後始末
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ない」
加山は俺に近寄ってくる。
「もう大丈夫なのか?」
「まぁ、あのスキルを受けて無事とは思えませんが……」
それもそうだな。
あれを受けて死んでいないとは思えないしな。
今は煙が立ち込めていて魔王がどうなったか分からない。
突如、煙から魔王が飛び出したかと思うと氷のドームにできた亀裂から逃げようとした。
「お、前ら、必ず、グフッ、殺してやるからな!」
「クソッ、しぶとい奴め!」
魔王は全身傷だらけで口からも血を吐きながら必死に亀裂に向かおうとする。
亀裂を塞ごうと氷河を再び操作しようとすると右腕にさらに強烈な痛みが走る。
さらに霜焼けが酷くなり、さっきよりも腕に広がったように思える。
それに加え、MPも底をついているからこれ以上精霊魔法も発動できない。
「加山!頼む、もう俺は限界だ。アイツを何でも良い、スキルで止めを!」
「すみません。僕ももうスキルが使えません。あの技、一度使うともうその日はスキルが使えなくなるんです」
だから、俺との勝負の時負けを認めたのか。
クソッ、どっちにしても魔王をここで倒せないのか。
魔王はそのまま亀裂から出ていくと宙に浮かび、逃げて行った。
「逃げられたか……」
「そうですね……」
俺と加山は地面に腰を降ろすと魔王が逃げて行った方向を見つめた。
できればここで仕留めたかったが、仕方ない。
アイツとはまた会うかもしれないしな。
その時は必ず殺そう。
氷のドームが崩れ落ちていき、氷漬けになった魔物だけが周りに残った。
「優斗君!」
「シュウイチ!」
するとすぐにリアたちがやって来た。
「バルバラは?」
「倒しました」
「それは良かった」
加山とエミリアは二人で話し合う。
「優斗君、その怪我……」
「気にするな。ちょっとやんちゃし過ぎただけだ」
「私の前では強がらなくて良いからね」
「そうか……メチャクチャ痛い」
リアたちも無事で良かった。
それから魔王のこと、バルバラのことを報告して4人で城の中にいるリリの元へ向かった。
「優斗さん、無茶しすぎです!」
「これが俺のアイデンティティだからな」
「嫌なアイデンティティですね。もう少し、栗原さんも丁寧な戦いをした方が怪我をしないで良いですよ」
「それが出来たら、こんなことになってない。お前みたいにチート武器ねぇんだよ」
リリに治療してもらいながら、加山たちともこの後のことを話し合った。
しばらくするとベリルもやって来た。
「ご主人様、無事で何よりです」
「ベリルの方も片付いたのか?」
「はい、全て終わりました。ここへ来る途中もきちんと処理しておきました」
「本当にすまなかったな。魔物たちの相手、大変だっただろ?」
「はい。とても疲れました。なのでご主人様に甘えて良いですか?」
「良いぞ、来い!」
「はい!行きます!」
「今は治療中です!」
リリの言葉でベリルとのふれ合いもお預けになってしまった。
治療が一通り終わりそうになったところで、ユキたちもやって来た。
「ますたー」
「ユキ、頑張ったか?」
「うん」
「ありがとうな。後でたくさん作ってやる」
「ほんとー!」
「本当だ。金もたんまりこいつらから貰うしな」
加山を指差しながら抱きついてきたユキを受け止める。
「現金な人ですね」
「魔王だけじゃなく、お前の更正までさせられたんだ。きっちり払うものは払え」
「分かりましたよ」
「ユキちゃん、抜け駆けです。私が先にご主人様に抱きつこうとしたのに……」
大丈夫だ。
屋敷に帰ったら俺が抱きつくから問題ない。
「さて、さっさと最後の仕上げといくか!」
俺は立ち上がると王国の王城へと進軍した。
「なぜじゃ!なぜじゃ、シュウイチ!なぜ私達を裏切るのじゃ!」
「すみません。リュインさん。この国の在り方は間違っています。僕はそれを正さないといけない」
「そんな!なぜー」
「なぜなぜ、うるせぇんだよ!」
俺はリュインを含めて縛りあげた貴族や王族共に雷の精霊魔法を叩き込んで黙らせる。
「栗原さん、もう少し穏便に……」
「別に殺すつもりはないってさっきから言っているのにいつまでもギャーギャー騒ぐから静かにさせたまでだ」
俺たちは現在、王城を占拠した。
つまり、国を落とした。
とまあ、簡単に言ったが国を落とすなんて普通はできない。
なんやかんや弱体化してもこの国は元々大きいから騎士たちなど十分強い。
俺たちだけでは落とせないだろう。
そこで使ったのが奴隷たちだ。
正確には元奴隷たちだが。
外をテラスから見ると革命の旗印としてシルヴィアに発注しておいた剣が描かれた旗がそこかしこに飾られ、振られている。
俺はふと魔王討伐の話し合いを思い出した。
「魔王の奴隷を解放するのはあくまで本当の狙いの副作用で必要なだけだ」
「どういうことですか?」
「それはな、その奴隷たちを含めてこの国の奴隷制を叩き壊すのが真の目的だ。魔王討伐なんてそのための踏台程度だ」
「しかし、奴隷を解放していったいどうやって奴隷制を壊すのですか?」
