裏切り
「何言っている?魔王は倒したって報告が来ているんだぞ」
「その報告は虚偽です」
虚偽だと?
「なんで嘘の報告を、それも世界に対して言った?」
「勇者が負けたとなればその権威が失墜すると思ったからだと思います」
「思いますっていうことはそれを主体的に行ったのは加山じゃないだろうな?」
「そうです、シュウイチが虚偽の報告をしました」
呆れて何も言えん。
怒りが湧くかと思ったが怒りを通り越して憤りや情けなさしか残らない。
「加山はクズだな」
「そんなことは!」
エミリアは立ち上がって俺に何かを言おうとしたが何も言えずに再び座り直す。
それでいい。
もし、これで俺に対してキレたのならこのまま追い出していたところだ。
「言い訳をさせてください」
「なんだ?余程筋の通った言い訳だろうな?」
「…はい」
「もうすぐですよ、皆、気を引き締めて油断しないでよ」
シュウイチを大将とする総勢1万の騎士たちで魔王が住む城へと向かう。
これから魔王と勇者の戦いが行われるという空気のためか騎士たちの士気も高い気がする。
「シュウイチ、くれぐれも―」
「分かっているよ。油断はしないで気を付けて戦うから大丈夫だよ!」
「ならいいんだけど…」
「エミリア、別に心配しなくてもいいよ。僕は勇者だよ。僕の力は君が一番よく知っているだろ?」
「けど、やっぱりナタリアたちにもう一度頼んで…」
シュウイチはその言葉を聞いた途端忌々しそうに顔をゆがめた。
「大丈夫だよ!それにあんな人の助けを借りるなんて死んでもごめんだ!」
シュウイチは左腕をさする。
栗原さんの攻撃をスキルを使って吹き飛ばしたけれど左腕に強烈な電流が流れて焼かれてしまった。
「勇者の加護で魔法攻撃無効のスキルを突破して僕の腕を焼くなんて、いったいどんなチートを使った!」
シュウイチは怒りで少し我を忘れてしまっていた。
戦闘前にイライラしているといくらシュウイチでもミスをすると思ったので私はシュウイチをどうにかなだめる。
そうしていよいよ城を目の前に捉える小高い丘で一旦休憩した。
不思議なことにこれまで城の道中にあったはずの魔法のトラップが一切なかった。
そのため道中は感知魔法が得意なものが気張っていたため、一旦休む必要ができた。
全員が腰を落ち着かせ気を抜いたその時に突如として城から砲弾が飛んできた。
「固有スキル『闘火斬』」
シュウイチはすぐさま剣を振りかぶるとシュウイチの攻撃で砲弾が私たちに到達する前に砕け散って爆発する。
周りの騎士たちは賞賛と同時に警戒を始めた。
「へぇーやる~!」
ばかみたいに大きな声が聞こえたのでその方角を向くと黒いマントを羽織っている男が宙に浮かんでいた。
「あなたは一体何ですか?」
シュウイチは剣を構えながら尋ねる。
同時に私たちに戦闘態勢の指示を出した。
「はぁあああああ、バカじゃねえの?ここで俺を見て誰だか分かんない訳ぇ~」
「そのセリフだけで分かりますが、とりあえず尋ねます。あなたが魔王ですね?」
「正解~。よくできたなあ、ほめてやるよ」
魔王は心底私たちをバカにしながら腹を抱えて大笑いをする。
「俺は魔王『色欲』を担当する一条蓮弥様だよ。今まで小賢しいちょっかいを出しやがって。ここで俺が潰してやるよ!」
「あの男を見ていると栗原さんに似ていて腹が立ってきます」
シュウイチはそんなことを言うけど似ていないと思うけど。
けど、あれが魔王?
見た感じ私が知っている魔族の外見とは全然違うというか…むしろ修一たちと同じ黒髪に黒目だし人族に似ている気がする。
「僕は剣の勇者、加山―」
「ああ、はいはい。お前なんかどうでもいいんだよ。それよりも良い女がいっぱいいるじゃねえか」
魔王は舌なめずりをしながら私たちを順々に眺める。
鳥肌が立つほど気色悪かった。
「どうやら成敗するしかないようですね」
「成敗?できるもんならやってみろよ!俺に勝てるもんならなぁ!」
「あなた、自分の状況が分かっていないようですね?この状況であなたが勝てると思っているのですか?」
自信に満ちた表情で魔王は言い放つ。
「ここにいるのは高レベルの騎士たちばかりですよ」
「そう思って勝てるならやってみな!」
魔王は地面に降りると足で地面を叩く。
その直後私たちの周りに多くの魔法陣が出現する。
その魔法陣が輝いたかと思ったと同時に周りに多くの魔物に囲まれていた。
しかも、ただの魔物ではないみたい。
全身が赤く腫れたように真っ赤に染まり、焦点が合っていないような感じだ。
「敵に囲んだと思って自分たちが逆に囲まれていることに気づかないとかバカじゃねえの?わざわざ道中のトラップ解除しておいてこの開けた場所に誘い込んだのはすべて俺の作戦って訳。ちょ~、天才だろ?」
「この程度の魔物でやられると思っているんですか!舐めないでください!固有スキル『隼太刀』」
シュウイチのスキルが近くにいたゴブリンに放つ。
ゴブリンはその斬撃を避けもせずに受け止める。
「そんな!?」
シュウイチの一番弱いスキルとは言え、ゴブリン程度では死んでしまうはずなのにゴブリンの体には切込みが入るどころか傷が全くつかない。
「ギャハハハハハハ!どうしたんだよ、剣の勇者様よぉ!」
「いったいどんな手を使った!」
魔王は笑い声を上げながらシュウイチを指して言い放つ。
「せっかく異世界に転生したのにチートを持ってないはずねえだろ?こいつらは俺の魔王スキル『融合』を使って色んなもんと組み合わせて作ったんだよ。まぁ、このゴブリンは獣人族のガキをくっつけただけで融合の上限に達しちまったけどな」
「なんてことをする!それに何が融合だ!卑劣なチートを使って」
「そうだよ!これはチートスキルだ!このスキルで俺は世界中の女を手に入れんだよ!俺が最強!俺がこの物語の主人公なんだよ!ラノベでもあるだろ?魔王がチートスキルを使って無双するのが」
さっきからこの魔王が何を言っているのか分からない。
チート?転生?ラノベ?
