魔王討伐②
俺はリリと共に魔王城に突入すると
「あ、あなた方は?」
驚いた様子で俺たちを見る獣人族の男たちや女たちがいた。
俺は祝詞を頭の中で構成すると唱える。
「『我、海の精霊と契約する裁定者が願う。我が救いしあらゆるものの束縛を解き放ち、我を導き給え。我が成すその力を示せ』『聖海』」
俺の足元から現れた水が多くの獣人族たちを取り囲む。
そして何かが壊れるような音が鳴る。
「こ、これは!?」
「そこのお前、他に魔王の奴隷はいるか?」
「あ、あなた方は?」
「俺は剣の勇者の仲間だ。お前たちを魔王から解放しにここへ来た」
「な、なんと!」
獣人族たちは喜び合うが、その直後俺の後ろに魔物たちが地響きを立てて現れる。
「ト、トラップが…」
「トラップ?」
「はい。侵入者が来ることを関知すると魔王様の魔法で召喚されるのです」
近くにいた獣人族の男に聞くとそんなことが返ってくる。
逃げ出そうと大慌てで逃げ出そうとするので俺の元へ来るように指示を出す。
やっぱり加山の仲間と名乗っておいて正解だな。
勇者の仲間と言えばこんなにも簡単に信用してくれるとは。
出てきた魔物たちは不十分に獣人族と融合しているようで形が不気味だ。
「なんて酷い……」
リリは思わず目を背けてしまう。
あれは確かに酷い。
いくら聖海であってもあれの束縛は流石に解き放てない。
融合させられている魔物も獣人族も明らかに苦しんでいるようにしか見えない。
「ごめんな……」
静かにそう言った。
せめても情けとして痛みを感じることなく済ませよう。
魔物もいくら倒すとはいえ、こんな形で戦いたくはなかった。
リリに虐待を受けている者たちの治療を任せ、俺は魔物と向き合う。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」
魔物たちを雷光によって生じた白い雷が覆う。
一瞬、魔物たちも融合させられている獣人族の者たちが嬉しそうな表情が見えた。
そのまま雷光によって感電死した魔物たちが辺りに並ぶ。
俺の戦いを見た獣人族たちは喜び合い抱き合う。
「優斗さん、最期あの魔物たち、喜んでいました」
「…そうだな」
殺されて喜ぶとか……そんなの見せんなよ。
達成感なんてものは全くなかった。
あったのはただどうしようもない無力感だった。
「必ず魔王を倒しましょう。あの魔物たちと獣人族のために」
「ああ」
そうだな、あの魔王は許せない、いや、許しちゃいけないことをしやがった。
魔王と同じ日本から来た俺たちだからこそアイツの犯した罪は俺たちが止めないといけない。
魔王、貴様は必ず殺してやるよ。
その後、地下室に捕らえられている獣人族の子供や大人の男女たち、それに魔物たちを聖海で解き放つ。
リリには彼らの治療を頼む。
「魔物たちの治療もするのですか?倒さないのでは?」
「倒さない。魔物とはあくまで正々堂々と自然の中で戦いたい。それに俺が今戦うのはコイツらじゃない、魔王だ。たいたい、コイツらも魔王の被害者だ」
「分かりました。優斗さんがそう言うのなら魔物たちも治療します」
魔物たちにも回復魔法をかけ始める。
「お前ら、少なくとも今は邪魔するなよ。俺たちはこれから魔王殺すんだから、お前らの相手して消耗したくないしな」
俺が魔物たちにそう言うとキュイ、ギョエなどと声をあげて応える。
そして、リリの周りに集まってリリを舌で舐めたりして甘える。
「なんかなつかれてしまいました」
「ちょうど良い。お前たちはリリを守れ。リリが攻撃されたら回復魔法が使えなくなってこちらが不利になるからな」
俺が魔物たちに命じるとなんとなく理解したのかリリを守り始める。
さて、俺の読み通りならたぶん魔王はここに来る。
「動ける奴らはここからすぐ逃げろ。ここはもうじき激戦になる。ケガをして動けない奴はここでリリに回復させてもらえ。俺の防御の魔法でできる限り守る」
「わ、分かりました」
そのまま健康な獣人族たちは逃げていき、後に残った虐待されていた者たちが残る。
ほとんどは少年少女たちなど子供が多かった。
「『我、海の精霊と契約する裁定者が願う。我が守りしあらゆるものへの攻撃を防ぎ、我を導き給え。我が成すその力を示せ』『氷壁』」
氷の壁でリリたちを囲う。
後は魔王を待つだけだ。
ふとリアのことが頭に過る。
ユキやベリルも心配だが、あの二人の強さは俺がよく知っているからそんなに気にしてはいない。
でも、リアは魔王直々の部下が相手だ。
どうか無理だけはしないでくれ。
「シュウイチ、上手くいったかな?」
「大丈夫!きっと上手くいくよ、優斗君がいるんだし!」
「そうだね、シュウイチがいるしね」
「「…………」」
若干、私達の間で意見の相違はあるけどたぶん問題ない。
因みに私の心はあくまで優斗君への信頼なので、エミリアがどう言おうとそこは変わらないことは伝えておく。
「そろそろ来るね」
「怖い?」
「それは怖いよ。だってバルバラさん、魔王の手下だったんでしょ。そんな人を相手にするって思ったら怖いよ」
「ナタリア、あの女のことはさん付けしなくて良いよ。シュウイチの信頼も私達の信頼も裏切ったあの女を私は絶対に許さない!」
エミリアはいつもみたいな笑顔ではなく、怒りながら言う。
こんなエミリアの表情は初めて見た。
でも、もし私が同じ立場だったらきっとエミリアと同じようになっていたと思う。
リリやユキちゃん、ベリルさん、ルルちゃんは優斗君を裏切ることはないと思う。
特にベリルさんの最近の優斗君への執着は凄いと思う。
ベリルさんは思考が常に優斗君を中心になっているから正直いつ私達に牙を向くか内心私は恐れている。
でも、ベリルさんはそんな私の心さえ見透かしているように思える。
「でもね……、正直私も怖いんだ。バルバラは元々魔法も得意だけど剣技が魔法よりもずっと得意なんだ。それでいて、弱点らしいものはなかったから。だから、余計に怖いんだ」
「それはそうだよ」
頼もしい仲間だったのが、いきなり強大な敵になったんだ。
それにこちらは弱点を知られているのに、向こうの強さは何倍も知っている上敵の弱点も知らない。
正直、勝てるかも分からない。
「けど二人が信頼して私達に託してくれたんだよ。それに今のエミリアは回復魔法だけじゃなくて準精霊たちも付いているんだよ」
私がそう言うと準精霊たちはエミリアの周りをぐるぐると回る。
「そう、だね。私、頑張る!」
「うん、私も頑張るよ!」
そうして私はギルドカードから刀を取り出して脇にさす。
優斗君にいつ言おうか悩んでいたけど、この戦いが終わったらきちんと伝えよう。
私は確かに『宮廷魔術師』のジョブに変更する選択肢もあったけど、私が選んだのは
『魔術騎士』になったことを伝えないと。




