向いてみると、手にプリントを持った女の子が階段でバランスを崩し、倒れそうになっているのが見えた。

 「あっ、危なっ!」

 僕がそう言いかけた時、

 ズルッ。

 「キャッ。」

 バランスを取ろうと必死になっていた女の子が、健闘虚しく後ろ向きに落ちてきた。

 「くっ!」

 僕は咄嗟に階段を数段上り、手を広げて落ちてくる女の子を待ち受ける。

 ガバッ。

 「よし!」

 「あ、あれ? うわっとっとっと。」

 女の子を上手く受け止められたかの様に見えた友季。

 ドンッ。

 ズサー。

 バサバサバサ。

 しかし、女の子を受け止めるのには成功したが、思いの他勢いが強く、女の子共々友季は後ろへ倒れてしまい、プリントがばら撒かれた。

 「あたたたた。 あ、大丈夫ですか?」

 僕は未だ倒れたまま腕の中に抱いている、割と小柄な女の子に声を掛け、安否を気遣った。

 「はい。 ありがとうございます。 おかげで無事でした。 あなたが掴んでいる私の胸以外は。」

 「えっ!?」

 そんな女の子の言葉から僕は少し顔を上げ自分の手の状況を確認した。

 「うわっ! ごめんなさい!」

 僕は咄嗟に慌てて手を放す。

 「ふふっ。 良いですよ訴えませんから。 私は助けてもらったんですしね。」

 そう笑顔で言いながら女の子が僕から離れて立ち上がる。

 「ありがとうございます先輩。」

 先に立ち上がっていた女の子がお礼を言いながら僕に手を差し伸べてきた。

 「どういたしまして、かな?」

 僕は女の子の手を取り、起き上がりつつそう返答する。

 「とりあえず君に怪我が無さそうで何よりだよ。」

 女の子から先輩と呼ばれ、改めて制服のリボンの色を確認した事で助けた相手が後輩だと分かり、敬語を崩して笑顔でそう言った。

 「あ、ちょっと待っててね。」

 友季は散らばっているプリントを拾い始める。

 「あ、先輩! そんなことまで・・悪いですよ。」

 「気にしないで。」

 「はい。 プリント。」

 「プリントは・・まぁ落としちゃってもなんとかなるけど、君が落ちて怪我しちゃったら大変だから階段上り下りする時には気を付けなくちゃダメだよ。」

 僕は拾ったプリントを渡しつつ、老婆心ながらつい注意してしまう。

 「・・・。」

 何を思っているのか、女の子が少しの間何かを探るように黙ってこちらを見ている。

 キーンコーンカーンコーン。

 「あっ、ホームルーム始まっちゃうし、2階までは一緒に行こうか。」

 始業の予鈴が鳴り、僕は女の子に急ごうと提案する。

 「はい先輩。」

 そうして2人は2階に向かった。


 「じゃあ気を付けてね。」

 2階に着いた僕はそう言って女の子と別れようとした。

 「あっ! 先輩。」

 女の子は咄嗟に友季を引き留めて何かを言いたそうにしている。

 「えっと、さっきはありがとうございました。 私は1-B、《秋月環奈(あきづきかんな)》と言います。 先輩のお名前は?」

 「2-D、《皆方友季(みなかたゆうき)》。 もし何か困った事でもあれば気軽に会いに来てくれてもいいからね。」

 僕は環奈の質問に笑顔で答える。

 「皆方・・先輩ですね。 ありがとうございます。」

 名前を知った環奈が呼び方を変えてお礼を言ってくれた。

 「いえいえ。」

 「それじゃあ僕は行くよ。 またね、秋月さん。」

 「はい。 またです皆方先輩。」

 互いに先ほど知ったばかりの名前を呼び、出会ったばかりの時とは違い少し打ち解けた感じの様な和んだ顔をしてその場から分かれ、それぞれに教室へ向かうのであった。

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