かっこいい姿
「私たちはそれから国に戻ることができました。しかし、シュウイチは魔王討伐は成功したと報告するように命じた後部屋から出なくなってしまいました。それとは別にその後も魔王は進行し続け、今では王国の3分の2は奪われてしまいました」
エミリアはそう言うと俺達に再び頭を下げて懇願する。
「何か気の障ることを言ったために怒ってしまったことは知っています。ですが、どうか助けてください。このままでは魔王にすべて奪われてしまいます」
「2つ聞きたいことがある。聞いていいか?」
「なんですか?」
「どうして俺達のところに来た?他の勇者のところに行って力を借りればいいだろ?」
「行きました。けど、門前払いされてしまいました」
「どうして?」
「勇者は国の最大兵器だ。そんな兵器を一介の冒険者に会わせる訳にはいかないって」
言われてみれば当然の反応だな。
勇者をお抱えの国がそうそう勇者を手放したくはないだろう。
下手に外に出してそのままいなくなってしまったら損害しかない。
「だからナタリアからここに住んでいると聞いたので最後の望みだと思ってきたんです」
「分かった。それともう一つ。加山は部屋から出られなくなったと言ったが、それはどういう感じだ?」
「震えて動けなくなってしまいました。あんなに怯えているのは初めて見ました」
「そう、か」
今の加山が感じているのはかつて俺がクソ王子に抱いたものと同じだろう。
『死』それを間近で感じたからこそ動けなくなってしまう。
特に加山は自分の目の前で返り血を浴びて余計にそれに対する恐怖が強いんだろう。
誰だって死にたくない。
勇者とか言われるが結局アイツも俺も一つの命しかない。
死んだら終わり。
二度目はない。
「優斗君」
「大丈夫、大丈夫だ」
「ますたーはわたしがまもるからだいじょうぶだよ」
リアは俺を心配して手を握ってくれる。
ユキも心配して俺の膝の上で体の向きを変え、俺に抱きつく。
「魔王は今どうしている?」
「現状は支配地域を拡大していますが、今はゲリラ部隊の掃討に手を焼かれているそうです。ですが、いずれは一般市民や奴隷たちにも影響が出ると思います」
やるなら今しかないということか。
あの国の貴族共は正直どうなったって構わない。
むしろ死ね!
けど、その被害がすべてにまで及ぶというのは正直見過ごせない。
俺が匿っている子たちの家族もあの国にはいるということだった。
そして、この子たちはいずれ自分たちが家族を面倒見れるだけの余裕を持ちたいという夢まで聞かせてもらった。
「個人的には助けてやりたい。だが―」
本当に良いのか?
ここで首を突っ込めば今までみたいに無事に済むとは限らない。
特に今回は魔王だ。
魔獣みたいに倒せるとは限らない。
しかも勇者ですら逃げ出すような相手に勝負を挑むんだぞ。
勝てる保証なんてどこにもない。
万が一負けて俺が死ぬだけなら問題ない。
元よりあの子を見捨てた時からあってないような命だ。
けど、もしリアたちが生きて捕らえられたりしたらきっと死ぬよりもつらい思いをするだろう。
今回の魔王は女好きの下半身野郎みたいだしな。
それだけは絶対に防ぎたい。
それに大体、獣人族の奴らは俺に対してだってまともな対応だって取らなかった。
なら、リアたちのことを考えるならここでエミリアや獣人族のことを見捨てるのだって―
「クソッ」
これじゃあ、あの時となんにも変わってないだろ。
もう逃げない、見捨てないって誓ったのに。
「優斗君」
「なんだ?」
「私たちのこととかそういうのは考えないで」
「何言っている?今回は負ければただでは―」
「優斗君、私たちのことを考えて悩むのは優斗君らしくないよ?」
「そんなことは」
俺はいつだってリアたちのことを、いやむしろリアたちのことしか考えていない。
「優斗君、いつもとんでもない事するでしょ。私たちが止めたっていつも聞かずに行っちゃうんだから」
「確かにそうですね」
「そこがご主人様の魅力ですよ」
そうだったか?
「竜人族を助けるためだからって一つの国相手に普通は戦わないよ」
あれはたしかにちょっと自分でもどうかしていたと思うけど。
普通の思考回路していたらまずしないと思う。
でも、あの時はどうしても助けたいという思いが先行していた。
地下室の時みたいに見捨てたくないって思ってしまった。
「負けるたら大変って言ったけど、竜人族の時だって負けていたらきっと大変なことになっていたと思うよ。だったら、今だって同じだよ。優斗君が助けたいって思ってる。優斗君の力を必要としている人がいる。それだけあれば、理由としては十分だと思うけど」
「今回は止めないのか?」
「だって、止めたいとは思っているけどそれと同時に私は一生懸命戦っているあの時の優斗君を見たいんだ。あの時の優斗君の姿が一番かっこよくて好きなんだもん」
全くリアにはかなわないな。
こんな可愛い子にこんなこと言われたら頑張るしかないだろ。
「私もそう思います」
「ユキもますたーのかっこいいすがたすきー!」
「ご主人様はいつもかっこいいですよ」
「わ、私も好きです」
リリ達も自己主張してきて可愛いなぁ、もう。
「当然僕たちもそのかっこいい姿今回は拝めるんだろう?」
シルヴィアの言葉にフェルミナも大きくうなずく。
「ふ、ふふふふふ」
「ど、どうしたの優斗君?」
「これだけ言われちゃ見せない訳にはいかないだろ?魔王?良いだろう相手にとって不足はない!エミリア!」
「は、はい」
エミリアは姿勢を正す。
「良いだろう。助けてやる。魔王に死ぬよりもつらい生き地獄を味あわせてやる」
「ますたー、やるの?」
「ああ、殺るぞ」
ユキのキラキラした視線に答えてやる。
「まずい、スイッチが入っちゃった」
「なに、今さら言っているのお姉ちゃん。お姉ちゃんが煽ったんだから最後まで責任を取ってよね」
「そんなぁ~」
リアは頭を抱えているが放っておく。
リアたちにお前たちの惚れた男の雄姿を見せてやる。
惚れ直せよ。
「魔王討伐のついでに腰の抜けたバカ勇者を叩き直してやる」
力のなかったあの時の俺だって立ち直ったんだ。
本当は散々ふざけたことを言ったから殺してやりたいが、それはやめてやる。
力のあるお前は俺なんかより優遇されているんだ。
そのお前がいつまでも引き籠っていられると思うなよ。
何が何でも立ち直ってもらう。
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