事実
「加山はどこにいる!」
「い、今は王国の王城に行っています」
俺が加山邸に突入するとエミリアを見つけて尋ねた。
あの野郎、帰ってきたらとことん問い詰めてやる。
「えっと、もしかして魔王討伐の件ですか?」
「魔王なんてどうでもいい。それよりもそうだな、お前らの仲間で獣人族の確かジュリエッタって言ったか?そいつに少し聞きたいことがある。そいつは今どこにいる?」
「ジュリエッタなら屋敷の中にいますが、彼女に何か用ですか?」
「いいから、連れてこい!連れてこれないなら壁をぶち破ってでも連れ出すが!」
「わ、分かりましたからやめてください!」
客間に案内されて座って待っているとジュリエッタがやってきた。
「なんなの?あたしに何か用?」
「お前に少し聞きたい。獣人族の間にカーストが存在するのをお前は知っているのか?」
「そんなの当然でしょ。あたしだって奴隷の身分だったし」
「なら、加山がカーストが存在することを知っていながら放置しているのも本当か?」
「別に放置しているわけじゃないわよ!シュウはちゃんと止めさせようとしたわよ。でも、できなかっただけよ」
「どうしてできない。この国で加山は特別な扱いを受けているんだろ?」
魔獣から獣人族を救った加山は人族でありながらこの国でも良い待遇を受けていると昨日の夕食時に話していたのを覚えている。
「いくらシュウが頑張ってもこの国の奴隷制度は根が深いのよ。この国ではあまりにも王族と貴族階級の権利が強いうえ、どう行動しても先に潰されてしまうのよ」
「奴隷階級の奴らは反抗しないのか?」
「奴隷紋には主人に絶対服従、逆らえば死ぬように命じている者だっているわ。たとえ、奴隷階級の人が多くてもそのほとんどの人が主人が王族であったり、貴族だったりするのよ」
ジュリエッタは悔しそうにする。
その姿を見ていると何も言えなくなってしまう。
「あたしだってどうにかしたいけど、無理なものは無理よ」
「まさかとは思うが、魔王に献上されている人っていうのも…」
「予想通りよ。市民階級の人の代わりに奴隷階級の人がほとんど送られているわ」
やはりそうか。
クソッたれな国だな、ここは。
「あなた、人族地域の方で出会った獣人族の子を探しているってリアから聞いたわよ」
「知っているのか!?犬の耳を持った女の子で―」
「落ち着いて」
つい焦って身を乗り出してしまった。
でも、ようやく情報を―
「最初に言っておくけど、あたしは知らないわよ」
「……そうか」
やっぱり見つからないか。
どうしたら見つけられるのだろうか。
「たぶんだけど、その子のことはいくら探してもきっと見つからないわよ」
「どうして!」
ふざけるな!
それではあの子に顔向けできない。
あの子をことさえまとも助けられなかったのに、せめて名前だけでもと思っているんだ。
諦められるか!
「たぶんその子売られたわよ」
「はあ?」
売る?
なんだそれ?
何を言っている?
「通常、奴隷階級の獣人族の中では貴族の奴隷になることが多いわ。けどね、特にお金に困っている人だと人族に自分の子供売る家庭があるのよ。特に奴隷階級の人だと余計にお金に困っているから売ることがよくあるわ」
「ちょっと待て!自分の子供売るだと。いくらなんでもそれは―」
「ないと思う?あるのよ。あたしだって実の親に売られたんだから」
歪んでいる。
この国は何もかもが歪んでいる。
「あたしの両親は市民階級だったけど貧困でね。あたしの下にも弟と妹が4人いたわ。一生懸命働いていたけど、それでも足りなくなってね。結局、あたしが売られたわ」
「……」
「でも、あたしの場合はまだまともよ。だって、売られた先は戦闘奴隷として売られただけだもの。あたしを売った両親のせめてもの情でしょうね。戦闘奴隷なら暴力や強姦を受けることはないから」
自虐的に述べていく。
その言葉に俺は何も返せなかった。
いや、なんて言ったらいいか分からなかった。
家族のために売られる、そんな事実にどう言ったらいいんだよ。
「あなたが見つけたその子相当ひどい仕打ちを受けていたって聞いたわ」
「ああ」
あの時のことは今思い出しても胸が締め付けられる。
「そういう子は特に貧しい家庭でよく送られるところよ。そういう子は戸籍はおろか存在自体抹消されることがあるわ。後でのたれ死んでも迷惑にならないように」
「嘘だろ?」
いくらなんでもあんまりすぎる。
それじゃあ、あの子は何のために生きていたんだよ……
「嘘じゃないわ。だから、最初から探そうとしたって無駄よ。だってもうこの世からは存在自体が消されているんだもの」
「!!」
存在が消されている。
俺があそこで見つけた少女を含むあの子たちは誰にも認識されず、死んでいく。
そんなの可哀想すぎるだろ。
俺はやるせない気分になっていく。
「あたしは売られたときにシュウに拾ってもらえたから今こうして生きている。だから、あたしはシュウに感謝してもしきれない」
「…そうか。それは、良かったな」
「あなたのことは最初会った時、最低な人間だと思っていたわ。シュウからあなたのことを聞いていたし」
そんなの知っている。
自分が最低な人間だってことくらい。
あの子を見捨てた時点で最低な人間に成り下がったことくらい知っている。
「でも、あたしの境遇やこの国の奴隷の在り方を聞いてそんな顔をされるとさすがのあたしも考えを改めさせられるんだけど」
「俺のことなんかどうでもいい」
俺はしばらくその場から動けなかった。
あの子のことが一生分からなくなってしまったことと等しいことに対してどう対処すればいいかが分からなかった。
「そんなに落ち込むなよ」
「頼む。少し一人にしてくれないか?」
「分かったよ。あんまりに気にするなよ」
ジュリエッタはため息をつくと俺にお茶を用意してくれたりした。
加山が帰ってきて動かなければいけなくなったから加山に会いに行ったが、その間もジュリエッタにずいぶんと心配された。
たぶんひどい顔をしながら考えていたからだと思う。
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