魔王討伐③
「久しぶりですね」
「ええ、そうね」
私たちは特に何ごともなくバルバラさんに再会した。
てっきりいつ改造魔物たちの襲撃が来るか待っていた。
「バルバラさん…」
「ナタリアさんもお久しぶりですね」
私は思わずその名を呼んでしまった。
「とりあえず聞いておきましょう。どうして私達を、いえシュウイチを裏切ったのですか?」
「私はもともと魔王様に仕える者です。それに…」
バルバラさんは一回鼻で笑った後そう言うと
「それにあの方はこの世を統べるお方です。あれほど強く素晴らしい方はそうそういません」
「だからってあんなにひどいことをして良いと思っているの?」
私は思わず口をはさみ、バルバラさんの後ろにいる融合させられている魔物たちを指差した。
魔物たちは赤く腫れあがり、見ていてとても痛々しい。
他にも中途半端に融合しているような魔物もいて体から手が飛び出していたり、獣人族に特徴的な尻尾が背中から生えていたり。
「この世の物はすべてあの方の物です。あの方がしたいと思うなら思う通りになるべきなのです。それにこの魔物たちはすべてあの方の力の象徴です」
「魔物たちもその魔物たちに融合させられた人達があなたたちに対してどれだけ悔しい思いをしたか想像できる?」
きっと悔しかったに違いない。
融合という訳の分からない力に体を無理矢理組み合わせられ、おぞましい姿に変えられてしまったことに何も思わないはずがない。
魔物たちも融合させられた獣人族の人達もどちらもかわいそう過ぎる。
「彼らは魔王様の糧になれたことをきっと喜んでいるでしょう」
「ナタリア、もういい加減いいんじゃない?私、もう今すぐあの女の首を刎ねたいんだ」
「分かったよ、エミリア。バルバラさんも魔王もどっちも倒さないといけないことが嫌ってくらいよく分かったよ」
優斗君が良く感じている怒りが私の中にもふつふつとわきあがってくる。
魔王だけは絶対許しちゃいけないと思えてくる。
「おや、ナタリアさんはともかくエミリア、あなたは攻撃魔法が使えないんじゃないですか?それに前線に出て大丈夫なのですか?」
バルバラさんは心底可笑しそうに笑いながらそう言う。
「だいたい、あなた方二人だけで私達を止められると思うのですか?」
私達はバルバラさんを討つため二人だけでここに来ていた。
国に残った兵力は全部ユキちゃん達、都市奪還班と優斗君たち魔王討伐班に任せてある。
「あなたは勘違いをしている。私達二人で止められるかだって?あなた程度は私達二人でも十分すぎるくらいよ」
「確かにそうだね」
バルバラさんは少し私達をなめ過ぎていると思う。
「そうですか。なら、ぜひ見せていただきたい!」
バルバラさんのその言葉を合図に魔物たちが一斉に私達に突撃をしてきた。
軽く見たところ50匹くらいだと思う。
「『私、精霊魔術師が裁定者である彼の者の代わりに準精霊たちに願う。エレメント・ブラストダガー』」
バルバラさんに向かって細い火の剣が大量に飛んでいく。
「『トリー・アクアシールド』」
バルバラさんはその攻撃を水の壁で防ぐと壁に大量の剣が突き刺さり、蒸気が起こって辺りが見えなくなる。
「『チェティーリ・ファスト』『チェティーリ・ライトニング』『アヂン・アクアテール』『チェティーリ・ブラストタイフーン』」
「「「グギャアア」」」
「なんだ!何が起こった!」
バルバラさんの叫び声と共に水蒸気が晴れていくと炎の竜巻が魔物たちを飲みこんでいく。
それと同時に私は俊敏性増大の魔法を唱えて自身にかけてエミリアに近づいてきた魔物たちを刀で切り裂いた。
「なぜ、そんなに簡単に切れる!この魔物たちの強度は通常種の数倍はあるんだぞ!」
「やっぱりそうなんだ。ちょっと硬いなぁ~とは思っていたけどやっぱり硬いんだ」
私は刀を振って刃に付いた魔物の血を払う。
「私は『魔術騎士』だからね。少し硬いくらいの魔物だったら魔法を刀に重ねがけすれば多少硬くても切れるよ」
「『魔術騎士』だと!?お前は自分を宮廷魔術師って言っていただろ!」
魔術騎士は剣に魔法を付与して戦うことができる唯一のジョブであり、なかなか出てくることは無いユニークジョブの一つである。
本来、ジョブ選択時に魔法と剣の才能のどちらに秀でているかでクラスアップチェンジの時に候補が出てくる。
ただ、稀にどちらも同じ程度の才能の指数であった場合に魔術騎士が出てくる。
基本的には聖騎士よりも剣のスキルは少なく、宮廷魔術師よりも使える魔法の幅は狭くなってしまうが両方の能力を持つ上ではなかなか良いものだと思う。
まぁ、悪く言ってしまえば中途半端なジョブである。
「私達のパーティーは全体的に魔法寄りで結構バランスが悪いんだよね。だから、私だけでもせめて剣のスキルを持っていた方が必ず役に立つことがあると思ってね」
魔法だけのパーティーだと回復魔法や魔力回復のポーションが無くなった時に危険に陥る。
そのため、パーティー内に騎士や剣士のジョブの人がいることが必須だ。
「でも、優斗君は私が騎士として前線に立つと必ず良い顔はしないって分かっているから。結局、私が『宮廷魔術師』じゃなくて『魔術騎士』になったことは言えてないんだ。だから嘘をついて周りには宮廷魔術師だって言っていたんだ」
優斗君はいつも私達が危険にならないように前に出ている。
たぶんそれは私達にケガをしてほしくないことの表れだとは思うけど、私はいつももう少し自分を大切にしてほしいと思ってしまう。
裁定者ではどうしても俊敏性などの点では騎士に劣ってしまう。
そんな状態で今後もし俊敏性に優れた敵に遭遇したらきっと大けがをしてしまう。
だから、私は内緒でジョブ変更の時に魔術騎士に選択した。
そして武器屋のオヤジさんには事情を話してできる限り最高の剣を用意してもらい、こっそりギルドカードの中に入れていた。
「さぁ、次はあなたの番よ、バルバラ。シュウイチにした狼藉に報いてもらうよ」
「これは少々油断しました。まさか魔術騎士であっただけでなく、準精霊たちまで引き連れてくるとは思いませんでした。では、私も本気を出しましょう」
そうするとバルバラさんは姿が変わる。
エルフ特有の長い耳が消え、肌が褐色色になる。
「やっぱり変化系の魔法を使っていたんだね」
「ええ。さすがに魔族特有の肌では迂闊に近づけないのでね。化けていました。しかし、これで変化に使っていた魔力が浮いたので全力を出せます」
バルバラさんからとてつもない魔力を感じる。
けど、ベリルさんやユキちゃんから感じる力と比べれば天と地ほどの差がある。
これなら戦えると思うけど、周りの魔獣達もブラストタイフーンで減らしたとはいえ、まだ数十匹残っている。
「ナタリア、魔族の魔法は私達人族の魔法と違って詠唱なしで体に纏って戦うのが基本だから気をつけて」
「分かってる」
「いくよ!」
「うん!」
エミリアの声に合わせて私も魔法を構築する。
優斗君、こちらは多分大丈夫そう。
魔王との戦い、無理をしないでと思うけど優斗君ならきっとできるよ。
優斗君は嫌がるかもしれないけど、あなたは私の勇者だから。