でも、シュウイチは理解しているようで憎らし気に魔王に視線を送る。
「わざわざ罠にはまってこんな開けた場所に来たことを後悔しな。安心しろ、女は俺がもらってやる。まぁ、飽きるまでは楽しんでやるよ」
「僕はあなたには負けません!」
シュウイチは剣をさらに強く握りしめると魔王と間合いを計る。
「俺がお前を潰すのにただで来ると思ってんのか?」
「何を―、ごふっ」
シュウイチは口から血を吐いてしまう。
「なに、が」
シュウイチは後ろから剣で貫いている相手を見る。
私も頭の理解が追い付かない。
バルバラがシュウイチの胸を後ろから剣で突き立てていた。
「ば、バルバラ!」
レレイの声でようやく理解が追い付く。
ジュリエッタは剣を抜くとバルバラに切りかかるが、避けられてしまう。
そのままバルバラは魔王の元へ下がる。
「よくやった」
「はい、ありがとうございます」
魔王の言葉にバルバラ頷き、首を垂れる。
「エミリア!シュウの治療を!早く!」
「う、うん」
急いで治療をシュウイチに施す。
シュウイチの肉体ダメージ軽減スキルのおかげか傷は深いけど、命には問題ないようだった。
「どう、して」
「裏切ったか?」
魔王は含み笑いをしながらシュウイチを見下ろす。
「この異世界で現代知識を使って無双するのなんて当然誰しも考えるだろ?俺は魔王だ、魔王にとって邪魔なのは勇者。なら、勇者を早めに排除するには初めから勇者を殺せるようにしておく必要がある。だったらその勇者の仲間に部下を忍ばせておけば簡単に殺せる。まぁ、スキルで殺せなかったようだが」
シュウイチは立ち上がろうとするが、私は必死に止める。
今ここで動いたら絶対にシュウイチは死んでしまう。
シュウイチもそれを分かっているのか抵抗がいつもよりもない。
「まぁ、ここで俺が直々に殺してやるよ!」
「スキル『瞬身』」
魔王の攻撃が飛んでくるが、それを間一髪のところでシュウイチは避ける。
「このままでは負ける……」
シュウイチのつぶやきに私は気分が重くなっていく。
ここで殺される、そんな恐怖が大きくなっていく。
「ここは私たちに任せて早く逃げてください!」
私たちの前に騎士の人たちが立つ。
「おいおい、俺から逃げられると思ってんのか?」
「ここであなたを失えば完全に敗北です。しかし生きてさえいれば…」
私たちに言っていた騎士の人はその言葉を続ける前に下半身だけ残して吹き飛んでしまった。
返り血がべっとりと私たちに降り注ぐ。
私は全身が震えているのが分かった。
思わずシュウイチに抱きつきそうになったのでシュウイチを見ると
「あ、ありえない。こんなの、ありえない。嘘だ、こんなの嘘だああああああ」
シュウイチは青ざめた表情でそう言うとそのまま剣を振り回しながら逃げていく。
「ギャハハハハハハ。なんだよあれ?ダッサー」
魔王は腹を抱えて笑い始める。
「早くあなたたちも逃げてください!」
もう一人の騎士の人がやって来て私たちを逃がそうとする。
「でも―」
「今回の戦いは私たちの負けです!しかし、皆さんと勇者カヤマが生きていればあの魔王を倒すことがきっとできます」
「けど、ここで逃げたらあなたたちは…」
「死ぬでしょう」
「だったら―」
「ですが、ここで逃げては騎士の名折れです!勇者カヤマはきっとこれからも多くの人々を救います。ここで私たちが生き延びるのと勇者とその一行が生き残るのなら絶対に後者が世界のためです!それに聞きました。勇者様たちは奴隷を解放しようと努力していると」
「それは…」
確かに一度解放しようと努力した。
けど、できなくて諦めてしまった。
「私も元奴隷の身分です。功績を立てたために平民の身分になれましたが、私は奴隷の地獄を知っています。ぜひ、勇者カヤマと共に同胞たちをお救い下さい」
「さぁ、早く!」
私たちは他の騎士の人に連れられ、戦線を離脱した。
魔王の追撃を騎士の人たちが必死になって食い止めたことで私たちは命からがら獣人族の国に戻れた。