「奴隷制はこの国の根幹なんだろ。だったら、国を潰せば奴隷制なんてなくなるだろ」
「しかし、良いんでしょうか。確かに僕たちが国を落として新しい国で奴隷制を否定すれば奴隷はいなくなると思います。けど、リュインさんたちを含めて貴族や王族の方々はどうなるんでしょうか?」
「日本でも明治維新の時は将軍家や貴族共は議員にさせたりしただろ。そんな風に最低限の財産と地位を与えて後は全部奪い取る。もし、それで反発するようなら殺す。それだけだ」
「いきなりそんな環境に置かれて大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃないだろう。確実に反発するに決まっている」
「それではー」
「加山、奴隷たちはそれ以上苦しんできたんだ。本来なら甘い汁を吸ってきたアイツらは殺されるはずなんだ。それをここまで譲歩して反発するなら解放した奴隷たちの中に突き出してやるだけだ。そうなればどうなるかくらいお前も想像できるだろ」
確実にリンチにあって死ぬだろう。
怨み憾みがとんでもなく大きいに違いない。
「助けるためには何かを犠牲にする必要が必ずある。全部を救えるなんてのはそれこそ神様にしかできない。俺たちは人だ。だから、できる限り多くの人が幸せになれる方法で助けるしかない」
「なるほど、そういうことですか」
それから俺たちは国を落とすため、奪還した都市の奴隷たちを聖海で解放し、次々と反王国として剣の勇者を中心に勢力を大きくして王国を落とした。
用意した旗はもし加山が乗り気でないなら俺が加山の振りをして攻め立てる予定だったが加山が乗り気になってくれてので我らに義は有りという形でどんどん勢力は大きくなった。
元々、王国が奴隷人口が大半を占めているのも大きいこともあり、王国の騎士たちも勇者相手に戦う気はないのかすぐに軍門に下った。
「凄いね。外が凄い盛り上がりだよ」
「まぁな。片っ端から聖海で解放したからな」
リアの言葉に頷いて俺も外を見る。
勇者コールが凄いな。
時々、神様ー!と声をあげることもあるが、とうとう加山は勇者から神にジョブチェンジしたようだな。
「良かったな加山。神にジョブチェンジだぞ」
「何言っているんですか。あれは栗原さんのことを言っているんですよ」
「はあ?何言ってんだ」
「優斗君、確かにあれは優斗君のことを言っているんだよ」
加山だけでなく、リアまでそう言う。
「奴隷たちを次々と謎の魔法で解放していくその姿は奴隷の救世主そのもの。いや、勇者様の願いによって現れたあの方はきっと神に違いない。そう、あの方は奴隷の神だ。という流れで栗原さんが神にジョブチェンジしたんですよ」
「ふざけんな!」
なんだよあれ!
それだとあれか、俺は奴隷たちを解放して高みの見物をしちゃってニヤついている痛い子みたいじゃねぇか!
クソッ、こんな場所にいつまでもいられるか!
「加山、この国民主制の国にすることは決めているが選挙をするまでのゴタゴタは全部お前がどうにかしろよ」
「えっ!僕がやるんですか?」
「当たり前だ。治安、経済、憲法、それに特権階級だった奴らの抑え、他にも色々やることはある。俺の愛人にそういうのが詳しい奴をここに派遣することが決まっていて明日にはここに着くからそいつらの言うことを聞けよ。だからってそいつらの言うことを全部信じたら寝首をかかれるから気を付けろよ」
シルヴィアにはその辺のことも頼んである。
その事務処理は全てフェルミナがしてくれているから本当に助かる。
まぁ、フェルミナは過労で倒れそうな気がするけど。
後で二人に何か送らないとな。
「く、栗原さんがするんじゃないんですか!?」
「何言ってんだ。俺は魔王退治を手伝うとは言ったが、国の管理をするとは一言も言っていない。あ、忘れてた。お前、少しの間この国管理するんだから、きちんと金寄越せよ」
「待ってください!栗原さんだってこの件には関わっているんですから少しは手伝って下さい!」
「仕方ねぇな。俺は解放した奴隷たちで読み書きができないガキ共の面倒を見る。読み書きができるようになれば少しは働きやすくなるだろ?」
「確かにそうですね。それも重要ですね」
加山は納得して頷いている。
国の管理なんかよりガキの面倒の方が楽で良い。
実際、フェルミナやリリが中心になって最初に連れてきた奴隷だった少女たちに読み書きを教えてくれたしな。
時々はシルヴィアが手伝うこともあったし。
リアはダメだ、あの子見かけによらずアホの子だった。
「良し!そう言うわけで仕事の割振りもできたな!帰るぞ!候補のガキ共は後で送れよ」
「あ、ちょっとー」
加山にこれ以上何か言われる前に転移石を取り出すとリアたちを連れて屋敷へと帰宅した。
本当に長かった。
後日、100人程のガキ共が俺の屋敷へと送られた時は怒りが沸いた。
あの野郎、国の管理を手伝わない代わりにとんでもない数のガキ共を寄越しやがって。
しかも、手紙には今後も送るので面倒ヨロシク!とか書いて嫌がらせをしやがって。
こうして俺の初の魔王との戦いと勇者の介護が終わった。




