加山修一
戦闘はもう少し続きます。
すみません。
「エミリア、レレイ、ジュリエッタ!早く逃げて下さい!」
「そうだ!早くどけ。巻き込まれたくないのならな」
加山も俺もエミリアたちに言う。
「お願いします。少し待って下さい」
「優斗君、お願い。少しだけ待って」
エミリアとリアに頼まれる。
「正直、もうほとんど時間がない。早くしてくれ」
「分かりました」
マジでまずい。
雷激は雷光、雷鳴みたいにあまり制御が効かない。
一度出してしまうと消されるか対象物を消し去るまで存在する。
俺は腕の痛みに耐えながらどうにか制御する。
「早く、エミリア」
「うん」
リアに促されエミリアたちは加山と向き合う。
「優斗さん、大丈夫ですか?」
「リアたちも早く離れろ。巻き込まれてしまう」
リリが治療に入ろうとするのを止める。
「でもー」
「頼む。マジで余裕ないんだ」
リリを説得して離れてもらう。
「ご主人様、申し訳ありません。どうしても伝えたいことがあるからと行かせてしまいました」
「それは別に構わないが、ベリルも早く離れろ」
「はい」
早く話を終わらせてくれよ。
いや、違うな。
後はエミリア、お前たちに任せる。
これであいつが変わらないようならすまないが一緒に逝ってくれ。
僕の両親は医者だった。
僕、加山修一は両親が医者の家庭に跡取り息子として生まれた。
ひとりっ子だったために必然的に僕の将来は両親に決められていた。
毎日毎日、勉強勉強勉強。
嫌になるくらい勉強させられていた。
確かに医者であったために裕福な家庭ではあったと思う。
けど、僕にはいつも自由な時間は無かった。
言われるままに勉強させられ、ゲームなどの遊びすら満足にさせてもらえなかった。
それでいて、試験で一点でも下がると叱られていた。
そして毎日のようにお前は医者になれ、医者になれと言われた。
それのためか、僕は医者になりたいとは思わなかった。
本当は誰かを格好良く救う、僕はそんな仕事にあこがれていた。
でもそれは医者以外がいい。
そうだな、もしできることなら物語の勇者にでもなりたかったと思っていた。
そうして、僕は今日も塾から家へ帰るためJRのホームで電車を待っていた。
「また明日も塾、そして終わったら家庭教師。もうあの家に帰りたくないな」
一体いつまでこの生活が続くんだろう。
きっと医学部に受かるまで続くんだろうけど、医学部に進んでもきっと入りたい科にもに入れず強制的にう内科と外科に進まされるんだろう。
僕は一体いつまであの人たちの言うことを聞いていればいいんだろう。
「自由になりたい。医者なんかよりももっと自分にふさわしい職に就きたい」
不可能だけど、せめて妄想の中では勇者にでも成りたいな。
そうやってまたいつもの通り独り言を言う。
アナウンスが鳴り、通過列車が来るという。
「そんなに勇者に憧れているなら成らせてあげるよ」
小さな声だけどはっきりとそう言われたと思った瞬間僕は線路に突き飛ばされていた。
顔を確認することは出来なかったけど視界の端に白い腕が見えた。
その直後、僕の体全身に強烈な痛みが走る。
ああ、死んだ。
僕は確実にそう思った。
そして目を焼くような強い光がさして僕は目をあけると見たこともないような場所に立っていた。
頭の中で直感的に分かった。
僕は異世界転生したんだと。
そしてあの時の最後に言われた勇者に成らせてあげる、それは僕が勇者になることができるという意味なんだと思った。
勇者候補同士の会話の時に死んだ理由を尋ねられた時はホームに突き飛ばされて死んだ、しかも不気味な白い腕の奴にやられたなんてみっともなくて言えなかったのでせめて格好良い死に方をしたと伝えた。
一人の人は僕と同じように白い腕に海に引きずり込まれて死んだって言っていたけど案の定他の人は信じなかったし、恥ずかしい死に方をしたとバカにされていた。
本当のことを言わなくて良かったと思った。
その後、僕は勇者に成れた。
この世界では勇者は多少やらなければいけないことがあるけれど、ほとんど自由に行動ができた。
前の世界では望んでも手に入れることができなかった自由を僕は異世界で手に入れたんだ!
もちろん、前の世界のことが気にならないと言えば嘘になるけど、少なくともあんな生活よりはずっとマシだった。
そして僕は活躍した。
活躍すればするほど皆から賞賛を浴び、もてはやされる。
僕は前の世界で僕が味わった弱い立場の人を中心的に助けた。
僕のように誰かに指図されて生きる人生ほどつらく苦しいものはないから。
そうして活動しているうちにかわいい彼女兼仲間たちもできた。
勇者であることがここまで良いものだとは本当に思わなかった。
あの時召喚された中で勇者に成れなかった唯一の栗原さんは話が時々聞こえる程度ではみじめそのものだった。
僕のように前の世界で何も苦しむことなく、当たり前のように生きていた罰だと僕は心の中で思っていた。
だからこそ、あの時再会した瞬間油断したとはいえ、捕まったことは屈辱そのものだった。
あんな人に負けるなんて僕のプライドが許せなかった。
他にも栗原さんは奴隷の話を聞いた上で僕の対応を非難して説教をしたり、奴隷制をやめさせるなんて出来もしないことを豪語したりと心底呆れると同時に憧れた。
僕だって自分の境遇と少し重ねる部分があるから助けようとしたが、それ以上にこの国の奴隷制は根が深かった。
けど、それを分かった上で全力をかける姿に僕は憧れてしまった。
その位置は本来僕がいる場所なのに勇者以上に目立って!
だからこそ、余計に腹が立ち、何としても魔王を倒して僕の方が優位になってやるという対抗心が生まれた。
その後魔王と戦い、その時に仲間に間者がいることが分かり、僕は電車に突き飛ばされて以来久しぶりに痛みを感じた。
そして、目の前で初めて人が死ぬ瞬間を知った。
顔に血がべっとりと付き、辺りが血の海に染まっていくことで初めて僕は戦いというのが何なのか分かった。
魔獣なんて強いけれど倒せない敵ではなかったけれど、魔王は違う。
僕と同じチート使いで下手をすれば僕が殺される。
それを知った瞬間、急に立ち向かえなくなってしまった。
『怖い』それが僕の頭の中に占めていた。
そうして僕は逃げ出した。
僕のために命を捨てた騎士の人たちから言われたことは十分に理解している。
けど、体が動かなかった。
あの後、栗原さんに言われていることも十分理解している。
僕が弱くなっていたことを、僕自身が一番理解している。
「『雷激』」
僕の持つ一番の固有スキルすら栗原さんに防がれ、そのうえでそれ以上の魔法を使ってきた。
あれをくらえば僕は確実に死ぬ。
栗原さんはどうせブロウさんの時みたいに勇者に手を出して後でどうなるとか一切考えていないだろう。
ブロウさんが優しかったからこそ不問であったけど。
嫌だ、死にたくない。
でも栗原さんの言っていることは十分、分かっている。
僕が始めた魔王討伐だ。
僕が先に降りることはできないし、このまま魔王が僕のことを見過ごすとは到底思えない。
なら、戦うしかない。
けど、戦えない。
怖い、怖いんだ。
あの時の血の感触が思い出される。
もう駄目だ、そんな風に思った時エミリアたちが僕の前に立っていた。
今回も読んでくれてありがとうございます。
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